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移民流入なら日本人の雇用はむしろ増える

プレジデントオンライン / 2019年3月23日 11時15分

お笑い芸人 パトリック・ハーラン氏

外国人労働者の受け入れ拡大を掲げる「出入国管理法改正案」が今年4月から施行される。移民流入にはどんな影響があるのか。お笑い芸人で、自身も移民のパックンことパトリック・ハーランは「移民の受け入れは、その国の雇用者を減らすのではなく、増やす」という。その理由とは――。

※本稿は、パトリック・ハーラン『「日本バイアス」を外せ!』(小学館)を再編集したものです。

■なぜ日本は移民の受け入れに消極的なのか

少子高齢化が進む日本では、特に農業や介護の分野などで、今後ますます人材が不足することが予想されます。AIやロボットによって一部は補えるかもしれませんが、やはり生身の人間にやってほしいことって、いっぱいありますよね。マッサージチェアは昔からありますが、マッサージ屋さんはなくなりません。それと一緒。

僕は社会の多様化につながる、外国人労働者を受け入れることには基本的に前向きです。経済的にも、高度な技能を持つ外国人の受け入れは、日本の再成長のために必要だと思っています。あるいは、高度な技能を持つ日本人が自由に仕事できるように、単純労働でそれを支える外国人も必要ではないでしょうか。いろいろ含めて、僕は「移民」賛成派です。というか、僕も移民ですしね。

しかし日本で移民の話をすると「移民? あり得ない!」と即座に否定する方も少なくないようです。日本には鎖国時代もありましたし、開国後も移民に消極的な政策をとってきました。その上、最近は海外で移民・難民関係のトラブルが目立ちます。日本国民が不安を抱くのは当然かもしれません。でも、このままでは、2050年には労働人口が半減し、3人に1人が65歳以上になると予測されている日本だからこそ、移民の受け入れを呼びかける声も年々増えています。実際に移民を受け入れたら日本はどうなるのか。「あり得ない!」で話を終わらせるのではなく、今のうちにしっかり考えてみませんか。感情的にならず、あくまでも冷静に。

■世界に混乱を招いたトランプ大統領の入国禁止令と国境の壁

移民といえば、トランプ大統領は就任直後の2017年9月、一部諸国の移民や難民のアメリカ入国を禁止する入国禁止令を発令しました。去年の秋には難民集団を「侵入者」と呼び、メキシコとの国境の整備強化を命じました。今年に入って、議会で予算の確保ができなかったため、非常事態宣言して国境の壁の建設を無理やりやると決めました。この流れを受け、国内外で多くの人々の怒りを買い、国際的な混乱を招いています。

これは「テロリストとつながりのある個人を見つけ出し、入国を阻止すること」が目的とされていますが、そもそも「移民や難民に、テロリストや犯罪者が紛れ込んでいる」というのは、本当でしょうか。

国連のグテーレス事務総長は、国際社会が向き合っているのは「とてもずる賢い国際的なテロ組織」であり、アメリカに入国する際は、「紛争が続いている疑われやすい国のものではなく、安心できそうな国のパスポートを利用するはず。もしくは、すでにアメリカにいる者を実行犯として使うだろう」と語り、トランプの主張を否定し、入国禁止令を批判しました。

大統領選挙期間中には、トランプ氏の長男、トランプ・ジュニア氏がツイッターで投稿した発言も多くの話題を呼びました。彼はカラフルなキャンディ「スキットルズ」が山盛りに入ったボウルの写真をアップしたうえで、シリア難民を「毒入り菓子」に例えた次のようなメッセージを添えたのです(多数の批判を受け、後に投稿は削除されました)。

「私がボウル1杯のスキットルズを持っていて、この中に食べたら死ぬものが3粒だけ交ざっていると言ったら、あなたは片手1杯分、召し上がるだろうか? これがわれわれのシリア難民問題だ」と。

■難民の関わるテロ攻撃で、米国人が殺される可能性は極めて低い

しかし、その記事を読んだある数学者が、実際の統計から難民の中にテロリストがどれほどいるかという試算をしてみたら、ボウル1杯どころか、オリンピックサイズの大きなプールにスキットルズをなみなみと入れて、せいぜい3粒入る程度だったというのです。

この試算を報じたワシントンポストの記事(2016年9月20日)によれば、1年間に難民が関与したテロ攻撃で、アメリカ人が殺される可能性は36億4000万分の1でした。それに対して、アメリカで殺人事件の犠牲者になる確率は10万人当たり4.5人。難民にテロで殺される確率より、アメリカ人に殺される確率の方が、はるかに高いというのです。本当にアメリカの治安向上を図りたいなら、移民を入れてアメリカ人を出せばいいのかもしれませんね。

実は、ヨーロッパでも移民の多い地域は、そうではない地域よりも犯罪率が低い、というデータもあります。イギリスのガーディアン紙(2013年4月28日)によれば、2003年から12年にかけて、イギリス国内で東ヨーロッパからの移民が大量に流入した地域では、盗難、破壊行為、車の盗難などの犯罪が減少していることが、専門家の調査でわかりました。

