安倍首相が"2024年まで続投"を拒むワケ
プレジデントオンライン / 2019年3月22日 15時15分
■「連続3期までが党の明確なルール」というが……
安倍氏の発言は3月20日午後、東京・内幸町の帝国ホテルで開かれた日本商工会議所(日商)でのスピーチで飛び出した。日商の三村明夫会頭が最近、3期目を目指す考えを表明したことに触れて、「さすがに4期目は考えていないと思うが、私も全く同じ心境だ」と語った。「連続3期までが党の明確なルールなので正真正銘、3期目が最後の任期になる」とも述べた。
背後で聞いていた三村会頭も含め、聴衆たちの間で笑いが漏れるユーモアに満ちたスピーチだったが「正真正銘」という言葉からは、党内外で流布されている4選論を沈静化させようという意思が感じ取れた。
■「4選論」を打ち上げたのは、「3選論」の仕掛け人だった
この4選論は、政界の仕掛け人でもある二階俊博党幹事長が12日の記者会見で「今の活躍からすれば十分あり得る」とアドバルーンを上げたことで、にわかに注目され始めた。二階氏は、2016年夏、当時は「連続2期」までしか認められていなかった総裁任期の延長を提案し「3選容認」の流れをつくった。
二階氏の働きがなければ、いまの首相は安倍氏ではなかったかもしれない。このあたりの経緯については「"80歳の古だぬき"二階氏が権力もつ理由」をご参照いただきたい。
その二階氏の発言だけに政界も注目しないわけがない。賛否両論が出た。安倍氏を支持する議員からは「二階氏の提案が一考に値する」という反応があった。一方、自ら次の総裁選出馬を目指す議員からは「国会議員が『4選のために頑張る』といっても有権者が支持するかどうかわからない」(石破茂元幹事長)、「この時期には適当な発言ではなかった」(野田聖子前総務相)と疑問の声があがった。
■当初は二階氏の「4選論」を歓迎していた
二階氏の発言の直後、安倍氏は悠然と構えていた。むしろ歓迎していたと言っていい。安倍氏が3選目の総裁任期が切れる2021年9月よりも長く首相でいる可能性が出ることで、レイムダック(死に体)にならないで済むからだ。石破氏らが、かみつくのも想定の範囲内だった。
実際、二階氏の発言の直後の13日の参院予算委員会では安倍氏は「私も今年65歳となるが、まだ働きたいという意欲は満々だ」と意味深な発言。14日には参院予算委員会で4選論を問われ「党則で禁じられている。ルールに従うのは当然だ」と語っている。一見、4選を否定した発言のようだが、ルールさえ改正されれば4選を目指す意欲があるとも受け取れる。
この発言を受けて永田町では「やはり安倍氏は4選を目指していて、二階氏と連携して政局をつくろうとしている」という観測が流れるに至った。安倍氏も、そういった噂が流布されることを楽しんでいるように見えた。
■4選支持「たった9%」に衝撃を受けた
局面が変わったのは15日、時事通信社の世論調査で「4期12年まで延長するのがいい」と答えた人が、わずか9.0%に止まったのだ。「3期9年のままでいい」が63.5%。このデータは、安倍氏の4選を有権者が評価していないのに加え、安倍氏の4選をうかがう動きに対して不快感がひろがっていることを意味する。
この調査では「次の首相にふさわしい人」も聞いているが、断トツ1位は小泉進次郎・厚生労働部会長で24.4%。安倍氏は2位の石破氏に次ぐ3位で14.2%にとどまっている。この調査からも、有権者は「3選後」を安倍氏に託す考えが乏しいことが分かる。
■参院選の争点が「4選」になりかねない
今のままの状態を続けると7月の参院選では「安倍氏の4選を認めるかどうか」が争点となるだろう。そうなれば「安倍1強」が長く続いたことによる傲慢さが問われることになる。
有権者も自民党に対する不信感を高めるだろうし、何より野党が結集しやすくなる。原発政策や消費税などの政策課題での「小異」にこだわってなかなか結集が進まない野党だが「安倍4選阻止」ならば何の問題もなく結集できる。それは安倍氏にとっても、自民党にとっても最悪の展開だろう。
ちょうど、この調査が出回ったころから安倍氏の周辺から「安倍首相は二階氏の発言に怒っている」という情報が発信されるようになる。そして、冒頭で紹介した「正真正銘、3期目が最後の任期」発言につながるのだ。
■参院選と衆院選に勝てば、流れは止まらない
ただし、あらためて強調しておきたいのは、安倍氏は「4選」という選択肢を捨てたわけではない。今はいったん沈静化させたうえで、仕切り直ししようという考えだ。
7月には参院選がある。このタイミングにあわせて衆院を解散して同日選になるという観測も残る。同日選にならなくても今秋もしくは来年中、安倍政権の間に衆院選が行われる可能性が高いだろう。参院選と衆院選に勝てば、党内では総裁4選論が台頭することは間違いない。その時までは、4選への意欲は封印するというのが安倍氏が描くシナリオなのだ。
「『最後の任期』と明言しているのだから4選は目指せないのではないか」と考える人がいるかもしれない。しかし、政治家の進退を巡る発言は融通無碍だ。本人は出る意思がなくても、周囲の要望に応える形で選挙に出馬する例はいくらでもある。
たとえば橋下徹氏が「2万%出ない」といいながら大阪府知事選に出馬したのは記憶に新しい。自らつくった多選禁止規定を、自ら破って多選の道に足を踏み入れる首長もしばしばいるのだ。その前例をみれば、したたかな安倍氏が「最後の任期」という言葉に縛られると考えるのは早計だろう。
(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)
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