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崩壊寸前「中国の成長バブル」の落とし前

プレジデントオンライン / 2019年3月27日 9時15分

中国が成長率目標を引き下げた。政府当局は「構造改革」を強調するが、実態は先送りにすぎない。大和総研の齋藤尚登主席研究員は「中長期的には中国の成長率の低下は不可避だ。景気の急減速が起きる可能性も否定できない」と警鐘を鳴らす――。

■姿を消した「サプライサイドの構造改革」路線

日本の国会に当たる第13期全国人民代表大会(全人代)第2回会議が北京で開催された。初日の3月5日には、李克強首相による「政府活動報告」が行われ、2019年の政府経済成長率目標は前年比6.0%~6.5%(以下、変化率は前年比、前年同月比)に設定された。成長率目標は2017年~2018年の6.5%前後から引き下げられたことになる。

成長率目標が下げられることは問題ではない。既に中国は、2017年10月の第19回党大会で経済の「中高速成長」を放棄し、「質の高い発展」を目標に掲げた。成長速度から質の高さ重視への転換は、成長率が多少低下したとしても、中国経済が抱える過剰投資とそれを支えた過剰債務問題、資源浪費と環境問題などの緩和・改善に本格的に取り組む姿勢を強調したのである。

これを具体化したのが、「サプライサイドの構造改革」であり、(1)過剰生産能力の解消、(2)過剰不動産(住宅)在庫の削減、(3)デレバレッジ(負債率の引き下げ)、(4)企業コストの引き下げ、(5)弱点の補強(脱貧困、イノベーション重視、環境保護など、中国経済が抱える問題点や弱点の改善)の5つから構成される。

問題は中国経済の下振れリスクが高まると、それを回避するために「質の高い発展」や「構造改革」を堅持することができなくなることである。

政府活動報告では、2019年の重点活動任務の筆頭に「マクロコントロールを革新・充実させ、経済の動きを合理的な範囲内に確実に保つ」ことを掲げ、2017年~2018年に最も重視された「サプライサイドの構造改革」は重点活動任務から姿を消した。

ちなみに、2016年にも「経済の動きを合理的な範囲内に保つ」ことが最優先されたが、当時は2015年8月と2016年1月のチャイナ・ショック(株安、人民元安、外貨準備急減)を経験した直後であり、その際にも政府成長率目標は6.5%~7.0%というレンジで設定された経緯がある。2019年も景気下振れリスクが高いと想定されるが故のレンジ設定であり、景気下支え優先なのであろう。

■当面は構造改革よりも成長維持を優先

サプライサイドの構造改革が2019年に重点活動任務から外れたのは、2018年後半以降の景気減速の主因の一つが、行きすぎたデレバレッジがもたらした金融引き締め効果によるものであったためであろう。

社会資金調達金額(経済全体の資金調達金額)の増減額を見ると、銀行貸出以外の広義のシャドーバンキング経由の資金調達額が2018年5月、6月に純減(回収超過)となる異常事態が発生した。シャドーバンキングは、銀行貸出に多くを期待できない、民間部門を中心とする中小・零細企業の命綱であり、2018年には民間企業の倒産や社債のデフォルトが相次いだ。

こうした中で、政府活動報告は「リスクの防止・抑制に当たっては、ペースと度合いをしっかりとコントロールして、過剰生産能力の解消、監督管理の強化、環境保護の厳格化などによる経済収縮効果の相乗的拡大を防ぎ、経済動向が合理的な範囲内から決して滑り出ないようにする必要がある」として、当面は構造改革よりも成長維持を優先する姿勢を示したのである。

■資金調達急増でも素直に喜べない理由

政府活動報告によると、財政・金融面では、①2019年の財政赤字は2兆7600億元(約46.0兆円)、GDP比は2.8%とし、2018年より0.2%ポイント引き上げる、②地方政府特別債券のネットの発行額は、8000億元(約13.3兆円)増の2兆1500億元(約35.9兆円)として、重点インフラ投資の建設を資金面でサポートする、③社会資金調達金額残高の伸び率やM2増加率は、名目GDP成長率と見合いとする、などとされた。

上記②の地方政府特別債券の発行が制度化されたのは2015年であり、同債券はインフラ投資など収益性のある地方プロジェクトに用いられる。2019年の地方政府特別債券のネットの発行額(発行額-償還額)とその純増額は大きく増えており、景気下振れリスクが高まる中、インフラ投資を下支え役に、景気の大幅減速を回避しようとの中国政府の意図が読み取れる。

この動きはすでに始まっている。2018年にインフラ投資が腰折れとなったのは、2017年後半以降、地方政府債務の急増を招きかねない、地方政府によるプロジェクトの資金調達の肩代わりや投資資金・利益の保証を中央政府が禁止したためであった。デレバレッジの成果としてインフラ投資が急減速したのである。しかし、デレバレッジを堅持することはできずに、昨年夏場以降、景気急減速回避を目的にテコ入れが始まり、既述した通り、2019年はインフラ投資のための地方政府特別債券の発行額が大幅に増額されている。

さらに、昨年夏場以降の金融緩和により、行きすぎたデレバレッジは修正されただけではなく、2019年1月の社会資金調達金額の増減額は、実に50.5%増の4.64兆元と急増した(ただし、2月は減少)。企業の資金調達難は景気減速要因の一つであり、その緩和は本来喜ぶべきことである。しかし、その急増は少なくとも二つの大きな問題や懸念を抱えている。

