"年収5000万円の税理士"が得意な外国語
プレジデントオンライン / 2019年4月8日 9時15分
※本稿は、山口揚平『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「誰かと共にいること」自体が仕事になる
ソサエティ(社会)からコミュニティ(共同体)へシフトする中で、私たちの働き方や仕事はどのように変化するのだろうか。
仕事の変化を一言で言えば、それは労働から貢献へのシフトということになろう。それは何か時間を使って作業をすることではない。コミュニティに対して貢献することが仕事となる。
先にも述べたように、作業だけではなく、その人が「存在」していること自体が仕事となる場合もある。経済の中心はモノでもコトでもなく、ピア(誰かと一緒にいること)になる。そうすると、誰かと共にいること自体が仕事となるのだ。
最近の卑近な例を挙げるのであれば、友活などもその部類に入る。何かを提供する作業を伴わず、一緒にいること自体が相手にとって価値となるからである。
したがってまずは、一緒にいて気持ちの良い人になる必要がある。会社組織に所属する場合でも、最も重視されるのは学歴やスキルではなく、「一緒に働きたいか?」という一点に集約される。
一緒にいて気持ちの良い人とは、一般的にはコミュニケーション能力の高さを意味するが、コミュニケーション力とは、言ってみれば「人との距離感のマネジメント」にほかならない。嫌いな上司、尊敬する先輩、未熟な後輩、友人、親戚、あらゆる人それぞれに応じた適切な距離を10段階くらいで設定でき、それぞれに応じた接し方、言葉の使い方、語彙を増やしていくことである。
相手を単にブロックするのか、仲良くなるのかといった白か黒かの選択ではない。相手との関係にグラデーション(濃淡)をつけることである。
■誰もが「感情労働者」たるべきだ
次に、仕事の現場においては誰もが感情労働者(エモーショナルワーカー)たるべきだということだ。これは人の心の機微を敏感に知覚して、しかるべき対応をする意識を働かせるということである。
本書はあくまでも思考論(考えるための意識の使い方)を説いたものであるが、意識の使い方には後に述べるように、相手の気持ちに焦点を当てるといった国語のような方法もある。
くり返しになるが、巷で叫ばれるAI脅威論に対して、AIやロボットが仕事を奪うということについて気にする必要はない。AIは思考しない。ただ計算するだけである。計算はそれがどれほどの関数や変数を使おうと次元を超えることはできない。AIが目指すところはあくまで情報の最適化。「フレーム問題」に対処できておらず、上位次元から物事を捉え、有機的につなげることができない。それができるのが、人間の強みである。
人間は意識を使うことができる。意識は次元を超える。先ほどのエモーショナルワーカーのように、相手の胸元に意識の焦点を当て続ければ、おのずと相手の考えていること、望んでいるものがわかる。AIに勝つには計算力をつけるよりも、意識をコントロールする力を養うほうが大事だ。
■「業界人」は徐々に生きづらい時代になる
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仕事が労働から貢献へと変わるとき、私たちが取り入れるべき具体的な行動がいくつかある。
たとえば21世紀においては、単なる「業界人」の価値は下がる一方である。
専門性が不要と言うわけではない。たとえばM&Aという課題を解決するには会計や財務、税務、法務、人事、業務、ITなどの専門家集団(ファンクショナル・エッジ)が必要になる。
ただ、現状ではそうした専門家集団(業界)は機能的に分断され閉じているので、いくら業界知識を持っていてもM&Aのような大きな課題は解決できない。それができるのは、優秀な経営者やプロデューサーなど、メタ思考で課題を俯瞰して横串を刺して見ることができ、最適な解決策を考えられる人に限られる(図表1)。
そもそも私は「業界」とはある種の固定観念だと思っている。慣習的に確立された仕組みの中でオペレーションを回すもの、それを業界と言う。そこで優先されるのは効率化であり、仕組みと目的が定義されたフラットな領域における最適化について、AIはとっくに人間を超えた。この構成員たる「業界人」は徐々に生きづらい時代になる。金融業界で起きている大規模リストラが業界人の衰退を如実に表している。
出版業界で働いているなら、IT業界やアート業界とは絶対につながらなければいけないだろうし、世の中に存在するさまざまな社会課題に対しても首を突っ込んでおくべきだろう。あとはグローバルへの対応。わずか1億人強しか使わない日本語にこだわるのではなく、自分なりに得意な言語を選んで、その言語圏での出版トレンドに敏感になっておけば大きな強みになる。もし紙メディアだったら、ウェブメディアやアニメ業界、動画ストリーミング業界ともつながっておく必要がある。
そうやって縦や横のつながりを日頃から作ってどんどん組み合わせていかないと、新しい発想は生まれず、斜陽産業である出版業界の中では生き残れないだろう。
