日本人女性の家事負担が世界一重いワケ
プレジデントオンライン / 2019年3月27日 6時15分
■家事をしない男とは結婚しない
結婚前のことになりますが、できるならば「男は家事をしなくていい」と思っている人とは結婚しないことです。結婚するなら、家事を進んでする男性、もしくは現在はしていなくても、結婚後に変わってくれそうな男性を選ぶことです。変化する柔軟性がある男性なら、“家事をする夫”として育てる余地があるのではないでしょうか。
もし、既に家事をしない男性と結婚しているならば、彼の中にある基準を変えなければなりません。日常生活でそういうことをすることは難しいかもしれませんが、別の「当たり前」があることを知ってもらうことは大事です。国際的な男女の家事分担のグラフ(図表1)を見せてデータを示したり、海外と日本を比較した記事を共有するなどして、女性がほとんどの家事を請け負う日本の現状は特殊なのだとわからせることができれば、何か変化があるかもしれません。
私は研究グループの中で定期的に家事分担の調査をしていますが、食事づくりやその片付け、掃除、洗濯という項目に回答する男性はほとんどいません。仕方なく、風呂の掃除とゴミ捨てという項目を設けたら、ようやくある程度の回答が出てきます。しかし、欧米の調査ではゴミ捨ては通常の家事には含まれませんから、やはり日本人男性の家事分担は少なすぎると言わざるをえません。
■最初のトレーニングは「掃除」から
実際に夫が家事をした場合でも、上手にできないケースが多いでしょう。家事も仕事も、どちらも習熟が必要だということに多くの男性は気づいていません。
そこで会社のスタッフを実地で教育するOJTのように、夫に家事をやってもらうなかで学んでもらうというプロセスが必要になってきます。何から始めるかは、それぞれの家庭によると思いますが、食事づくりは食材の計画的な購入も絡んでくる複雑なタスクですから、なかなか難しい。最初は、単発で「ここをきれいにして」と指示できる掃除のほうがいいでしょう。
もし、ご飯をつくらせるなら2週間以上の長期で任せるべきです。単発では気づかれないのですが、夫が食事づくりを一定期間やってみると、月曜日はこの料理、火曜日はこの料理とメニューを考え、冷蔵庫の中身をチェックしながら食材を買うことがどれだけ大変かわかると思います。やはり人間、大変な目に遭わせないと大変さがわかりません。そこへの理解がないようなら、仕事を経験する中で理解してもらうしかないでしょう。
■職場と家庭の逆転現象には要注意
妻のこだわりが少ない家事を任せていくこともポイントです。例えば洗濯ものを干すとき、妻なりの決まった干し方があって、1ミリのズレも許せないなど、妻がこだわってやっているタスクは、分担しにくいものです。
できれば、実際に夫にやらせてみて、その成果が自分の望んでいるレベルまで達していなくても、多少我慢したほうがいい。そうしないと、いつも夫を「解雇」して終わり、ということになりかねません。ただ、仕事と同じで、ある程度の品質管理はしなければなりません。あまりにも家事のクオリティが低かったら注意していいと思います。
気をつけておきたいのは、職場と家庭の「逆転現象」です。家事には仕事と同じく習熟や工夫が必要なのですが、あまり「家事の仕事化」を突き詰めると、「外でも仕事、家でも仕事」になってしまいます。家では家事や育児をやらされて疲れてしまい、会社のほうがほっとひと息つけるという心理状態になることを「逆転現象」といいます。特に今は、会社に居心地の良いカフェがあったり、お昼寝スペースがあるなど、「職場の家庭化」のような動きが進んでいますから、夫をあまり追い詰めすぎると、職場の居心地のほうが良くなり、家になかなか帰ってこないという状態になりかねません。
■夫が料理をしても妻の負担が減らない現実
家事のOJTをするうえで目標にしてほしいのは、夫の家事の回数や時間を増やすことではありません。目標はあくまで、「妻の負担を減らすこと」です。家事頻度の研究によると、夫が食事の準備を1回増やしても、実際にはそれによって妻の負担が1回分減っていません。夫の家事1回が妻の1回に該当せず、夫が7回増やしても妻が1回分も減っていない、というデータもあります。
共働き家庭では時間がないので、夫がやった家事の質が悪いと妻が「もう、自分でやる」ということになってしまいがちですが、妻がどうやって家事をしているのか、そのどこを分担すれば妻の負担を減らせるのか、夫側に考えてもらう必要があります。
■男女の家事頻度は結婚前から全然ちがう
一方、女性のこだわりが強くて、なかなか家事負担が減らないというケースも根強く存在します。
母親(義母を含む)が同居している家庭といない家庭で、フルタイムで働く男女が夕食の用意や家の掃除をしているかを調べたデータがあります(図表2)。母親と同居していない男女を比べると、男性は女性ほど熱心に家事をしませんが、結婚するとさらに家事をしなくなります。母親と同居する男性と、母親と非同居で有配偶の男性が家事をする程度はほぼ同じなので、多くの男性にとって妻は母親の代わりなのでしょう。
男性のそんな感覚を変えるべきとも言えますが、このデータを見ると、女性は結婚してもしなくても高い頻度で夕食の用意をしていることがわかります。おそらく節約や健康を考え、手づくりの食事を良しとする意識があるのだと思いますが、結婚前にほぼ毎日夕食の準備をする割合が90%近かった女性と57%の男性が結婚すれば、齟齬が起こるのは当たり前。
夫が「今日の夕食は外食でいい」と思っても、妻が「外食は嫌だから、私がつくる」となる場合が多いのではないかと思います。そういう場合、夫の家事水準が低いと非難するのではなく、そもそも男性にはそこまでのこだわりがないことを理解しておくと衝突が避けられますし、何より自分自身の負担を減らすことができるのです。
(立命館大学教授 筒井 淳也 写真=iStock.com)
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