全力で部下を褒める上司の「秘密の日課」
プレジデントオンライン / 2019年4月4日 9時15分
貫井一浩さん●人材サービス会社営業
■未体験の異動先!「聞く」の徹底で、窮地から脱出
聞く側に徹して話し上手になったのが、三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズで法人営業を担当する貫井一浩さんだ。
もともと貫井さんは百貨店の販売スタッフとして勤務。それが2年前、異動で人材サービス会社の法人営業へと業務内容が変わった。それまで店頭で顧客との接客はあっても、クライアントとの人間関係をゼロから築き上げるのは未体験。相手を引きつけるトークが大切と考えた貫井さんは、商談中も「次は何を話そう」「沈黙が長い。まずい」などと自分が話すことばかり考えていた。結果、自分が言いたいことだけを伝え、相手の反応が鈍ければ商談をサッサと切り上げざるをえず、「何て口下手なのだろう」と落ち込んだ。
そんな貫井さんは『人を動かす』の中の一節から気づきを得る。「心から面白いと思って相手の話を聞く人は、たとえ何も話さなくても相手に話し上手な人だと感じてもらえる、というエピソードがあります。自分が仕事でやっていることは真逆でした」。
以後、商談の席で無理に話そうとはせず、「聞く」を徹底。するとクライアントがどんどん情報を語ってくれ、ときには「実は困っていたんだよ」などと胸の内を明かしてくれるようになった。そうして信頼関係ができると、別のクライアントを紹介してもらえるようにもなり、活躍の場は徐々に拡大。1年後には、各クライアントからの依頼も、今までの倍近くになっていた。
また貫井さんはトレーニングを通して、自分の感じたことを素直に吐露する重要性も実感。仕事の現場で、なるべく本音で話すようになった。貫井さんの同僚であり、一緒に受講した安藤友紀さんはそんな変化に対して「仕事がやりやすくなった」と語る。
「『この部分は大変だったんですよ』という弱音を聞けば、『じゃあ私がフォローできることはしよう』と考えられるようになりました。仲間意識が強まりましたね」
千葉弘崇さん●外資系IT役員
■部下の声を傾聴。意見が上がるようになった
「最初は特に何かを学ぼうとは思ってませんでした」
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そう語るのは、セールスフォース・ドットコム専務執行役員の千葉弘崇さんだ。もともと人数の多い営業部隊を率いるマネジャーとして活躍。業績も順調で、コミュニケーション能力にも自信があった。当時の自分を以下のように振り返る。
「特に自信と持論がある営業に関しては、自分の考えにそぐわない意見はほぼシャットアウトでした。部下から『提案内容の質を高めるべきです』という意見があっても、『いや、まずは案件の数を優先してほしい』と耳を貸すことが少なかったんです」
それがある日、上司から「カーネギーのトレーニングに参加してみては」と指示を受けた。最初は出席しても「自分には必要ない知識」と聞く耳を持たなかったが、周囲が一所懸命に打ち込み、賞賛されている姿を見て、自分もそこに入りたい気持ちが発生。やがて輪の中にくわわった。
トレーニングでは、相手にたくさん喋ってもらったり、話の中から価値観を探ったりするなど、人の話を傾聴する練習を重ねた。そこで数々の技術を習得した千葉さんは、部下の意見をいったん受け入れる余裕ができたという。
「それからは100%賛成ではなくても『その考え方も大事だよね』と言えるし、理解に苦しむ場合は『どういうふうにしていきたいのか、もう少し説明してみて』と深堀りできるようになりました。すると部下たちから意見が上がってくるようになったんです。今では、上からの一方的な押しつけでは部下の自立性は育たないし、イノベーションも起こりようがないと思っています。カーネギーで一番役に立っている教えは、『相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない』。つまり簡単に否定しないということですね」(千葉さん)
今は「否定しない」の考えを発展させて、自分の主張に合わなくても「1度やってみろ」と部下の背中を押すようにもなった。かつての上司に自分をトレーニングに行かせた理由を聞いてはいない。しかし、「チームの人数が増えていくうえで、自分のキャパシティを大きくさせるために受講させたのではないか」と解釈し、感謝している。
野田 励さん●建材メーカー社長
■コミュニケーション不足の製造部門に風穴を開ける
「心から褒める」「まず褒める」「わずかなことでも褒める」と、『人を動かす』には相手を褒めることの重要性が随所に出てくる。この教えを日々実践するようになったのが、建材メーカー・ノダ社長の野田励さんだ。
![](https://president.jp/mwimgs/d/e/-/img_de8377b6ee0750d4d684195c9fdf92f1247812.jpg)
「私は1975年生まれ。カーネギーの教えでは、『人を褒めること』にもっとも共感しますが、この世代までの人間は褒めることにも褒められることにも、基本慣れていません。体に染み付いていない習慣は、ともするとすぐに忘れてしまうんですよ」
そこで野田さんは、毎日、社員の日報を読みながら「褒めネタ」を探すようになった。社員と顔を合わせる前、直属の上司に「最近褒められるようなことはなかったか」と聞く。社員が元気に挨拶すれば「おっ、元気でいいな」と声をかけ、センスのいい服装なども褒める。本人いわく、「全力で褒める努力をするようになりました」。
また野田さんは、社内において製造部門のコミュニケーションに不安を感じていた。
「工場といった、長時間、同じ場所で同じ仲間と仕事を共にする社員は、ある意味、家族的なつながりになります。それはそれでいい部分もありますが、面と向かってきちんと話す・聞くという態度がおざなりになりやすくもあるんです」
「説明はしない。背中を見て学べ」という職人もいる世界で、社内の風通しをよくしたいと考える野田さんは、カーネギーの教えを社員全員が共有できるよう取り組もうとしている。まだ始めて間もないが、昔気質の職人にも人の話を聞く必要性は徐々に浸透してきた。上下間の意思疎通が深まって、組織の力が強まることを期待している。
ここまでカーネギーの教えを咀嚼して、変わることができた人たちを紹介した。しかし『人を動かす』を読んではみたものの、なかなか身につかなかった人はどうすればいいのだろうか。
「本にはやるべきことの原則と、それに関連するエピソードが多く出てきます。それをセットにして覚えておき、折に触れて相手の事情に合わせたエピソードを紹介するようにする。実例を題材に相手と議論することで考えが深まり、結果、自分の中に定着していくと思います」(貫井さん)
「本にはやるべきことがたくさん書かれているので、もっとも印象に残ったものを1つ徹底してやってみるといいのでは。SNSで実践している仲間を見つけて、つながるのも効果的かもしれません。記録を発信すると『いいね!』がもらえて、きっとやる気が続きますよ」(安藤さん)
(山田 由佳 撮影=大崎えりや 写真=iStock.com)
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