■ベトナム語を話す税理士の年収は5000万円
しかも、ネットワーク社会に移行していくと、今まで以上に専門性が容易に調達できるようになる。無数のプロフェッショナルに直接仕事を依頼できるクラウドソーシングもあれば、SNSのネットワークを使ってプロ人材を探し出し、仕事を手伝ってもらうこともできる。
だからこそ業界という枠組みを超えて橋渡しすることで新しい価値を生み出せるハイブリッド人材の価値は乗数的に上がるのだ。たとえば税理士の年収は500万円、ベトナム語の通訳の年収も500万円、だがベトナム語を話す税理士の年収は5000万円である。
アートの世界を見ても、本当に大成功している天才と言われる人たちは皆、ハイブリッド人材である。世の中には絵が得意な人は掃いて捨てるほどいるが、やはりピカソやモネを挙げるまでもなく、現代でも千住博氏などは別格である。彼らは絵描きであると同時に、思想家・哲学者でもあるからだ。
もちろん、自分の好きなことに没頭しながら生きやすくなる社会ではある。でももし何かの世界で圧倒的な成果を挙げたいなら、自分のアトリエを飛び出し、知識を貪欲に学び、その知識を統合することにしか成功はないだろう。
■ビジネス書を乱読しても本質は身につかない
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どんな仕事を選ぼうと、マスターやメンターを持つことは必要だ。
なぜならコミュニケーション作法や所作、考える枠組み、倫理基準などの仕事のスキルは「身体知」であり、言語化できるものではないからである(つまりビジネス書を乱読しても本質を身につけることは難しいということ)。
身体知を身につけるためには仕事のロールモデル(師匠)を見つけて、じっくり観察してモデリングすることが成長への最短距離である。
マスターとは職業軸のつながりのことで、メンターとはプライベートな軸のつながりのこと。前者はティーチングやコーチングをしてくれる「師匠」、後者は焼肉を奢ってくれながらメンタリングをしてくれるような「先輩」のことで、プライベートな軸のつながりを指す(図表2)。
マスターとメンターなきキャリアはまずないだろう。地方の工場で働いていようとニューヨークのゴールドマン・サックスで働いていようと、それは変わらない。
たとえばマネックスグループCEOの松本大氏のマスターはジョン・メリウェザー氏。世界中から天才を集めてきてLTCMというヘッジファンドを作った経験を持ち、今でも派手に活躍する伝説の投資家だ。そのメリウェザーが師匠として崇めているのが、世界最大の投資ファンド、クォンタムファンドを率いるジョージ・ソロス氏。
■マスター・メンターは身近な人でなくてもいい
こうやってマスターやメンターの系譜はつながっていくもので、それは21世紀に入っても変わらない。むしろネットワーク社会のおかげで、今までは出会うことすら叶わなかったような人ともつながりやすくなる。
逆に言えば自分が成長したときは、面倒くさがらずにプロフェッショナル軸の「弟子」とプラベート軸の「後輩」を持ち、その系譜を永続させていく姿勢が重要である。
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ちなみに私のM&Aの領域のマスターは三菱商事、アステラス製薬など多数の社外取締役や監査役を務める岡俊子氏だ。その岡氏のマスターが旧デロイトトーマツやアビームコンサルティングを設立した西岡一正氏である。
マスターやメンターは必ずしも自分のすぐ近くから探す必要はない。
自分が習得したい分野で能力的にも人間的にも尊敬できる人を見つけたら、多少強引でも弟子入りさせてもらう道もある。本や記事を読んで感銘を受けた人がいたら、SNSでダイレクトにメッセージを送ってアポイントを取るという方法もあるだろう。もしくは講演会などに参加して、講演後の交流タイムで挨拶をし、フェイスブックなどでつながり、その人が何かプロジェクトを動かすときに真っ先に手を挙げ、無償で貢献するという方法もある。
弟子入りさせてもらううえで最も大事なことは、愛嬌。次いで、とにかく使えるヤツと思われることだ。
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事業家・思想家
早稲田大学政治経済学部卒。東京大学大学院修士(社会情報学修士)。専門は、貨幣論、情報化社会論。1990年代より大手外資系コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わったあと30歳で独立・起業。劇団経営、海外ビジネス研修プログラミング事業をはじめとする複数の事業、会社を経営するかたわら、執筆・講演活動を行っている。
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(事業家・思想家 山口 揚平 写真=iStock.com)
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