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なぜ医師は患者に"様子を見よう"と言うか

プレジデントオンライン / 2019年4月6日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kokoroyuki)

医師の言うことがどうも腑に落ちない――。そう感じたことのある人は多いはず。その理由は、医師が高度に専門的な知識を持っているからだけではない。医師にはそう言わざるをえない事情があるのだ。さらに、医師の世界は、私たち一般人がなかなか知りえない業界用語や隠語も盛りだくさんなのだ。医師の決まり文句の意味をこれから紹介しよう。
▼問診編
いきなり下される「断定口調」

■「はいはい、風邪ですね」

こう言ってあっという間に診療を終える医師に対して、適当にあしらわれた気がして怒る方がいます。特に高齢の患者さんは、じっくり診察して話を聞いてほしがる傾向がありますね。ただ、すべての患者さんのお話を無制限にお聞きしていたら、外来業務は麻痺し、病院は大赤字になるでしょう。国民健康保険のおかげで、患者さんの負担は少なくて済みますが、その裏返しとして、ある程度の数を捌かないと経営が立ち行かないのです。

よく「3分診療」などと揶揄されますが、それを望んでいる患者さんがいるのも事実です。忙しい仕事の合間を縫って来院した人なら、とにかく短時間で済ませてほしいと思うでしょう。「手際よくサッと処方箋を出してくれて助かる」という人もいます。要は「はいはい、風邪ですね」という同じセリフでも、患者さんのニーズによって受け止め方は正反対なんです。さらに本音を言えば、風邪ぐらいで病院に来る必要はありません。たいていの風邪なら、3~4日、暖かくしてゆっくり家で寝ていれば、ほとんど自然に治ります。それでも治らないときに、初めて病院を訪れれば十分です。(医師の奥仲哲弥氏)

■「年齢のせいですね」

体の不調をなんでも年齢のせいにされると、カチンとくるのはわかります。でも加齢によって、あちこちにガタが出るのは当たり前です。医者としては「そこを自覚してメンテナンスをしっかりしてくださいね」と言いたいわけです。自分が乗っているのはもはや「新車」ではなく、40~50年物の「中古車」なんだと思っていただきたい。私自身、60歳を超えた今、昔できたことをまったく同じようにはできません。例えば、以前は2日連続でゴルフをしても平気でしたが、今は月に1度でも怪しいものです。プレー当日は以前より30分早く着くようにして、入念にストレッチをします。終わった後は、湯船に入りながら丁寧に足を揉んでほぐしています。そうしないと、翌日の手術に響いたら困りますから。(奥仲医師)

■「炎症を起こしていますね」

これは非常によく言うセリフです。「炎症」をわかりやすく理解するために、外部から入ってきた敵と体の防御機構が戦っている様子をイメージしてください。その結果、戦いの現場がボロボロになった状態を炎症といいます。具体的には、腫れたり、熱くなったり、痛くなったりという症状が出ます。

例えば風邪であれば、喉にウイルスが入ってくると、そこに免疫細胞が集まって大騒ぎを起こします。ウイルスが脳や心臓などに行って大事にならないように、水際で食い止めているわけですね。もちろん喉以外にも、つま先やお尻の穴から、腸、胃、脳などまで、体中のあらゆるところで、さまざまな症状となって現れるのが炎症です。ただ、こうしたことをあまり細かく説明しようとしても患者さんには伝わりにくい。そのため、「炎症」という言葉で若干まるっと誤魔化している感は否めないかもしれません。

患者さんとしては、炎症自体を治してほしいと思うのでしょうが、炎症をすべて抑え込むのがいいかどうかは、いまだ議論のあるところです。喉の痛みや頭痛を抑える薬はありますが、それはただ辛い症状を抑えるだけにすぎません。(医師の中山祐次郎氏)

▼別れ際編
診察終わりに付け足される「締め言葉」

■「しばらく様子を見ましょう」

「様子を見る」という言葉は、実は医者にとっては専門的な意味があります。決して何もしないで放置というわけではなく、「経過観察をする」という選択をしたときに使う言葉です。もし、体に重大な異変が起きていたら、症状が自然に消えることはなく、続くか次第に悪くなることがほとんどです。そこで、1週間なり2週間なり、時間の経過とともに症状がどうなるかを見て、病原をつきとめます。つまり、時間という因子を1つの検査のように使うわけです。

