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トヨタが「電話番」の採用をつづけるワケ

プレジデントオンライン / 2019年4月12日 12時15分

トヨタ副社長でトヨタコネクティッドの社長も務める友山茂樹氏(撮影=上野英和)

自動車業界で「CASE」というキーワードが注目を集めている。Cはコネクティッド(つながる)、Aは自動運転、Sはカーシェア、EはEV(電気自動車)である。なぜ1文字目はコネクティッドなのか。その本質はなにか。トヨタ自動車副社長で、トヨタコネクティッド社長の友山茂樹氏に聞いた――。

■なぜ「CASE」の1文字目はコネクトなのか

自動車業界は百年に一度の大変革期にある、とされている。

EV、自動運転から空飛ぶ自動車にいたるまで、さまざまな技術革新が一気に進んできたのが2016年からの事情だからだろう。

きっかけとなったのが、同年9月に行われたパリ・モーターショーにおけるダイムラーの発表だった。同社が「CASE」と名づけた中長期の戦略を示したことが、自動車業界を中心に広がったからだ。

では、CASEとは何か。

C コネクティッド

自動車があらゆるものにつながり、遠隔操作、車の状態を見る機能、専門オペ―レーターの秘書機能などが付け加えられること。


A オートノマス
自動運転。ドライバーがいない、無人運転の車が町を走るようになること。


S シェアサービス
ウーバー、グラブといったライドシェア企業の勃興。加えて、トヨタの「キント」、ダイムラーの「カートゥーゴー」といったカーシェアサービスが一般化していくこと。
E エレクトリック
電動化。いわゆるEVへのシフトが進んでいく。

この4つのなかで、世間がすぐに理解できるのが自動運転とEVだ。次いで、シェアサービスだろう。

だが、ダイムラーは最初にCの頭文字がついたコネクティッドをとり上げた。なぜコネクティッドは重要なのか。斯界の専門家として私が思い浮かべたのは、トヨタコネクティッド社長、トヨタ自動車副社長の友山茂樹氏だった。彼はまだウィンドウズ95がリリースされる前から情報技術に関心を持ち、2000年には現社長の豊田章男氏の下で、トヨタコネクティッドの前身、ガズーメディアサービスを設立した。世界で最初に本格的にコネクティッドに取り組んだひとりだ。

■トヨタコネクティッドはITとトヨタの融合

設立は2000年。トヨタのコネクティッド戦略の中枢を担う。従業員は800人。

「クルマユーザーとITを通じて接点を持つこと。様々なメディアを通じてユーザーが求める情報を発信できる仕組みを作る」

会社案内にはこうある。コネクティッドは車につながる仕組みだけれど、車だけでなく、運転するユーザーともつながっているんだと強調しているのが、トヨタコネクティッドの特徴だ。その証拠に同社はオペ―レーターを自社で採用、教育している。人工音声のガイドによるエージェント機能もあるけれど、同社のオペレーターは業界では最も長い経験を持っている。つまり、さまざまな顧客の問いかけ、要望に接している。

最初から結論を言うようだが、トヨタコネクティッドを賢く使うには、オペレーターサービスに慣れて、道案内だけでなく、レストランやホテルの予約をためらいもなく依頼することだ。

以下、友山茂樹トヨタコネクティッド社長のインタビューをお届けしよう。

■かつてパソコンは「つながらない」道具だった

――ものすごく簡単に言うと、自動車におけるコネクティッドの価値とはなんでしょうか。

【友山】はい。ものすごく簡単に言いましょう。

昔の話ですが、かつてパソコンは「つながらない」道具でした。つながらないまま、パソコン本体でワープロ、表計算などをやっていた。ところがインターネットが一般化し始めて、パソコンにモデムがついて、ネットワークにつながった。今ではパソコンはインターネットにつながって動くのが前提になっています。シンクライアント(Thin client)という言葉がありますけれど、ユーザーの端末では最小限しか処理をしないで、中身はすべてクラウドにあるようにもなりました。

