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社長が「日本一」を連呼する企業は危ない

プレジデントオンライン / 2019年3月18日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/basiczto)

伸びない企業のリーダーは、どこに問題があるのか。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「ダメなリーダーは『業界最高水準』や『日本一』と空疎な目標をぶちあげがち。社員はそれに対して『頑張ります』と不毛な言葉を口にしている」という――。

■「具体的な目標を立てる」が上手な社長下手な社長

私は、現在、6社の社外役員と5社の顧問をしており、経営の意思決定にしばしば立ち会います。そうした目標設定や意思決定のプロセスでは、経営者や管理職といった「リーダー」の実力が怖いほどに浮き彫りとなるのです。どういうことか、ご説明しましょう。

会社全体の目標を立てる場合も、部門の目標を立てる場合も、そのベースになるのは「目的」です。つまり、組織の存在意義。会社によっては、「ミッション」や「ビジョン」「理念」と呼ぶ場合もあります。

「自社製品を通じて社会に貢献する」
「働く人の身心ともの幸福を実現する」

例に出した「目的」の中身を「ずいぶんぼんやりしている」と感じる方もいるかもしれません。具体性に欠けている、と。でも、具体性は、後述する「目標」の中へ盛り込めばいい。まず目標設定の前に、「目的」を立てることが極めて重要なのです。でも、残念ながらこの目的や使命の大切さがわからず、ないがしろにする経営者や管理職が少なくありません。それではリーダー失格というのが、私の率直な感想です。

大きな方向性である「目的」を設定した後に、それを元にして「目標」を設定にします。こちらは「いつまでに、どういう状態になっているか」といったように具体的であることが求められます。ところが、ダメなリーダーは、肝心要のこの目標がぼやっとしていることがよくあります。

■「業界最高水準の品質を目指す」「業界で日本一を目指す」

社外役員・顧問としての活動を含め、私はたくさんの会議に出席します。その時、よく目にするのが、「業界最高水準の品質を目指す」「業界で日本一を目指す」といった威勢のいい表現の経営計画です。私はその際に、必ず「業界最高水準」や「日本一」というのは、具体的にどういう状態になった時にそれをいうのか、と質問します。また、いつまでにそれを実現するのか、その達成度合いを測定するためのKPI(Key Performance Index;具体的な指標)は何か、ということもお尋ねします。

明確なゴールイメージやその到達時期だけでなく、同時に適切な中間指標がないと目標はなかなか達成できないものです。そうでなければ、ただ「頑張る」というのと同じです。上司は「ぜひ頑張ってください」と言い、部下は「はい、頑張ります」と答える。そんな漠然とした、緩い環境では何も前には進みません。

■「頑張れ」「頑張ります」の不毛なやりとりを延々と続ける

この目標設定こそリーダーの腕の見せ所です。成功するリーダーは中間目標も含めて、具体化の上手な人であり、リーダーがそうした意識の持ち主であれば、その考え方は自然に部下に浸透するはずです。

「業界最高水準」や「日本一」だけでなく、「目標」設定の際に落とし穴となる「空疎」な言葉は他にもあります。例えば、「○○の仕事の人員の充実を図る」や「教育の強化を促進していく」といったフレーズ。こちらも具体性が完全に抜け落ちています。

具体的に何人をいつまでに増やすのか。どのようにして社員の教育を強化しそのレベルを上げるのか、それをどう測定するのか。具体的なゴールイメージが何なのかを明確にしなければ、「頑張れ」「頑張ります」の不毛なやりとりを延々と続けることになります。

ただ、こうした具体的な目標の設定がない場合でも、最終的な目標は売上高や利益ということになりますから、分かりやすい売上高や利益だけが目標として目立ち、場合によってはそれが「目的化」することになるのです。

そうなると、「3日で120億円の利益を出せ」というような、一時期の東芝のように無理難題を現場や末端に命令するだけの殺伐とした組織になり果ててしまうリスクが高いのです。こうした企業は、働く人の意欲をそぎ、その末路は火を見るより明らかです。