「様子を見ましょう」と言われて、どこか突き放されているように感じるとしたら、症状の捉え方について、患者と医者の間にギャップがあるためですね。例えば肩こりが死ぬほど辛いといって来院しても、医者から見たら「大したことないな」ということも多い。患者さんが辛そうだからといって、その不安に寄り添ってあまりにも時間をかけていたら、ほかの患者さんを長時間待たせることになりますし、診察できる人数が極端に減れば病院経営も逼迫します。そうした事情もあり、医学的な深刻さを優先せざるをえないのが現状です。(中山医師)

■「心配いりません」

本当に心配ないときには確かによく言うセリフです。例えば、手術をして2週間目に、切開した場所がチクチク痛むと訴える方がいますが、それは当たり前です。そんなときは「心配いりません」と言うしかないのですが、痛みに弱い方には「なんて冷たい医者なんだ!」と思われてしまいます。今は胸腔鏡を使いますから、肺がんの手術でも皮膚切開は5cm程度です。以前は30cmも切っていましたから、確かに当時は術後も痛かっただろうと想像がつきます。それと比べれば、今はずいぶん軽減されました。(奥仲医師)

私の知っている心臓外科の先生も、手術の前には患者さんに「心配いりません」と声をかけています。リスクを伴わない手術はありませんから、患者さんは誰しも不安でいっぱいです。でも同じような手術を何千例とこなしてきたその先生は、平易な言葉でイラストも交えながら手術概要を説明し、最後に「心配いりません」と言っています。だから患者さんも納得できるんです。でも、これがまだ5年程度の経験しかない駆け出しの若い医師に言われたら、「本当かな?」という気がしてしまいます。(医学ジャーナリストの松井宏夫氏)

■「とりあえず薬を出しましょう」

「とりあえず」という言葉がたぶん気になるのでしょうね。日本人は薬を処方されるのが大好きで、「ただの風邪だから、家でゆっくり3日ぐらい寝てなさい」と言っても、「冗談じゃない」と怒る人さえいます。そのため、本来は必要ないと思いつつ、医者はいやいや薬を出すこともあります。「とりあえず」の裏にはそんな気分があることもありますね。薬をほしがる人が多いのは、健康保険制度のためです。今のように3割負担ではなく全額自費だったら、「薬はいりません」と言う人もたくさん出てくると思います。(奥仲医師)

例えば早期の肺がんの症状に乾いた咳をするというのがありますが、単なる風邪と区別がつきにくい。その場合、医師は肺がんの可能性も念頭に起きつつ、咳止めの薬を「とりあえず」出す。それで回復すればいいですし、よくならなければ、いよいよ肺がんを疑って改めて診察したり、大きな病院を紹介したりします。最初の薬でよくならないと、「あの医者はヤブだ」と思って別のクリニックに行ってしまう人が意外と多い。するとまた、「とりあえず薬を」となってしまい、なかなか正しい診断に辿り着けません。(松井氏)

■(ジェネリック医薬品の)「効き目は同じです」

このセリフの背景には、医療費の抑制のため、国がジェネリック医薬品を強く推奨しているという事情があります。日本は欧米諸国と比べると、国民健康保険のおかげで先発医薬品でもさほど高額にならないため、ジェネリックの普及が遅れています。そこで医療費を抑制すべく、厚生労働省はジェネリックの普及に力を入れていて、薬局でもジェネリックを勧められるのです。

ただ、実際にはジェネリックの効果が先発品と100%同じというわけにはいきません。大体80%程度は有効成分が同じといわれています。ジェネリックが販売されるのは先発品の特許が切れた後になりますが、その際、添加剤など細かい成分がすべて明らかにされるわけではありません。厳密に言えば、先発品より効果が多少劣るジェネリックもあるといわれています。でも、その差が取るに足りないと思う場合、「効き目は同じです」と言っている医師が多い印象です。迷ったときは、「先生ならどちらを飲みますか?」と聞いてみましょう。もし担当医もジェネリックを服用しているなら、より安心して選べます。(松井氏)

■「薬がなくなったら、また来てください」

この言葉の裏には、「よくなったら来なくていいですよ」というのがあります。患者さんが心配している場合でも、「この薬でほぼ治るだろう」と思いながら処方するときに、よく使います。もちろん、表面的な症状の裏に別の病気が隠れていることもありえますから、薬がなくなる頃にも症状が続くようなら、もう1度よく診て、薬を継続するなり精密検査をするなりといった判断をします。逆に、最初からしばらく飲み続けてほしいと思っている場合、こういう言い方は絶対にしません。例えば高血圧やコレステロールの薬を出すときには、「1カ月後にまた来てください」などと、きちっと次の予約を入れてもらいます。そこで経過観察をしないといけませんから。(奥仲医師)