つながることによって、価値は飛躍的に高まり、さまざまなことができるようになったのです。車とコネクティッドの関係はパソコンとインターネットみたいなもので、車もネットワークに常時、つながることによって、便利になり、新しい使い方が生まれます。

――つまり、今の自動車は通信機能が発達している、と。

【友山】おっしゃるとおりです。今の車は通信機器もさることながら、さまざまな装備が増えて、まるでジェット機のようになっています。たとえば安全装置、自動ブレーキが付加されました。これが自動運転に近づいていくと、カメラやセンサーがさらに多くなります。制御装置、アクチュエーター(電気エネルギーを運動に変換する装置)などはさらに複雑なものに変わっていく。そうすると、機能を正常に保つために定期的なメンテナンスが必要になってくる。ジェット機が1回、飛ぶたびに格納庫でメンテナンスを受けるのと同じようになっていくのがこれからの車です。

■シンガポールのライドシェアカンパニーと提携

――コネクティッドも含めた車の機能が進展した結果、実際にメンテナンスが増えたという例はありますか。

【友山】はい。グラブというシンガポールに本社がある会社をご存じですか。東南アジア全体で1日400万ライドの稼働がある域内最大のライドシェアカンパニーです。

グラブに所属するドライバーの3分の1は、自分の車を持たずに仕事をしているんです。そこがウーバーとは違いますね。まだ自分の車を持っていない人が多い地域なんですね。

グラブはドライバーに数万台の車を貸し出して、売り上げのなかからレンタル料を回収しています。それもまたグラブの収入になる。

トヨタはグラブと提携していることもあって、何万台も使っていただいていますが、シンガポールのグラブに使われているトヨタ車にはすべてDCM(通信端末)がついていてコネクティッドになっています。車の稼働状況、状態、ドライバーの運転サービスの品質までわかります。

――シェアサービスの車ですから、一般の車よりも稼働率は高くなる?

【友山】ええ、グラブの例でいえば、車の稼働率は一般の車の7倍から8倍になっています。

■生産性4倍以上のメンテンナンスとは

――なるほど。確かに、外を走り回って稼がなきゃいけないからですね。

【友山】一般の車の稼働率はおよそ4%とされています。96%の時間は車庫に寝ているわけですね。ところが、グラブの車は30%以上。一般の車よりも走っているから6週間に一度はメンテナンスしなきゃいけない。

グラブとしてはメンテナンスの時間を短くしたい。メンテナンスの品質を上げて、車が故障するのを避けたい。そうしてメンテナンスにかかるコストも安くしたい。

彼らは従来の4倍くらい生産性が高いメンテナンスを必要としていました。

そこで、グラブの車をメンテナンスするため、トヨタはカーディーラーのなかに専用ラインを作りました。トヨタには「トヨタ生産方式」という生産性を向上させる仕組みあるので、それにのっとった専用ラインを地元のボルネオモーターズの修理ラインに入れたのです。

現在、ボルネオモーターズでは1500台のグラブに所属するトヨタ車をメンテナンスしています。だいたい30分で1回のメンテナンスが終わってしまう。他のディーラーだと半日から1日はかかるでしょうね。

■自動車はどんどん飛行機に近づいている

――コネクティッドされていることによって、車の走行状態、記録がつかめるから、前もって、メンテナンスする予測ができるわけですね。だから、メンテナンス時間も短くすることができる。コネクティッドの恩恵のひとつと言えます。

【友山】はい。そして、自動運転が実現すると、コネクティッド機能はますます重要になります。車にはさらに9つのカメラ、たくさんのセンサー、複雑なアクチュエーターが付きます。同時に、自動運転車は大量のデータを収集します。そのデータを解析し、ソフトをアップデートし、またインストールしなければならない。

自動運転車の場合は、そうした大量のデータを1日に1回は抜いて、入れ替えが必要になってくる。とても、エアー(無線通信)では抜けません。鮮明な画像データを含んだ大量のデータですから。

データを抜き、車体に付設したすべてのカメラをキャリブレーションするので、そうなると、1日に1回はメンテナンスを受けなくてはならない。まさしく、ジェット機と同じです。

――すみません、キャリブレーションってどういう意味ですか?

