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難関中が入試で"貧困問題"をよく出すワケ

プレジデントオンライン / 2019年3月17日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/AlexLMX)

筑駒、雙葉、聖光学院、学習院中等科、東洋英和女学院……。こうした名門私立・国立中学の入試問題で、貧困や格差をテーマにした出題が増えている。中学受験指導塾代表の矢野耕平氏は、「受験生の家庭は高所得であることが多いため、学校側は社会問題を考えられる子の視野の広さをみているのだろう」という――。

■中学入試の国語・社会で「格差問題」が頻出している

中学受験の世界で「時事問題」という表現がよく用いられる。そのときの時勢で話題になっているニュースを題材とした入試問題のことだ。2019年度の中学入試の時事問題でよく見られたのは「貧困問題」や「格差問題」である。

たとえば田園調布学園中学校と法政大学第二中学校の「社会」では、以下のような問題が出た。

《田園調布学園中学校(2019年度・第1回)社会入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)次の条文は日本国憲法の一部です。次の□□□□に入る語句を漢字四字で答えなさい。

第25条 すべて国民は、健康で文化的な□□□□の生活を営む権利を有する。

(正解)最低限度
《法政大学第二中学校(2019年度・第1回)社会入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)説明文中に「どんな人でも尊重されて幸せに生きられる」とありますが、経済的に生活が困窮した人が、国や地方自治体から日常生活に必要な金銭などを受け取ることができる制度は何か、漢字で答えなさい。

(正解)公的扶助(生活保護)

■聖光学院、雙葉、筑波大付属駒場といった難関校でも

小学生の受験生に対して、憲法の生存権や、現代のセーフティーネットに関する重要語句を知っているかどうかを確かめているのだ。このほか聖光学院、雙葉、筑波大付属駒場といった難関校でも社会で次のような問題が出された。

《聖光学院中学校(2019年度・第1回)社会入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)戦争や自然災害、貧困などのために住む家がなく、路上で物売りや物乞いなどをしながら生活している子どもたちがいます。こうした子どもたちのことを「○○○○○チルドレン」といいます。○○○○○にあてはまる語を、カタカナ5字で答えなさい。

(正解)ストリート(チルドレン)
《雙葉中学校(2019年度)社会入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)世界には、重い労働をさせられている子どもや、紛争に巻き込まれて兵士になる子どもなど、厳しい状況に置かれている子どもが多くいます。世界のすべての子どもたちを守るために、国際連合の総会で1989年に採択された条約は何ですか。

(正解)子どもの権利条約
《筑波大学駒場中学校(2019年度)社会入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)難民に関連してのべた文として正しいものを、次の中から二つ選び答えなさい。

ア 難民を保護するために、国際連合の加盟国は、助けを求めて自国に来るすべての人びとを受け入れる義務がある。
イ イスラエルとパキスタンとの間では領土の主張などをめぐって争いが続き、多くの難民が発生した。
ウ 近年、「ロヒンギャ」とよばれる人びとがミャンマーで迫害を受けて国外に逃れたことで多くの難民が発生した。
エ 近年、シリアから逃れた人びとの多くは、政府が難民を積極的に受け入れているブラジルに渡っている。
オ 「国境なき医師団」などのNGO(非政府組織)は、感染症の予防、安全な水の確保などをして難民を助けている。

(正解)ウ、オ

■「国語」でも「貧困」「格差」問題が頻出した

そして、この傾向は社会だけではない。国語でも同じだ。学習院中等科では、格差社会を論じた書籍(鬼丸昌也『平和をつくるを仕事にする』ちくまプリマー新書)を題材にした読解問題が出た。

《学習院中等科(2019年度・第1回)国語入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)文中の「平和をつくる仕事」として当てはまらないものを次からすべて選び、記号で答えなさい。

ア どんな物が使われているかを調べ、買うものを決めること。
イ 貧しい国から資源を買ってあげ、商品を作っていくこと。
ウ 自分にとって本当の幸せな生活とは何なのか考えること。
エ 自分のところにある多様なエネルギー資源を利用すること。
オ 大量の商品やサービスを創り出し、他の国に売り出すこと。

(正解)イ、オ

東洋英和女学院では河川敷のホームレスと少年の交流を描いた小説(ドリアン助川『多摩川物語』ポプラ文庫収録の「台風のあとで」)から出題があった。なお、この本は昨年度の市川中学校でも取り上げられている。

ドリアン助川『多摩川物語』ポプラ文庫
《東洋英和女学院中学部(2019年度・A日程)国語入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)文中「バンさんは雅之くんにすぐ気づいた。手招きをして、『おーい』と声をかけてきた。そしてまわりのホームレスの人たちに『友達だ』と紹介し、歯を見せて笑った」とありますが、ここからバンさんはどのような人柄だとわかりますか。あてはまるものを次のア~カの中から2つ選び記号で答えなさい。

ア 口べたで誠実な人柄。 イ 不まじめでだらしない人柄。 ウ 器用でねばり強い人柄。
エ 率直でおおらかな人柄。 オ 強引で勝手な事柄。 カ わけへだてのない気さくな人柄。

(正解)エ、カ

高輪では是枝裕和『万引き家族』(宝島社)から読解問題が出た。

是枝裕和『万引き家族』(宝島社)
《高輪中学校(2019年度・A日程)国語入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)文中「泣きたくても泣けない」・「見えすいた嘘をついてきた」とありますが、これらのことから、実の家族の中でりんが置かれていた様子を、30字以内で答えなさい。