実は、計画や目標の立て方次第で、会社の雰囲気や目指すものが変わります。また、どこまで目標を掘り下げて具体化しているかで、リーダーの実力や、次に説明する論理的思考力が見えてくるのです。適切な「数字」に落とし込んでいるかどうか。そこがポイントです。

■論理的思考力のない人にリーダーは務まらない

私は、経営者やリーダーの実力を判断する際に、その組織が大きいか小さいかにかかわらず、そのリーダーが自らの手のひらの上で組織を動かし、把握し、コントロールできているかを見極めます。自分で事業の全体像をきちんと把握し、ガバナンスできているかどうか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/stockstudioX)

もちろんリーダーの能力や器量によって、動かせる組織の大きさは違いますが、把握する力やコントロールする能力が一定程度ない人にはリーダーは務まりません。

会社が懸命に経営計画を立てて実行しても、経済事情など外部環境の変化などにより思った通りにいかないことも少なくありません。どんな名経営者でも外部環境の変化をコントロールすることはできません。しかし、リーダーが計画通りにいかない要因をきちんと分析・理解し、その他に想定外の事案やトラブルが起こるのを最小限にすることが重要なのです。

そのためには、前述の「具体化」することとも大いに関連するのですが、リーダーに「論理的思考力」が一定程度以上備わっていることが必要です。

■「総務部長が立てるような計画」を平然とぶちあげる社長

計画策定においては、特に論理的にものごとを考えることが大切です。今後起こることを想像するのも、結局は、論理の積み重ねです。論理的思考力の乏しい人には、適切な想像や想定ができにくいものです。

また、リーダーには論理的思考力により導きだした結論の根拠や背景をきちんと理解し、説明する能力も必要です。「上司に言われたから、こういう目標になっている」や、「(目標設定の数字は)昨年度からの成り行き」というような企業では、株主や社員は納得しないでしょう。

昨年度までの延長線上の計画を立てるのを、私はよく「総務部長が立てるような計画」と揶揄します。それは、本来のリーダーが立てる計画ではありません。むちゃをするのは避けるべきですが、「挑戦」の姿勢を示さないリーダーの存在意義は小さく、そんな人ならいなくてもいい。

論理的思考でリスクをち密に計算しながら新しいチャレンジすることを考え、具体的な計画に落とし込む。それこそが、デキるリーダーのあり方ではないでしょうか。

■自分自身に考えがなく「衆知を集める」だけの経営の盲点

もうひとつ、私が、リーダーが経営計画のプレゼンテーションなどを行う際に注意して見ているのは、リーダー自身に「自分の考え」があるかどうかということです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/HAKINMHAN)

「衆知を集める」ということはとても大切ですが、自分の考え方や仮説を持たずに、部下の考え方を単に寄せ集め、それで結論を出すのは、部下のアイデアの「ピンハネ」をしているのも同然です。自分自身でも仮説を持ち、さらに、部下の考えを判断するしっかりした考え方を持たなければならないのです。

そんな存在となるために、リーダーは普段から「勉強する」ことが大切です。中国の古典や松下幸之助さん、稲盛和夫さんなどの、長い間多くの人から支持され、本当の意味で成功された経営者やリーダーが書かれた本を何度も読むなどして、自分のバックボーンを作らなければ、自分自身の意見の形成や部下の意見の判断もできません。まさに「学ぶにしかず」なのです。

もちろん、リーダーの考え方であっても、部下の考え方であってもしょせんそれらは「仮説」でしかありません。しかし、原理原則をきちんと学んでいる人の仮説と、単なる思いつきで話す人の仮説では、その精度が明らかに違います。

いずれにしてもリーダーに求められることは、目的に基づく具体化な目標を策定し、論理的にその結論を導き出し、挑戦すること。言うはやすし、ですが、普段からリーダーがその意識を持ち、勉強と修練を続ければ、そのプロセスの内容や精度が高まり、ひいては事業成績の確率も高まるのです。

(経営コンサルタント 小宮 一慶 写真=iStock.com)

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