介護人材に主婦をアテにする政府の大誤算

プレジデントオンライン / 2019年3月26日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kazoka30)

4月から特定技能による外国人労働者の受け入れがスタートします。特に人材不足が深刻な介護分野で6万人の受け入れを目指していますが、それでもあと24万人の介護人材が足りないといわれています。政府はどうやら高齢者や女性をあてにしているようなのですが……。

■5年で34万5000人の受け入れが政府の目標

今年4月1日から新たな在留資格「特定技能」による外国人労働者の受け入れが始まる。これまで「専門的・技術的分野」の高度人材しか受け入れてこなかったが、深刻な人手不足に対応するために単純労働者にも門戸を開くことになる。

「特定技能」は通算5年滞在できる「特定技能1号」と在留資格が更新できる専門技術的な労働者の「特定技能2号」の2つだ。特定技能2号は高度専門職と同様に家族帯同も可能だが、1号は家族帯同が許されない。単純労働者に近いとされる1号の対象者は農業、介護、建設、ビルクリーニング、宿泊、外食など人手不足が深刻な14業種。政府は2019年度から5年間の累計で34万5000人の受け入れを数値目標として示している。

なかでも高齢社会の日本で必要不可欠なのが介護職員だ。介護人材は現在約190万人だが、厚生労働省は2020年度に必要な人材は約216万人と予測し、約26万人が不足。2025年は約245万人となり、約55万人が不足すると予測している。

■それでも不足する介護人材をどうするか

今回の外国人労働者の受け入れでも「特定技能1号」の対象業種のなかでも介護人材は最多の6万人の受け入れを見込んでいる。政府は2023年には約30万人の介護人材が必要だと見ているが、6万人の外国人材を受け入れても残り24万人が不足することになる。

政府はどうするつもりなのか。じつは今回の外国人受け入れ見込み数6万人を算出した根拠となる「介護分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」にはこう書かれている。

「向こう5年間で30万人程度の人手不足が見込まれる中、今般の受け入れは、介護ロボット、ICTの活用等による5年間で1%程度(2万人程度)の生産性向上及び処遇改善や高齢者、女性の就業促進等による追加的な国内人材の確保(22~23万人)を行ってもなお不足すると見込まれる数を上限として受け入れるものであり、過大な受入れ数とはなっていない」

■高齢者と女性をアテにする政府の皮算用

つまり高齢者と女性で22万人の介護人材を確保し、介護ロボットやICT(情報通信技術)の活用で2万人分に当たる生産性を向上させ、外国人の6万人を足して30万人を確保できると試算しているのだ。いくら元気な高齢者が多いといっても介護現場の主力になり得るとは思えない。そうなると女性に介護現場で働いてもらうことが政府の本当の狙いのようだ。

しかし、出産・育児で離職した女性が再就職先として介護職を選ぶ人がどれだけいるのだろうか。ましてや3K(きつい、危険、汚い)職場と言われ、給与が低い介護職に就こうとする女性が増えるとも思えない。

■介護職を選ぶ外国人材確保も難しい

それだけではない。6万人の外国人材すらも確保するのは難しいという声も挙がっている。介護労働者の労働組合である日本介護クラフトユニオンの幹部はこう指摘する。

「介護業界では受け入れたい企業とそうでない企業の二つに完全に分かれている。介護の質を重視し、職場環境を整備しながら日本人に選んでもらえる会社にしたい経営者もいる一方で規模拡大を推進する企業の中には積極的に外国人を雇用したいと考えている。また多くの中小零細事業者は受け入れにはコストと手間がかかるので採りたくても難しいと考えている」

じつは日本ではこれまでにも外国人の介護人材の受け入れを進めてきたが、それほど多くない。介護分野の受け入れでは2008年にEPA(経済連携協定)でインドネシア、フィリピン、ベトナムの3国から約4300人が来日した。日本で介護福祉士の資格を取得すれば更新期限なしの在留資格を得られるが、在留期限の4年間に資格試験に合格した人は約700人。しかもその中には母国に帰った人もいるという。

また、2017年11月から技能実習の介護の受け入れが始まったが、政府は初年度5000人を見込んでいたが、18年10月末時点でわずかに247人にすぎない。さらに介護福祉士資格者は専門的・技術的分野の在留資格に入っているが、18年6月末時点で177人にすぎない。全部合計しても1000人前後と少ないのが実態だ。

■介護業界は月10万円、賃金が低いという現実

そして今回の受け入れでも前出の労組幹部は「従来と変わらない人数になる可能性がある」と語る。

「技能実習生のときよりも日本に来て欲しいという事業者は多いが、他の業種に比べて魅力があるのか疑問だ。3年の実務経験があると介護福祉士の受験資格を得、取得すると更新期限なしの在留資格を得られる魅力はある。しかし賃金については、日本人と同等以上にすることになっていても、無資格のままだと、多くの事業者が法定最低賃金と連動させているので、外食業や宿泊業など賃金の高い他の業種よりも水準は低くなる。そうなると、出稼ぎ感覚で来る人には介護を選んでもらえない可能性が高くなる」

賃金について政府は「同一業務に従事する日本人と同等以上」とするが、介護業界は他産業に比べて月額10万円差があると言われるなど賃金競争力は低い。加えて今回の法改正による介護業の受け入れ策は他の業種に比べてハードルも高い。すべての業種に共通する日本語能力テストに加えて「介護日本語評価試験」と「介護技能評価試験」をクリアする必要もある。介護の仕事に携わる以上、認知症高齢者など心を閉ざしている人の気持ちを受け止めてお世話をする高度の対応も求められる。

■人材不足で施設をオープンできず

介護職員1万人以上を擁する大手介護施設運営会社は現在外国人の受け入れの準備を進めている。同社の部長はこう語る。

「首都圏では老人ホームに入りたくても入れない待機高齢者も多く、施設を建設してもスタッフが揃わないとオープンできない状況にある。今後の人手不足を想定し、外国人の手を借りたいという思いがある。ただし、言語や生活習慣の違いもあり、ハードルは高い。しかも入国前に賃金の高い他の業界に流れる可能性があり、どれだけ確保できるのかわからないのが現状だ」

他の業種に比べて日本語能力などのハードルが高いうえに賃金も安いとなれば、外食など他の業種を希望する外国人が多くなるかもしれない。結局、高齢社会を支える介護人材を外国人で補おうとしても、外国人から見向きもされない可能性もある。

2023年に不足する介護人材30万人を女性と外国人で本当に確保できるのか。もし計画通りにいかなければ、その家族にしわ寄せがいくことになる。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)

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