セブンが"引き出せる陳列棚"を増やすワケ
プレジデントオンライン / 2019年3月19日 9時15分
■人手不足対策で省力化に取り組む
人手不足が深刻化している中で、いまコンビニ各社は「省力化」に熱心に取り組んでいる。
業界1位のセブン‐イレブンは、今年3月以降の新店や改装店に、新たなスライド式陳列棚を導入し、既存店も順次切り替えると発表した。
これまで商品陳列棚の段は動かせず、並べてある商品を避けながら、その後ろに補充商品を入れていた。「先入れ先出し」と呼ばれる陳列の基本だが、手間がかかる。特に下段は作業がしづらく、掃除も行き届きにくかった。
今回導入される新しい棚は、一段ごとにスライドして前に出てくるため、この作業が著しく簡易化されるのだ。
■商品補充の時間が1時間40分削減できる
コンビニ従業員の作業時間の内訳で、レジ接客に次いで長いのが品出しだ。十分な商品が並んでいるかどうかは、店舗のクオリティを大きく左右する。だが最近は、ホットスナック類が増えて調理が必要になったり、ネット通販の受け渡しがあったりと、カウンター業務がとにかく増え、品出しの時間が圧迫されてきている。セブン‐イレブンによれば、新たなスライド棚の導入により、商品補充にかける時間は1日で約1時間40分の削減となるという。
この棚の実力を測るため、セブン‐イレブン本社の地下1階に入る「セブン‐イレブン千代田二番町店」を訪ねた。店員目線でいうと、スライド式は陳列が楽なだけでなく、ホコリのたまりやすい棚奥の掃除も簡単で、「効率が上がる」と確信できた。
「セブン‐イレブン千代田二番町店」は次世代型モデル店舗だ。同店では、手前の商品がなくなると自動的に次の商品が押し出される機能を備えた仕切り板や、フィルター部分に取り付けて滑らせるだけでフィルター清掃ができるスライド式ブラシなど、多くの新しい設備や技術を採用しており、1日あたり5.5時間の作業時間削減に成功している。
■地味にすごい「レジ袋開口機能付きラック」
なかでも筆者が「これはすごい」と思ったのが、レジ袋開口機能付きラックだ。
レジカウンター内のレジ袋は、店舗によって置き位置がマチマチだ。店舗によってはレジ袋がカウンター什器の最下段にあり、接客のたびにいちいち腰をかがめるような場合もある。
一方、同店の新什器では、横置きのポールにレジ袋が種類別にかけられており、立ったまま片手で開口できる。シニア従業員が増えている今、これが全国に広がれば、大きな効果があるだろう。
こうした施策の効果は、お客には伝わりづらいが、作業の軽減化は従業員の定着率を上げ、店自体のクオリティを上げていくことにつながる。
■客の手を借りる省力化が拡がる
お客の手を借りる省力化も拡がっている。たとえば、セブン‐イレブンやファミリーマートで販売されているコーヒーは、カウンター商材だ。だが、コーヒーを淹れるのは客自身で、従業員は専用カップを渡すだけだ。
一方、ローソンの「マチカフェ」は、店員が淹れて渡すため、負担が大きい。このため都市型実験店舗では、レジを介さない釣り銭機能内蔵式コーヒーマシンの実証実験が行われている。昨年12月には、同じくカウンター商材であり、ローソンの看板商品である「からあげクン」の自動調理器の実証実験も行われた。調理時間は従来の5分の1で、揚げたてを食べることができる。いずれはホットスナック全般に応用していくという。
少しずつ広がりつつあるセルフレジも、客の手を借りた省力化だ。この分野ではローソンが先行しており、2017年から企業のオフィスに「プチローソン」と呼ぶセルフレジ付き商品棚を置いている。菓子や雑貨を「完全無人」で販売できる仕組みだ。
■レジを通らずにスマホで決済
通常店舗では、専用アプリでバーコード決済を行う「ローソンスマホペイ」を導入予定で、18年4月に都内の3店舗で実証実験をはじめた。この2月から全国へ拡大し、3月までに実施店舗を101店舗まで増やし、10月の消費増税までに1000店舗へ導入予定となっている。
この取り組みは設備投資が小さく、拡げやすい。利用者の利便性も高く、筆者はよく利用している。ただ、陳列棚から取ってその場で決済した商品を、そのまま自分のカバンに入れるのは違和感がある。また万引き対策という課題も残る。一般の消費行動となるまでには時間がかかりそうだ。
■現場目線での改善を図れるか
小売や外食では、1人勤務の「ワンオペ」の見直しを進めてきた。従業員の負担が大きいからだ。筆者もかつてコンビニの夜勤でワンオペだったとき、急にトイレに行きたくなって冷や汗をかいた思い出がある。だが、人手不足のため、ワンオペですら「24時間営業が成り立たない」という悲鳴が上がりつつある。コンビニ各社は、テクノロジーを駆使することでこうした課題の解決策を探っている。
新たな設備の導入や入れ替えは、本部投資を増大させる。だが、従業員の定着率を上げるためには働きやすい環境への投資は必要不可欠だ。勝負の分かれ目は、効率改善に取り組む本部社員が“現場感”を理解しているかどうかだろう。答えは“本社オフィスにあるのではなく現場にある”のだ。
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流通アナリスト・コンビニ評論家
1967年、静岡県生まれ。東洋大学法学部卒業。ローソンに22年間勤務し、店長やバイヤーを経験。現在は(株)やらまいかマーケティングの代表として商品営業開発・マーケティング業に携わりながら、流通分野の専門家として活動している。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ)レギュラーほか、ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演などで幅広く活動中。
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(流通アナリスト・コンビニ評論家 渡辺 広明)
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