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転職は「半年待ってみる」のが正解なワケ

プレジデントオンライン / 2019年4月3日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/takasuu)

今の仕事がつらいからと、すぐに会社を辞めるのは早計だ。コンサルタントの山口周氏は「私自身も『辞めたい』と思いながら踏みとどまったところ、状況が180度好転して会社も仕事も楽しくなった。何もしないで待つのも戦略の1つだ」という――。

※本稿は、山口周『仕事選びのアートとサイエンス』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■経営者への抗議としての「逃げの転職」

転職には「攻め(=自分のやりたいこと、よりなりたい自分へ近づくための転職)」と「逃げ(=自分にとって望ましくない、耐え難い状況から脱するための転職)」の2つのタイプがあります。私自身は両方のタイプを経験していますが、それぞれ留意すべき点が異なるように思います。

世の中には「攻めの転職」はいいが「逃げの転職」はよくない、と諭す人もいるようですが、あまり気にしなくていいでしょう。いま現在、非常につらい職場環境にあるのなら精神の健康を、ひいては自分の人生を守るためにもすぐに逃げるべきです。

加えて「逃げの転職」は、本来的に内部からのコーポレート・ガバナンスが効き難い日本企業に対して、経営の是正措置をとらせる強力な圧力の1つだと私は考えています。

日本の商法では、経営者は株主から委託されて経営を執行する立場にあります。経営者の経営執行状況をチェックして、必要に応じて是正措置をとらせるシステムをコーポレート・ガバナンスと言います。このシステムにおいて、チェックおよび必要に応じて是正措置の要求を行うのが従業員・取引先等のステークホルダーの役割になります。

■辞めないことは会社に「賛意」を示すこと

ステークホルダーは、大きく「オピニオン」と「エグジット」の2つを、是正措置の要求手段として持っています。

例えば株主(※)。株主は、経営者の経営状況に満足していれば「株を買う」という形で賛意を表明し、不満足であれば「株主総会で文句を言う=オピニオン」「不信任案を提起する=オピニオン」「株を売る=エグジット」といった形で是正措置を要求します。

※権利が大きい分、責任も大きい。例えば、企業破綻時には、取引先の債権は株主の権利よりも優先される。

次が顧客です。顧客は、経営の状況に満足であれば「取引を継続する」、または「取引量を増やす」という形で賛意を表明しますが、反対であれば「営業担当に文句を言う=オピニオン」「取引量を減らす=オピニオン」「取引をやめる=エグジット」といった形で意見を表明したり圧力をかけたりすることができます。

そして最後のステークホルダーが従業員になるわけですが、従業員には非常に限定的な要求手段しかない、というのが日本の状況なのです。特に「反対意見の表明=オピニオン」が難しい。

例えば賛意という点については、会社にい続けるということで、消極的ではありますが表明できます。積極的に仕事をがんばる、外部向けのPRや採用活動に貢献するといった形でも、賛意の表明は可能でしょう。

しかしながら、経営陣に対する要求手段は、方法としてほとんど閉ざされているのが現状です。法的に担保されているのは労働組合を通じた意見表明なのですが、これも「組合としての意見」になってしまうわけで、個人の意見をそのままぶつけられるわけではありません。

■なぜソニー社員はサムスンに行ったか

以上、このように考えると、従業員にとって実は最も強力な反対意見の表明方法は「退職」なのだ、ということがお分かりいただけると思います。是非の判断は留保するとしても、とにかく実態として日本企業のガバナンス構造においては、従業員が経営者に対して強く反対表明をする方法は退職以外にない、ということなのです。

出井伸之氏がソニーのCEOをされていた時期、提携したサムスンに大勢の技術者が引き抜かれてソニー社内で大問題になったことがあります。移った技術者にしてみれば、もちろん経済的な要因ややりがいといった「攻め」の要因も大きかったはずですが、一方で思うのは、当時「ものづくりの会社」から「エンタテインメントの会社」へと大きく舵を切ろうとした経営陣に対する、強力な反対意見表明だったのだろうな、ということです。

ちょっと長くなってしまいましたが、要するに言いたいのは、「逃げの転職」は当人にとっては逃げかもしれないが、それはそれで、内部からのガバナンスを効かせにくい日本の企業にとっては、大変重要な気づきを与えてくれるきっかけになると私は考えている、ということです。

■「あと半年待てないか?」と自分に問いかける

ということで、私としては「逃げの転職」に対して決してネガティブではないのですが、1点だけ注意を促しておきたい。

それは「あと半年待てないか?」よく考えてほしい、ということです。

なぜか?