【友山】ごめんなさい。キャリブレーションとはカメラの補正です。走っているうちにカメラってだんだんずれてくるんですよ。物理的な位置のずれもそうですし、9つのカメラの同期を合わせるのもキャリブレーションって言ってます。

――自動運転になると、普通の車でも、現在よりも確実にメンテナンスの頻度が多くなるということですね。そして、常時、コネクティッドされていなくては走ることもできない。

【友山】もちろんです。自動運転とコネクティッドっていうのはもう、切っても切れない関係です。まず、車の状態をいつも監視しなきゃいけないし、データを収集しなければなりませんから。

スマホならば、つながらないとか、フリーズしても、そのうち動くだろうという気持ちがユーザーにはあります。

しかし、自動運転は機能が止まれば乗っている人は命を失うかもしれない。複雑さ、大切さは飛行機と同じですし、1ミリ単位の制御をしなければいけないので、飛行機よりも精密かつ複雑な装置になります。

――コネクティッドに取り組んだのは、トヨタは早かった?

【友山】はい。正確にいうと2000年、現社長の豊田(章男)と一緒に、ガズーメディアサービスをつくったのが始まりでした。コンビニ用のKIOSK端末を造り、スリーエフ、ファミリーマートに設置したのがスタートですね。音楽の提供や中古車の画像が見られるようにしたのが最初の仕事だった。その後、2002年に「G‐BOOK」という名前で車とつながる機能を持ちました。

社長の豊田が、とにかくメーカーと顧客との接点をつくらなければと始めたんです。僕らは「BtoC」ビジネスって呼んでいて、Cはコンシューマーでなく、コンビニのこと。その時、BtoCの厳しさ、コネクティッドの厳しさを嫌というほど味わったんです。

たとえばKIOSK端末が壊れた。すると、店長が電話してきて、「すぐ直せ」。僕らは北海道でも沖縄でも飛んでいく。行って直す。修理に時間がかかるわけです。

すると店長が「おまえたちがガチャガチャやってる間、客が入らなかった。弁償しろ」と。僕らは謝りながら、お惣菜とか、弁当、カップ麺を買って帰る。沖縄で買ってきて、北海道で買ってきて、会社の机の上がカップ麺とお惣菜で、いっぱいになっちゃったんですよ。

それで、本当にもう、これが、お客様との接点なのかと悩んでいた時、北米にいた豊田が「車へのITサービス」というプロモーションビデオを持って帰ってきた。

車がコネクティッドされれば理想的なことができるという内容のビデオでした。

ビデオを見た時、「ああ、これだ」と。コンビニに行って、つながらない機器を修理して、お惣菜やカップ麺を買ってる場合じゃないんだ、僕らは。

KIOSK端末の事業は順調だったのですが、5年やって、あるシステム会社に譲渡しました。われわれの端末は車のなかに入れるべきだ、と。それで2003年に「Will サイファ」という、冒険的な車に初めてDCM(Data Communication Module)を積みました。ですから、コネクティッドを始めたのは世界に先駆けてだと自負しています。

■オペレーターサービスを「レクサス」に標準搭載

【友山】ただし、車載機を開発したのはいいけれど、通信速度が遅かった。またまた苦労しました。それがだんだん進化していって、2005年に日本で「レクサス」をデビューさせた時に、他の高級車と差別化するために、コネクティッドの役割のひとつであるオペレーターサービスを標準搭載したのです。

――トヨタコネクティッドは車とつながっているけれども、乗ってる人ともつながっている。そして、その象徴がオペレーターサービスだとも言えますか?