■「とりあえず検査しましょう」

健診のX線検査で胸部に影が出たという方が、詳しい検査をしてほしいと来院することがあります。でも画像を確認すると、どう見ても血管っぽい。あるいは乳首が写ることも多いんです。ところが、今はがんの見落としが話題になっていたりしますから、医師のほうも慎重になって「がんの疑いあり」と診断する傾向があります。

曲がりなりにも一次検査で異常が指摘され、患者さんが精査を希望する以上、CT(コンピュータ断層撮影)を撮らざるをえません。たぶん違うだろうと思いつつも、納得いただくために「とりあえず検査を」となるわけです。撮ってみると、案の定血管だったり乳首だったりすることが多い。それはそれで「よかったですね」となるわけですが。もちろん、「万が一のことがあったら」と心配する患者さんの気持ちはわかります。でも、なんでもかんでも「万が一」を案じていたらキリがありません。本当に「万が一」を気にされるのならば、ある程度の費用負担を覚悟で人間ドックを受けることをお勧めします。(奥仲医師)

▼入院・手術編
どう解釈すべきか不安になる一言

■「セカンドオピニオンを受けたらどうですか?」

患者さんが診断に疑問を持っている場合は、セカンドオピニオンをお勧めします。紹介状も書きます。ほかの医師に私の診断の妥当性を伝えることにもなりますから。その結果、「奥仲の言っていることはまともなんだ」と納得してもらえれば患者さんの満足度は増します。

ただし、がん治療に限って言えば、本当にセカンドオピニオンが必要なケースは格段に減っています。がん治療は「がん診療ガイドライン」に沿って行われますから、どの病院で受診しても大きな違いが出る余地がないのです。近頃、信頼できる医者を求めて病院をわたり歩く「ドクターショッピング」をする方が増えています。これはお金の無駄なだけでなく、治療の遅れにもつながります。

もっとも、患者と医者とはいえ人間同士の付き合いですから好き嫌いもあります。特に女性患者さんの場合、生理的に苦手なタイプの医者に触れられるのが嫌で、「セカンドオピニオンを」と言って病院を替える人がいます。(奥仲医師)

医者のほうからセカンドオピニオンを勧めることも増えてきました。少し前までは、患者がおずおずと切り出しても、「馬鹿野郎! 信用できないなら、もう来るな」なんて言う医師もいましたから、大きく変わったものです。

セカンドオピニオンの有効性は病状によって違うようですが、神経内科や精神科などの領域で、セカンドオピニオンを受けてよかったというケースをよく聞きます。知人の親御さんが認知症だと診断されたのですが、たまたま雑誌で「治る認知症」と言われる特発性正常圧水頭症について知り、セカンドオピニオンを求めて大きな総合病院の神経内科を受診しました。すると、まさにその症状であることがわかり、適切な治療を受けられたそうです。心配なら受けるべきですね。(松井氏)

■(手術は)「成功しました」

そもそも、「手術の成功=完治」ではありません。手術の成功とは、事前に説明した手術が予定通りにできたということを指しており、99%は成功するものです。医療ドラマによく描かれるように、手術中にドバドバ出血してしまうなんてことはほぼありません。手術は成功したのに術後の経過が思わしくないことがあるのは、感染症や合併症が起きた場合です。こればかりは予想がつきませんから、手術の成否とは関係ありません。術後に病状が悪化した場合、「手術自体はうまくいったけれど、持病の糖尿病のせいで合併症が出た」などと言っても言い訳めいて聞こえるのでしょうが、実際にそうとしか言えない場合もあります。(奥仲医師)

■「余命◯カ月です」(短めに宣告される場合)

本来は、3カ月~半年レベルで「あと◯カ月は大丈夫ですよ」と言うべきだと私は思います。「大丈夫」というのは、仕事をしたり人と食事に出かけたりできるという意味です。バリバリ働いている人であれば、余命をお伝えすることで、今後について目安にしていただくことができますから。その後、3カ月なり半年なり経ったところで、その時点で予想される余命を再度推測することになります。進行がんの場合、治療をしている段階では、例えば抗がん剤が効くかどうかで余命は変わってきます。ですから、余命は短めに、予想される最も短い期間を言うことが多いのです。よく、「余命半年と言われたのに、3年も生きた」ということがあるのはそのためです。(奥仲医師)