「平均への回帰」の問題があるからです。

「平均への回帰」という言葉を聞いたことがありますか?

簡単に書けば、いいことが続けば、その後悪いことが起こり、悪いことが続けば、その後いいことが起こる。結局は長い目で見れば「平均値」に落ち着いていく、ということです。

こう書くと「当たり前のことじゃないか」と思われるかもしれませんが、実は世の中では、「平均への回帰」は意識されにくいことが多いのです。

典型的にはジンクスの類がそうです。よく新人で活躍した投手が、2年目はそれほどでもない場合、「2年目のジンクス」と言われることがありますね。また、教師でも「ほめると自惚れて成績が下がる。叱ると発奮して成績が上がる。やはり叱るほうがいい」といった教育論をぶつ人がいますが、こういう現象は単に「平均への回帰」によって発生していると考えるほうが自然です。

■「いまの状況が悪い」だけで転職するのはもったいない

これがなぜ転職に関係があるのか? ということですが、要するに「逃げ」を打ちたくなるようなつらい状況は、時間を経ると「平均への回帰」によって、自然に改善してしまう可能性がある、ということなのです。

転職は大変リスクの大きい行動です。どんなに事前に調べて考えを尽くしても、やはり失敗の懸念はぬぐいきれません。もし、状況の振り子が今後改善側に振れる可能性が多少でもあるのなら、「いまの状況が悪い」というだけで転職してはもったいないと思うのです。

さらに、先述した通り、状況が悪いときは精神的にも肉体的にもエネルギーレベルが落ちているので、人生の舵を大きく切るようなことをするのはリスクが大きいとも言えます。

これは、株で考えてみれば非常に分かりやすい。自分の状況は株価と同じで上昇したり下降したりします。状況が悪いときに「逃げの転職」を実行するのは、株価が下がった局面でこれを売却し、別の株を買うことと同じです。これを繰り返していれば、資産はどんどん縮小してしまいます。

ということで、いま「逃げの転職」をしようとしているのであれば、ぜひとも考えてほしいのが、「半年待てないか?」という問いです。

■「辞めたい」から180度好転、楽しくなってきた

もし半年待ち、現在の状況が改善して「逃げ」を打つ必要がなくなる可能性があるなら、あまりがんばらずにやり過ごしてみる、つまり「何もしないで待つ」というのも、この場合、立派なオプションになる、ということを覚えておいてください。

山口周『仕事選びのアートとサイエンス』(光文社新書)

私自身も「泣きたい……もうこの会社辞めたい……」と思いながら、結局踏みとどまったところ、その後状況が180度好転して会社も仕事も楽しくなってきた、ということが何度もありました。

コンサルタントになって2年目くらいの時期だったと思いますが、連夜の深夜残業が続き、しかもアウトプットが評価されずに七転八倒していたころに「本当に辞めよう」と思ったものの、あまりに忙しくて転職のための準備、つまり志望動機や履歴書を作成したりするための時間が取れず、結局目の前にやってくる氷山のような仕事の山を何とかこなしているうちに、プロジェクトも終了し、いろいろな人間関係も改善してしまった、ということがありました。

喉元過ぎれば熱さを忘れる、ではないですが、会社全体の社風と自分のパーソナリティが完全に合っていないといった、どうやっても改善しようがない問題でない限り、じっと待ってみる、というのも有効な戦略の1つだと思います。

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山口 周(やまぐち・しゅう)
コンサルタント
1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、コーン・フェリーに参画。現在、同社のシニア・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。著書に『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『劣化するオッサン社会の処方箋』(以上、光文社新書)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

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(独立研究者・著作家 パブリックスピーカー 山口 周 写真=iStock.com)

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