"iPhone無料"を鵜呑みにすると後悔する
プレジデントオンライン / 2019年3月27日 9時15分
■ITジャーナリストの眼でハガキを丸裸に
消費生活を行うにあたり、私たちの周りにはさまざまな情報があふれており、スーパーのチラシからWEB上の広告まで、膨大な情報の中から取捨していく必要があります。
基本的に、広告は自社サービス・商品の優位性をアピールするもので、消費者は広告の内容を疑いません。
しかし、内容を鵜呑みにする前に立ち止まる必要がある広告も存在します。家電量販店から送られてくる「iPhone無料交換」ハガキは、その典型です。ここではノジマの例をご紹介します。
使用中のスマホをiPhone8に無料交換できる旨が大きく書かれており、非常に魅力的ですが、ハガキの下5分の1ほどには小さい文字で注意書きがビッシリと書かれています。携帯電話は食品などとは違い、契約が伴う商品。どんな条件なのか、注視する必要があります。
まず気にしなければならないのは、ハガキ中ほどに(機種代金 実質0円)と書かれている点。この場合の“実質0円”とは、「分割の端末代金と同額の割引がかかった状態」を指します。そのため、実際には分割で端末代金を支払う契約である可能性があります。
次に、現在使用中の携帯会社について指定がないこと。言うまでもなく、3キャリアは別の会社ですから、同一条件のキャンペーンや施策を行っている可能性は低いです。「とりあえず来店させてしまおう」という意図を持って作られた広告の可能性があります。
また、“現在利用中の機種を下取りする場合がある”という点もチェックすべきポイントです。下取り価格はその端末価値に左右されるため「無料になるのは下取り価格が高額に設定された最新端末を下取りした場合のみです」と案内されるかもしれません。
そして最後に、「キャリア変更及びインターネット回線の変更が条件となる場合があります」との記述。キャリア間の変更とは、番号をそのまま他社へ乗り換えるMNP契約のこと。MNP契約やインターネット回線を乗り換える際は適用できる施策や補助金も多く、これを端末代に充当している可能性が高いです。
ですがMNP契約は現在の会社を解約して新規にキャリアと契約するものであり、メールアドレスや端末データの移行が必要になる、ハードルの高い購入方法です。MNP契約が条件になるのであれば、ハガキに明記したほうが誠実だといえるでしょう。
■最強の“情弱”が、店舗へ潜入取材!
では、このハガキを持って店舗へ行くとどうなるのでしょうか? 今回はITジャーナリストとしての素性を隠し、“何も知らないソフトバンクユーザーのおじさん”を装って実際に店舗へ行き検証してみることにしました。
店員さんに促されテーブルへ座ると、やはり勧められたのはMNP契約。auへののりかえでiPhone8を買うことを勧められました。果たして、本当に無料になるのでしょうか?
詳細を店員さんに尋ねると、「端末購入オプションである“アップグレードプログラムEX”に加入したうえで、iPhone8を48回分割で購入し、24カ月目で機種変更をすれば無料」という回答でした。
アップグレードプログラムEXとは、48回分割で機種を購入した際、24カ月で機種変更を行うと残りの分割支払いが免除になる施策です。これによって、端末代金の半分が免除になる、という説明でした。
ですが、このアップグレードプログラムには「機種変更すると、端末が回収されてしまう」というデメリットがあるうえに、機種変更を行わないとこの施策のメリットを受けることはできません。2年後に再び機種変更を行う必要があるわけですが、機種変更では大きな割引施策は付きづらいため、基本的に定価で機種変更をする必要があります。その点については一切触れておらず、説明不足な印象を受けました。
また、端末代金のもう半分は“端末購入サポート”という割引であることに留意する必要もあります。この割引によって端末代金は半分になるものの、この割引には13カ月以内の解約には違約金がかかります。ですが、その説明もありませんでした。
確かに無料には間違いありませんが、それは指定された方法に従う場合。
事実上今後の運用に制約を受ける契約方法を十分な説明なく促すのは、あまり誠実とはいえません。
そして特筆すべきは、店員さんが“キャンペーン”だと言ったこれらの施策はすべてau公式の施策です。つまり、ノジマ側の割引は一切入っておらず、どのショップでも同様の契約が可能。ノジマでは事実上の手数料である頭金もしくは独自オプションへの加入を設定しており、手数料と頭金のかからないauオンラインショップよりも高くなります。ハガキを見てお得を期待すると、痛い目に遭いそうです。
実は、このとき私が持っていたハガキは期限切れのものだったのですが、案内を断られるどころか、ハガキの期限を確認されることすらありませんでした。つまり、このハガキは来店を促すための単なる撒き餌で、実際は誰でも同条件で契約が可能ということです。
後日、編集部からノジマへ販売方法の指導内容についての質問状を送付しましたが、「本来提示する施策は別のものであったが、案内したスタッフのヒアリングが不足しており、本来のご案内ができずにご迷惑をおかけした」旨と、そのとき案内した店舗スタッフ1人の責任だという回答でした。
ノジマは東証一部上場の企業ですが、今回のハガキで行える買い物は、決してお得なものではありませんでした。企業の大きさやネームバリューに惑わされず、冷静に考える癖をつけたほうがよいでしょう。
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ITジャーナリスト
ITセキュリティやスマートフォン業界に精通するITジャーナリスト。守備範囲はウイルスからネット炎上まで多岐にわたる。
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(ITジャーナリスト 三上 洋 写真=iStock.com)
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