■移民が果たす財政貢献

そもそも全体の犯罪率が極めて低い日本と他の国とでは事情が異なりますが、日本でも、来日外国人数が増えているにもかかわらず、警察庁による来日外国人の検挙件数を見ると、2004年に4万7128件だった犯罪件数は、16年には1万4133件に減少しています。外国人労働者の数はこの5年で倍増していますが、犯罪件数は激減しています。

つまり移民の増加が、犯罪の増加に直接つながるとは限らないということです。

しかし恐怖心や不安とともに一度根付いたイメージを払拭するのは簡単ではありません。

「移民は失業手当など社会保障を食い物にし、財政を悪化させる」。こんな懸念もよく聞きます。これに関しては、こんなデータがあります。

イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの2014年の研究によれば、イギリスに来た移民は2001~11年の間に約200億ポンド(現在のレートで約3兆円、以下同)の財政貢献を果たしました。つまり、移民が国の財政にもたらした額が、移民に対する社会保障などの支出額を約3兆円も上回ったのです。

また、ドイツには約6600万人の移民がいますが、彼らが国の財政に貢献した総額は、2014年の報告では年間およそ220億ユーロ(約2.9兆円)にのぼるそうです。

■トランプ政権は「疑惑のメガ・モール」

この通り、意外に思われるかもしれませんが、移民が納税する額は、移民が受ける社会保障の額を上回り、国の財政へ利益をもたらすことの方が多いのです。

まあ、考えてみれば当然の結果かもしれません。移民は、教育費などで税金がかかる幼少期を母国で過ごしてから、生産力のある大人として仕事をしに来るものですから。

では、助けを求めに来る難民についてはどうでしょうか? 実は2017年にアメリカ政府がその計算をしています。過去10年間で難民が納税した額から、難民が受けた公的サービスなどの政府出資額を引いたところ、これも630億ドル(約7兆円)の黒字だということがわかりました。難民も経済に貢献しているのです。

しかし、そうとわかっていても、トランプ政権は納税額の数字を無視し、出資額だけにスポットを当て、アンチ難民の感情を煽あおっています。その情報操作も発覚してニュースになっていますが、まあ、現政権のスキャンダルの中ではマイナー過ぎる話題で、あまり注目されていません。日本で政治家を「疑惑のデパート」と呼ぶことがありましたが、規模が違います。トランプ政権は「疑惑のデパート」どころか、「疑惑のフードコート」や「疑惑のスーパー」などもすべて寄せ集めた「疑惑のメガ・モール」とでも言うべきでしょうか。

■外国人受け入れが日本社会にもたらすもの

このように、移民・難民は治安や財政に貢献しているようですが、考えてみれば、外国人がもたらすものはそれだけではありませんよね。

例えば、外国人が日本社会に入ることで彼らの国とのつながりができます。彼らは自分の生まれ育った国のライフスタイルやニーズも掌握しており、当事者ならではの情報や見解を握っているのです。グローバル化を目指す企業などに重宝されて然しかるべきです。

さらに日本人とは違う教育を受けてきた外国人の発想で、日本国内のアイディアが多様化し新しい商品開発につながるなど、世界市場を視野に入れた事業展開も可能になると思います。もちろん外国人が持ち込む食・音楽・文学などの文化的な要素も大きいでしょう。

一般的なイメージや政治家のレトリックに反するかもしれませんが、移民の受け入れは、その国の職を減らすのではなく、職を増やす効果があるのです。移民によって労働人口も消費人口も増え、国内需要も増えますから、国内市場は大きくなります。消費の増大によって新たな雇用も創出され、結果的に経済成長が促されると考えられるのです。

■イメージだけで議論しない

日本のように、労働者だけを受け入れるケースもそうですが、扶養家族をも受け入れる本格的な移民制度では、外国人労働者は自国への仕送りより、日本にいる家族にお金をかけるようになり、さらに経済を刺激します。

『「日本バイアス」を外せ!』(パトリック・ハーラン著・小学館刊)

実際に1990年代半ばから移民の人口比率を増やしたスペインは、移民の流入によって高い経済成長を達成しましたが、2008年までは失業率も上がっていません(08年以降は深刻な金融危機によって経済が低迷し、失業率も大幅に増えていますが、移民政策の問題ではありません)。

こういうデータや具体的な事例はたくさん存在するのに、移民・難民問題はよく「イメージ」だけで語られてしまいます。でも、そのイメージには思い込み、先入観、固定概念などの「バイアス」がかかっているかもしれません。もし「バイアス」がかかっているようならば、なるべくそれを外し、視野を広げ、事実を把握してから日本の未来を形作る議論に挑むべきではないでしょうか。

(お笑い芸人 パトリック・ハーラン)

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