▼隠語・業界用語編
病院内で交わされる意味不明な言葉の数々
【ステる】

ドイツ語で「死亡する」を意味するステルベンの略語です。医者としても患者さんが亡くなるのは辛いものです。医療スタッフ同士でも婉曲な表現を使うことで、言う側も聞く側もそうした気分を和らげたい思いがあります。また、万一ご本人やほかの患者さんに聞こえても、意味がわからないようにする意図もあります。間もなく亡くなりそう、というのは、高レベルの個人情報ですから。もっとも、患者さんの耳に入る可能性がある場所で、そんなことを話すのはどうかと思いますが。(中山医師)

【エッセン】

「食べる」というドイツ語の動詞に由来する言葉で、食事のことです。かつてはよく使われていたようで、今も70歳以上の先生がちょっと気取って言ったりしますが、私は恥ずかしくて使いませんね。ただ、こういう言葉を使う習慣があった背景には、患者さんの前で「食事に行ってくる」とは言いづらいという事情があったのでしょう。医者だって食事を取るのは当たり前なんですが、病気で苦しんでいる患者さんに気を使っているわけです。(奥仲医師)

【カンファ】

カンファレンスの略です。医師が出席するものは、大小さまざまな会議やミーティングをすべてカンファと呼びます。「これからカンファ行ってくる」という具合に、ごく日常的に使います。ただし、病院の経営会議のように事務方のスタッフも入るものは、「会議」と呼ぶことが多いです。(中山医師)

【BSC/DNR】

BSCは「ベスト・サポーティブ・ケア(Best Supportive Care)」のことです。がん患者に対して、効果的な治療が残されていない場合に、抗がん剤などの積極的な治療は行わず、症状を和らげる治療に徹することを指します。ただし、たとえ末期がんだからといって「何もしない」のではありません。身体的な苦痛を軽減して、生活の質を高めようという意味が込められています。DNRのほうはDo Not Resuscitateの略で、Resuscitateとは「蘇生する」という意味です。心停止に至っても心肺蘇生を行わないことを指します。あらかじめDNRの意思表示があった場合、容態が急変しても挿管したりせず、「◯◯さんはDNRだから、そのままお看取りしましょう」となります。看護師にとっても大事な言葉ですね。(奥仲医師)

【エント(ENT)】

退院するという意味の「エントラッセン」を略した形です。これもまたドイツ語由来です。カルテには「ENT」と書きます。一般的に、患者さんは退院したがらないものです。特にご高齢になるとその傾向が強く、ご家族からも「あと3日ぐらい置いておいてもらえませんか」などと言われることも多い。でも、日本中の病院でそれをやっていたら、医療費が膨大に膨らんでしまう。やはり、医学的に必要なくなったら退院してもらうべきなんです。患者本人もご家族も渋るところを、なんとか説得して帰っていただくという場面が結構あります。(中山医師)

【ゲバルティッヒ】

「乱暴な」という意味のドイツ語です。例えば、術後に抜糸するときに勢いよく引っ張りすぎて、患者さんに「痛いっ!」なんて言わせた場合、「ちょっとそれ、ゲバルティッヒだよ」という具合に使います。あるいは、もっと大胆に処置したほうがいいのに、妙に慎重になっている若手に、「もっとゲバルティッヒにやっていいからさ」などと声をかけることも。相当マニアックな言葉ですが、年長の外科医だったら知っていると思います。(中山医師)

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奥仲哲弥
医師
山王病院副院長、国際医療福祉大学医学部呼吸器外科学教授。東京医科大学医学部を卒業後、同大学第一外科講師を経て現職。専門は肺がんの外科治療、レーザー治療。
 

中山祐次郎
医師
鹿児島大学医学部卒業。都立駒込病院で研修後、同院大腸外科医師(非常勤)として10年勤務。福島県高野病院院長を務めた後、福島県郡山市の総合南東北病院外科医長として勤務。
 

松井宏夫
医学ジャーナリスト
中央大学卒業。「週刊サンケイ」記者を経てフリーに。名医本のパイオニアとして著名。日本医学ジャーナリスト協会副会長、東邦大学医学部客員教授を務める。
 

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(医師 奥仲 哲弥、医師 中山 祐次郎 構成=小島 和子 撮影=大沢尚芳、山内義文 写真=iStock.com)

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