(正解例)母親に折檻されることを恐れ、本心を打ち明けられない様子。

上記は一例にすぎない。ここ数年、中学入試の国語・社会では「貧困問題」「格差問題」が出題のトレンドとなっている感がある。いったいどうしてだろうか。

■私立中学が裕福な家庭に子どもたちに問いかけるもの

わたしは約25年、中学受験を志す小学生たちの指導をおこなっている。受験指導を通じて、子どもたちの熟達を実感できるやりがいのある仕事であると誇りに思っている。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/RichLegg)

一方で、ある種の後ろめたさを抱くこともある。中学受験生の家庭の多くは「富裕層」や「高収入層」であり、わたしが受験指導をおこない名門の私立中高一貫校に送り込むことで、結果的に格差や階層の再生産に手を貸しているような気持ちになることもあるからだ。おそらく私立中高一貫校の教員も同じように感じているだろう。だから、中学入試問題で先述したような貧困や格差をテーマとした出題をするのではないか。

「富裕層」「高収入層」に家庭に生まれ育った中学受験生たちには、社会の中でいろいろな立場に置かれている人間たち、社会の底で苦しんでいる人たちに目配りできる「視野の広さ」を持っていてほしいという願いがそこにあるにちがいない。

■恵まれた環境にいるからこそ「社会の底辺」に目配りしてほしい

厚生労働省発表による「子どもの相対的貧困率」(17歳以下の子ども、2015年度)は13.9%に上る。

これは、いまの日本の子どもたちの約7人に1人は貧困状態にあるという衝撃的なデータであり、大人たちのみならず、子どもたちにも決して目をそらさず深く考えてほしい社会問題だ。

実際、わたしが中学受験勉強に励む子どもたちを観察していると、他者をおもんぱかれる言動を取れるタイプの子はおおむね高い国語読解力を有している。なぜなら、物語(小説)をしっかりと読みこなすためには、いまの自分とは異なる「民族」「国籍」「年齢」「性別」「家族構成」「信仰」「生活習慣」などに属する他者(主人公や登場人物)の視座に立つことで、その心情変化などを丁寧に読み解いていく能力が求められるからだ。

もちろん、子どもたちが受験に合格するために、国語読解力を向上させ、広い視野を持つべきなどと即物的な価値観を押し付けたいわけではない。中学受験生たちには自らが「恵まれた環境」に置かれていることを自覚するとともに、日々謙虚に学んでいってほしい。そして、将来的にさまざまな立場、境遇の人たちに目配りできる人間として成長してほしい。わたしが願うのはこういうことだ。

■新作映画『こどもしょくどう』を中学受験生は鑑賞せよ!

先日わたしは映画『こどもしょくどう』のマスコミ試写会に参加した。実写版『火垂るの墓』が話題になった日向寺太郎監督による新作映画である。

(画像=映画『こどもしょくどう』のウェブページより)

映画を鑑賞した直後の余韻に浸りながら、わたしが真っ先に思ったのは、この映画こそ中学受験に臨む親子にぜひとも鑑賞してほしいということだ。

この映画のテーマは「貧困」だ。物語は子どもたちの目線で進行していくため、主人公たちの葛藤や悩み、苦しみは、同年代の子たちにリアリティをもって伝わるはずだ。

主人公は、決して裕福ではないが、食堂を営む両親の愛情に包まれて暮らしている高野ユウト。物語は、母親のネグレクトに日々晒されている友人・大山タカシとのかかわりを静かに伝えていく。

急展開を見せるのは、河原に停められた車で生活をしている木下ミチル・木下ヒカル姉妹との出会いだ。姉妹とのやり取りに戸惑いを覚えつつも、彼女たちを何とかしたいという強い思いがユウトを動かすことになる。

困窮を極めた木下姉妹に対して、表面的なことばで事態を収拾しようとする父親にユウトはこんなことばを投げつける。

「何もしてくれなかったじゃん! いつも見ているだけだろ!」

このことばは父親だけに突きつけたものではない。これまでのユウト自身にも、そして、わたしたちにも向けられた痛烈なメッセージである。映画を鑑賞する子どもたちは、このことばをそれぞれどう受けとめるのだろうか。映画がクライマックスを迎える折、親は子の表情がどのように変化したのかをそっと観察してやってほしいと思う。

■春休みに親子で映画を見て筆者の「出題」に答えてほしい

映画を鑑賞したあとは親子で感想を交換し合ってほしい。そんな親の働きかけこそが、子の社会的視野を広げる好機になると確信している。

加えて、この映画を鑑賞したみなさんに中学受験塾講師として1つの問題を出題してみたい。親子で話し合える材料の1つになるはずだ。

《(問)警察署で事情をきかれたあと、これから保護所に送られるだろう木下姉妹。車に乗り込む間際に振り向いて高野ユウトを見つめる木下ミチル、そして、何も言わずにミチルを見つめるユウト。この2人の心情を80~100字以内でそれぞれ答えなさい。なお、ユウトの心情については、このあと彼がとった行動も参考にすること》

ミチルとユウトは互いにことばを発せず、心の中でどんなことばを交わしたのだろうか。それを考えることが、現代に横たわる貧困や格差を考える端緒となるはずだ。

(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平 写真=iStock.com)

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