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人気のパチンコ台が駆使する脳科学の教え

プレジデントオンライン / 2019年5月26日 11時15分

■激アツのリーチがかかるだけで「ドーパミン」は出る

熱中する、ハマる、というイメージの強いパチンコですが、なぜ人はパチンコにハマるのでしょうか?

その前に、今のパチンコの遊び方を簡単に説明しておきましょう。

まず、玉を弾いて盤面中央にあるスタートチャッカーを狙います。ここに玉が入るとデジタルが変動し、数字が3つ揃えば大当たり。たくさん玉が払い出されます。

ですが現行のパチンコは大当たり確率300分の1前後が主流です。ただ大当たりを待つには退屈すぎます。

そこでメーカーは人気アニメや漫画とタイアップしてデジタルを液晶化し「味方が勝てば大当たり」といったリーチ演出を付け、さらに「アニメの名場面が流れたら該当変動の大当たり期待値が上昇」といった予告を出すことで、大当たりまでの間を持たせており、高期待値のリーチ演出はユーザーの間で“激アツ”と呼ばれています。

大当たりの際には、興奮物質のドーパミンが脳内で放出されます。人気のあるパチンコ機種は、ユーザーの脳にドーパミンを放出させる仕掛けが優秀なんです。

ドーパミンは、報酬や快感が得られた瞬間にのみ放出されるものだと思われがちです。パチンコを例にすると、大当たりの瞬間。ですが実は、そうではないのです。

ドーパミン神経系は、報酬予測でも働くことがわかっています。つまり、「このリーチは当たりそうだぞ」と期待した段階でもドーパミンが放出されているということ。

つまり大当たりの価値は同じでも、見せ方次第ではドーパミンの総量を多くし、より脳に残る、多幸感を与えるようにできるのです。

「北斗無双」の最高期待値のリーチ“運命の女”は60%程度となっており、絶妙な設定といえる。

もっとも、ドーパミンの総量が多くなるのは期待値が概ね50%から75%の間です。2016年にヒットし、今なお現役の人気機種「真・北斗無双」(サミー)でも、最も期待値の高いリーチはこの数値になっています。

また北斗無双は報酬予測が容易だったことも人気の原因でしょう。人間の脳が処理できる情報の塊(チャンク)は3つか4つなのですが、北斗無双の演出は台が出す情報をユーザーが整理しやすい、よくできたつくりになっていました。演出のグループが脳の限界を超えないように細心の注意を図り、ユーザーが混乱しないような仕様にすることで「面白い、もう少し打ってみよう」という気にさせ、人気の機種が誕生するのです。

そして実は、この仕組みは仕事にも活かせるのです。部下の脳内では、仕事を始める段階で、「この仕事が終わればこれくらいは上司から褒められそうだ」という報酬予測が無意識に立てられます。そして、仕事が終わった後に「よくやったな」と褒められることで、再び快感を獲得するのです。これは、パチンコの当たりと演出の関係と同じですよね。

しかし、同じ仕事を繰り返していれば、必ずその仕事に飽きがきます。そのため、放出されるドーパミン量は減少します。それを防ぐために、確率を利用するのです。

■デキる上司は、激アツリーチで褒める

最初は「仕事をこなせば褒められる」という報酬系を部下に植え付けるために、仕事が終わった後は毎回部下を褒める必要がありますが、「何をしても絶対に褒められる」とわかってしまうと部下のやる気は下がります。これを防ぐために、仕事が終わった後に「褒めない」ことで、確率を発生させるのです。すると、「今回はこれくらい褒められるかもしれない」という報酬予測が部下の脳内で立てられ、分泌されるドーパミン量が増えます。パチンコで最も脳内のドーパミンが放出される期待予測は50~75%程度と述べましたが、部下を褒める割合も“激アツリーチ”くらいの確率にしておくと、部下のやる気を最大限に引き出し続けることができます。

「消されたルパン」の起こす眼球運動はトラウマ解消に効果が。

パチンコ機から学べる仕事術はほかにもあります。13年の大ヒット機種「ルパン三世~消されたルパン~」(平和)は、トラウマ回避の仕組みが秀逸で、ユーザーの獲得に繋がりました。

リーチが外れると、大当たりが得られずユーザーはショックを受けます。ですがこの機種では、リーチが外れた後すぐに盤面の機械や液晶を派手に動かすことで、眼球運動を起こし、それが「リーチが外れた」という現実から気を逸らす、つまりトラウマの解消に貢献しました。強いトラウマはやる気を潰してしまうので、トラウマを回避させることは重要です。

■「行動」と「やる気」は、最初は結びついていない

この仕組みも実は、会社でよく見られる光景と同じなのです。部下が仕事で失敗した後、「じゃあ、ちょっとキャバクラにでも行くか」と、上司が飲みに連れていく行為は、「ルパン」のトラウマ回避と同じ効果があるんですね。部下のやる気を引き出し続けるには、部下に失敗を引きずらせないことも必要になってくるのです。

脳内には行動のコントロールを担う線条体に、やる気や快感を司る側坐核(そくざかく)という部位があります。この2つは密接にリンクしているので、行動と快感は、常にセットなんです。先述のように、部下が行動したくなるような快感を、予測段階で発生させれば、部下は仕事をするようになります。

しかし、新規事業に取り掛かるときは、新しい仕事と快感が結びついていないのです。ゆえに、部下の行動を逐一褒めて快感と結びつけてあげることが、部下のやる気に繋がります。

「君は優秀な大学を出ているから」などではなく、「プレゼンの資料がわかりやすく、非常によかった」などと具体的に褒めることで、やる気の新たな発生源を確保できるのです。

また、たまに「やる気を出せば仕事は終わる」という上司がいますが、それは間違いです。上司は既にその仕事に飽きていて、やる気が出ていなくても、惰性と慣れでこなすことができますが、同じ仕事に初めて取り組む部下はやる気が出なければ仕事ができるようにはなりません。まずはやる気が出るように、部下に目的意識を持たせることが、部下を行動させるうえで重要なことです。

反対に、部下目線からは、どのように上司と付き合っていけばいいのか。人間の好き嫌いは、自覚とは別につくられるものということが、とある研究結果に表れているのです。例えば、上司がものすごく不機嫌なときに部下が質問に来ると、その部下を嫌いになる確率は否応なしに上がります。その逆もまた然りなのですが、他人に対する好感度は下がるほうが簡単なので、自分を評価する立場にある上司をいい気分にさせておくことは、部下にとっては非常に重要なことであるのです。

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篠原菊紀
脳科学者
公立諏訪東京理科大学教授。脳科学を専門に研究多数。パチンコと脳の関係についても詳しく、パチンコメーカー豊丸産業と共同研究中。
 

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(公立諏訪東京理科大学教授 篠原 菊紀 構成=安間一行 写真=PIXTA)

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