一流俳優が"長い下積み"を続けられたワケ
プレジデントオンライン / 2019年3月22日 9時15分
※本稿は、教養総研『すぐに真似できる 天才たちの習慣100』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■「拒絶の理由は自分の実力ではない」
2015年5月、ハリウッドの名優や著名人を数多く輩出しているニューヨーク大学芸術学部の卒業式で、ある俳優がスピーチを行いました。ロバート・デ・ニーロです。
『レイジング・ブル』でアカデミー賞主演男優賞を獲得し、『ゴッドファーザーPARTⅡ』のヴィトー・コルレオーネ、『タクシードライバー』のトラヴィス・ビックル、『アンタッチャブル』のアル・カポネなど、大役から脇役までを幅広く演じ、超大作からB級娯楽映画まであらゆる作品に出演して存在感を発揮した名優です。
デ・ニーロは、盟友でもある映画監督マーティン・スコセッシのほか、オリバー・ストーンやレディー・ガガなども輩出した同学部の卒業式に招かれてスピーチした際、次のような発言をしています。
「拒絶されるとつらいでしょう。でも私の実感では、拒絶というものは自分の実力の問題ではないことが大半なのです」
彼は卒業生に向かい、「あなた方がオーディションを受けたり、役の売り込みをしたりしているとき、プロデューサーや監督といった相手側は、誰か別の人を思い描いているかもしれません」とも語っていました。
つまり、オーディションを受ける側である「あなた」と、プロデューサーや監督側が「思い描いている人」がそもそもミスマッチである場合は多い、だから、相手からの「拒絶」ないし「否定」を「自分のせい」と思い込むのは誤りだと、彼は述べていたわけです。
■「次!」で前に進む精神の持ち方
たしかに映画というものは、大物俳優・女優ならいざ知らず、オーディションをはじめから受けるような名もなき俳優・女優に合わせて脚本が作られるわけなどありえません。プロデューサーや監督は、脚本や映画のテイストになるべくフィットし、しかも魅力的な俳優・女優と出会うためにオーディションを行っているのです。
したがって、オーディションを受ける側の人たちが、審査で失敗したからといって落ち込むのは「そもそも間違っている」と、デ・ニーロは言いたかったのでしょう。彼はこの言葉に続いて、卒業生たちにこう語りかけました。
「あの役を得られなかった? ここで出番です。『次!』あなたは次の役か、その次の役を得ることができるでしょう」
デ・ニーロは「Next!」という言葉を使い、卒業生たちを励ましたのです。
■自己肯定感を守るための考え方
今でこそ名優の名をほしいままにしているロバート・デ・ニーロですが、彼自身、1973年のマーティン・スコセッシ監督『ミーン・ストリート』で注目を浴びるまで、苦労の下積み時代を送りました。仕事を得るため端役のオーディションまで数多く受けるも、不採用の通知を受けることもしばしば。彼がニューヨーク大学芸術学部で卒業生たちを前に語った言葉は、自身の経験から見いだされた「自己肯定感を守るための必然的な考え方」だったのでしょう。
デ・ニーロは、「そういうものなんです」と言い、卒業式に集った聴衆をなごませたそうです。
■生前不遇だったゴッホの“気の持ち方”
周囲からの「拒絶」「否定」というキーワードで著名人を連想したとき、日本でも人気の高い“炎の画家”フィンセント・ファン・ゴッホのエピソードについても紹介しておく必要があります。昨今伝わる通説では、「ゴッホの絵のうち、生前に売れたのは1枚だけだった」とされていますが、これは真実ではないようです。
ゴッホ美術館主任研究員テオ・メーデンドーフ氏によると、ゴッホは生前、数枚の絵を売っていたことが研究により明らかになったそうです。つまり、「ゴッホは画家として完全に否定されていた」といったような説は誤りで、「多少なりとも彼の才能を評価していた人はいた」ということになります。
ただし、彼の画家人生がわずか10年足らずだったことも相まって、当時、画家としての彼を評価する人が多くなかったことは確かだったのでしょう。
とはいえ、彼は自分を取り巻く不遇な環境にもめげず、毎日、絵を描いていました。彼はよき理解者であった弟のテオに宛てた手紙に、毎日仕事をするのは午前7時から午後6時にかけてで、その間に動いたのは食べ物を取りにいったときだけだと記していたそうです。
■「仕事して寝る。人生はそんなもの」
一説によると、ゴッホは10年という短い画家人生において、約2000枚もの油絵やスケッチを描いたといわれています。1年あたり、200枚もの作品を描いていたというゴッホは、疲れを感じることなく次々と絵を描き続けていました。ゴッホはテオへの手紙で、こうも述べています。
「毎日は、仕事、仕事で過ぎていく。夜はへとへとになってカフェへ行き、そのあとはさっさと寝る! 人生はそんなものだ」
このゴッホも、前述のロバート・デ・ニーロと同じく、いわば「世の中とはそういうものなのだ」という「前提」を踏まえたうえで、自分を責めず、常に「自分を励ます」ための心構えを持っていたと考えることができます。
■「自分が悪いわけではない」
人間、生きていればさまざまなストレスに直面するものです。自分自身に自信を失い、自己肯定感がなかなか持てなくなることもあるでしょう。しかし、「自分」という存在を支え、励ましていくためには、「自分のせいだと思わない」考え方も大切です。
もちろんこれは、「責任の放棄」「責任の転嫁」といったような問題とは別次元のもの。あくまで自分のメンタルを守っていくために必要な「心の持ちよう」を示すものですが、「自分が悪いわけではない」と考えることは、別にずるいこと、悪いことではけっしてない。生きていくうえでの“賢い知恵”といえるのではないでしょうか。
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「教養」に関するさまざまなトピックスを世に発信する小集団。これまで世に出た優れた教養・自己啓発書を日々物色し続けている。
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(教養総研 写真=iStock.com )
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