一つは資金調達金額急増の恩恵が国有企業を中心とする大型企業に集中し、中小・零細企業は蚊帳の外に置かれている可能性が高いことである。2月の国家統計局の製造業PMIは49.2と、3カ月連続で拡大と縮小の分岐点である50を下回った。企業規模別には、大型企業は51.5、中型企業は46.9、小型企業は45.3となり、大型企業は50を上回り、かつ上昇した一方で、中型企業と小型企業は一段と低下した。中国政府は昨年夏場以降、中小・零細企業向けのサポート強化策を相次いで発表したが、その効果は発現していないどころか、状況はむしろ悪化している。

中小・零細企業の資金調達難、調達コスト高の改善は積年の課題であり、今回の政府活動報告でも、①中小銀行を対象とした預金準備率の引き下げを行い、貸出可能となった資金の全てを民間企業や中小・零細企業への貸出に充当する、②国有大型商業銀行の中小・零細企業向け貸出を30%以上増加させる、といった政策が打ち出されてはいる。ただし、この実効性をどのように担保するのか、道筋は示されていない。

■たまるツケ=金融リスクの増大に要注意

資金調達金額の急増が招く、もう一つの大きな問題は、負債率の一段の高まりで将来的な金融リスクが一層増大する懸念が高まることである。これは中長期的な中国経済の行方を左右する問題である。

BIS(国際決済銀行)統計によると、2018年9月末の非金融部門の債務残高のGDP比は252.7%(内訳は非金融企業152.9%、家計51.5%、政府48.3%)に達している。一般的に、債務残高が積み上がっている場合や、増加ペースが速い場合には、金融危機を誘発するリスクが高まると考えられているが、中国はすでにかつて金融危機に陥った国々と同様かそれ以上の債務規模を抱えている。

それでも短期的には中国で金融危機が発生する可能性は低いとみられているのは何故か? 中国の非金融企業の債務の大半は国有企業によるものであり、そのファイナンスは国有銀行が担っている。国有銀行が国有企業に対して貸し剥がしなどを行う可能性は考えにくいからである。

こうしてみると、当面は問題の先送りが可能であろう。しかし、中長期的には何らかのイベントが引き金となって金融危機的なもの、あるいは景気の急減速を招く可能性は否定できない。例えば、その一つに元安のリスクがある。今後、生産性の上昇率鈍化や元高進行により輸出競争力が低下すれば、経常収支は赤字に転じる可能性がある。投資収益率の低い国有企業が今後も淘汰されず、対内直接投資の減少傾向が継続すれば、直接投資収支の赤字が定着するだろう。

このような中、何らかのショックで資本流出が起きて、元安が加速し、これを人民元の買い支えで対応することで、外貨準備は減少するというスパイラルが起きれば、金利は上昇せざるを得ず、急激なバランスシート調整のきっかけとなり得るのではないか。

あるいは、経常収支赤字が拡大する中、資本取引規制を強化したらどうなるのか? 当局が念頭に置くのは資本流出の規制であろうが、出口が塞がれる国への資本流入は細る可能性が高い。こうした中でも資金流入を維持しようとすれば、金利を大幅に引き上げる必要がある。需要抑制的な政策の採用によって、投資が減少し、景気は大きく減速することになろう。

さらに、住宅価格の長期低迷のリスクもある。特に、住宅需要を支えていた30~34歳の人口が2021年以降は減少に転じることが予想される。その際、住宅需要が減退するにもかかわらず、住宅供給調整がうまく行われなければ、住宅価格の低迷は長期化しよう。住宅は家計だけでなく企業も投資・投機目的で保有しており、負債圧縮を目的に、家計は消費を、企業は投資を抑制する可能性がある。銀行にしても不良債権の増大により貸出余力が低下することが想定される。

■中国の成長率1%の低下は日本を0.2%程度押し下げる

いずれにしても中長期的には中国の成長率の低下は不可避のように思える。金融リスクの低減には、デレバレッジを中長期的に維持する必要があるのだが、2019年はそれを棚上げにして、投資主導で景気下振れ回避を優先しようとしている。デレバレッジの先送りが短期で終結しなければ、そのツケはいずれ成長率の急低下として払われることになろう。

もちろん、日本経済・産業界にとってこれは対岸の火事では済まされない。大和総研の試算によれば、中国の成長率が1%ポイント低下すると、日本の成長率は0.2%程度押し下げられる。中長期的には債務問題のソフトランディングが極めて重要な課題となり、その鍵を握るのはデレバレッジを含む構造改革の推進なのである。

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齋藤尚登(さいとう・なおと)
大和総研主席研究員
山一証券経済研究所を経て、1998年大和総研に入社。2003年3月~2010年6月に北京駐在。7年3カ月にわたる北京滞在中は、現地エコノミスト・ストラテジストの交流を積極的に行い、中国経済と株式市場制度などについて情報を発信。帰国後、主任研究員を経て2015年より主席研究員、経済調査部担当部長。平成29年度より財務省財務総合政策研究所中国研究会委員、平成30年度より金融庁中国金融研究会委員を務める。

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(大和総研主席研究員 齋藤 尚登)

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