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弘兼憲史"家族は仲良くなんて法律はない"

プレジデントオンライン / 2019年5月26日 11時15分

漫画家 弘兼憲史氏

■仕事も家庭も大切にする「デキる男」という虚像

結局多くの男は、日本の「デキる男像」みたいな虚像に囚われすぎているんですよ。その1つは、ビジネスマンとしての成功と家族の幸せを両立させている、というもの。でも、家庭と仕事を両立している人って、私の周りでは極めて少ない。島耕作もそうです。娘の誕生日より会議ですから(笑)。

当然そうしないと出世できないし……というところは、残念ながらありますよね。だから、成功したビジネスマンは往々にして家庭では孤独です。

いま、働き方改革が叫ばれていますけど、トップに上りつめる人は、そんなこと考えていない。でも、「仕事以外の私生活も大事」と言っておかないといけない社会的な立場にあるから、言っているというだけです。もちろん、一方で、家庭を一番に考えて、一番のお父さんになるという幸せもありますよ。それも立派な生き方です。どちらの人生を選ぶかは自由です。

僕たち団塊の世代は、一世代前のモーレツ社員の働き方を見て社会に出ました。半分はモーレツ社員になり、もう半分はその反動で家族を大事にした生き方をしようと思った。では、モーレツ社員を選んだ人たちがどうなったかというと、定年すると家族から疎外されてしまうんですよね。仕事という生きがいを失うと、体の免疫力が衰え、病気になって周りから見てもすごい勢いで落ち込んで小さくなっていく。そんな人をたくさん見てきました。

サラリーマンは、50歳くらいには先が見えているんですよ。会社でこの先どれくらい出世できるか、役員になれるのか、このまま定年で終わりか。大半の人は“このまま定年”でしょう。そうしたら、会社で無理にがんばるのをやめて、50歳のうちから第二の人生をどう生きるか考え始めないといけません。たとえば蕎麦屋をやりたいなら、50歳のうちから休日に全国の蕎麦の名店を食べ歩くとかね。

一方で、取締役まで残れたところで、65歳くらいには、社長・会長にならない限り会社生活は終わります。そんな人たちも、仕事を終えると気持ちが内向きになって、だんだん飲みの誘いもこなくなる。銀座であれだけ遊んでいたのに、と思ってしまいますよ(笑)。

ごく稀なケースが、一流の経営者。彼らは最後まで自分に責任を持って生きていくから、ある意味で「孤高」なんでしょうね。たとえば、ユニクロの柳井正さんや、ソフトバンクの孫正義さん。でも、彼らは突き抜けた人たちで、自分でなんでもできてしまうので、他人には真似はできない。そういう人たちは、後継者が見つからないという悩みがあるかもしれないですね。

だから、極端な例外をのぞけば、どんな人でも自分が必要にされなくなったときのことを、仕事でも家庭でも、考えておかなくてはいけない。たとえば若いうちでもバリバリの外資系で活躍している人が、ふとプロジェクトがなくなることだってある。人生のシチュエーションが変わったときに、どう振るまうか。自分一人での楽しみ方を準備できないとね。遊ぶにしても、銀座のクラブは無理でも、近所の飲み屋でもいいじゃないですか。

孤独というとネガティブに思われる方がいますが、1人のほうが気楽だと気持ちを切り替えれば逆にポジティブになれます。僕はそれを「一人暮らしパラダイス」って呼んでいるんです。

■嫌な親族より、気の合う他人

島耕作も、課長時代の30代後半で離婚して、60歳で社長になって再婚するまでずっと独り身ですから。まぁ、彼の場合はいろんな女性と出会うんで、妻帯者だと浮気になっちゃうので、自由恋愛ができる立場にしておかないとダメという都合もあるんですけどね(笑)。

孤独は、これからより大きな社会的テーマになりますよね。僕たちのような団塊世代が親世代を見送ったと思ったら、今度は自分たちが孤独死の予備軍になっているわけでね。

そう考えると、家族と一緒に暮らすのがいいと思いがちなんだけど、そうとも限らない。だって、家族と住んでいるといろいろと気を使うわけですよ。子どもや孫に嫌がられたり、汚がられたり。介護される側になったらなおさら。僕は、「家族がいる不幸」もたくさんあると思いますよ。家族だから仲良くしなきゃいけないなんて、決まりも法律もないんです。弟とか姉とか嫌な奴だったら、無理してつきあうことはない。場合によっては、縁を切ったっていいと思います。嫌な親族より、気の合う他人を大切にすべきです。

特に夫婦は、血の繋がりはもともとありません。気が合えば一緒だし、合わなきゃ離れて暮らすしかない。なぜか家族を持つこと、大人になるのは他人を受け入れて我慢することだ、という変な先入観がまだはびこっていますけれど、嫌なら我慢して一緒にいることはないですよ。

1人で暮らすのは楽ですよ。大声で歌ったって怒られないし、おならをしたって誰も文句を言わない。そういう気楽さがあるから、「一人暮らしパラダイス」。それを孤独と感じ始めたらマイナスの方向に向かってしまうけれど、1人で楽だと思うと、逆に楽しくなってくると思うんですね。

団塊世代を代表する“いい男〟島耕作。現在は71歳で会長を務める。著者の弘兼憲史は、年齢を重ねる男の「孤独」をどのように捉えているのか──。ⓒ弘兼憲史/講談社

僕も、いつ「島耕作」や「黄昏流星群」の連載が終わるかわかりません。でも、次にすぐ新しいことを考えるタイプだから、すぐに気楽に、能天気に切り替えられる。島耕作と同じで、「知的な能天気」でありたい。明日が楽しくなるにはどうしたらいいか。それだけを考えて生きていこうと思っています。

自分でプロダクションを抱えて社員を食べさせているから、僕にも、彼らの人生への責任はある。けれど、最終的には、自分一人になって、自分だけに責任を持てたらいい。人間誰でも死ぬときは1人だから。最後は孤独です。自分の死にも、自分だけが責任を持てればいい。そのうち、尊厳死など、死に方も自分の責任で決められるようになるでしょう。橋田壽賀子先生が、「自分の死は自分で決める」とおっしゃっていますけど、僕もまったく同意見です。

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弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)に入社。74年に漫画家デビュー。作品に『人間交差点』『課長 島耕作』『黄昏流星群』など。島耕作シリーズは「モーニング」にて現在『会長 島耕作』として連載中。2007年紫綬褒章を受章。

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(漫画家 弘兼 憲史 構成=伊藤達也 撮影=的野弘路)

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