【友山】そうですね。私たちはヒューマン・コネクティッド・サービスと言っています。トヨタのコネクティッド・サービスの裏には心通う人間がいます。代表的なものがオペレーターで、各オペレーターは直接、お客様と話して、お客様の要望を実現する。

そして、心が通う人間とはオペレーターだけではありません。メンテナンスをするディーラーの人々、車の状態を常にモニターしているスタッフ、事故に遭ったら、警察に連絡したり、さらには保険の適用まで手配する保険会社の人間。乗っている方の安心を見守るのは心が通じ合う人間しかできないと思っています。

――乗っている方とすれば、欲しいのは安心安全です。近頃は「あおり運転」の問題もあるし、何かあってもいいように、見守ってほしいと思っています。

■モビリティカンパニーに変革の時

【友山】私たちの目標は究極の安心を提供すること。もともと、コネクティッドにはふたつの柱があります。

ひとつはお客様の究極の安心です。しかも、それをタイムリーに提供する。安心が欲しいのは困っている時です。つながっていれば、困っていることが何かがおおよそつかめます。ジャストイン・タイム・サービスをお客様に提供する。時々刻々変わる、お客様の状態、車の状態に合わせなければいけない。限りなくリアルのサービスを強化して、お客様にお届けする。

もうひとつは車の開発から製造、販売、アフターサービスまでの一連のビジネスの戦闘能力を上げるためのコネクティッドです。

社長の豊田はカー・カンパニーからモビリティ・カンパニーに変革すると言っています。変革するための鍵がコネクティッドなんです。新しいトヨタをつくるうえでの原動力になるもの。そういう意味ではトヨタのコネクティッドは単なる車の技術ではなく、お客さまの安心につながり、さらに、モビリティの未来につながるものです。

――一般のコネクティッドの捉え方とはずいぶん違いますね。一般にはスマートスピーカーが車内にあるというイメージの方が強いのではないでしょうか。

【友山】そうかもしれません。バーチャルの車載情報サービスだと思っている方は多いでしょう。

たとえば音声認識のAIのエージェントがいます。「ハーイ」というと答えてくれる。スマホのコンテンツが車の中でも見られます。音楽が聴けますとか……。

もちろん、そういうことも大事なんですが、私たちのコネクティッドは範囲が広く、先を見据えているというと、自慢になってしまうかな。

■一度でも使ったら、もう元に戻れない

――わかりました。では、乗ってる人にとって、いちばんコネクティッドが有効というか、あってよかったと思うのは、どういう時ですか?

【友山】それはやっぱり、その人、その人によって違うのですが、知らず知らずのうちに、コネクティッドの恩恵を受けているケースがあります。つながっていることでソフトウェアがメンテナンスされていたり、地図データが更新されていたり。

もちろん、あとはリアルなオペレーターサービスです。一度でも使った人は「もう元に戻れない」と。連絡してもらうだけでなく、例えば、車の状態の異変を感じたら、お客さまが乗ったとたんに、オペレーターが連絡する。非常に人気が高くて、人数がだんだん足りなくなってきていますね。

保険もコネクティッド専用のものを用意しました。当社とあいおいニッセイ同和損保さんとて開発した新しい形の保険。「つながる保険(トヨタつながるクルマの保険プラン)」は、非常に好評です。この保険は運転のマナーがいいと、保険料が安くなる。だいたい契約した80%以上の人が、運転マナーがよくて、割引を受けています。事故率は3割も低い。事故率が下がるっていうのは、ユーザーにとっていちばんいいことだし、保険会社にとってもいい。社会にとっても、うちにとってもいいこと。

実は国内だけでなく、シンガポールのグラブもこの保険に入っています。すると、運転マナーがよくなり、事故が減りました。グラブはこの保険のおかげで、運転品質が上がり、事故が少なくなったことで喜んでいます。

■「つながらなかったら、レクサスじゃないだろ」

――最後に、コネクティッドの、今いちばんの問題点とはどういうところでしょうか。

【友山】いちばんの問題点はつながらない時間が生まれること。

先日、電波障害があって、オペレーターサービスにつながりにくくなった日があったんです。

すると、お客様から苦情が入りました。ある方はこう言われたとのこと。

「いつも車を発進させてから、オペレーターさんと話して、カーナビに目的地を設定してもらっていたんだ。それができないじゃないか」

オペレーターとはつながるのですが、カーナビのデータが車まで届かなかったんです。

「つながらなかったら、レクサスじゃないだろ。もう、いらない。この車を返したい」

その時、本当にわかりました。つながる車がつながらなくなったら、車じゃないんだなって。

(トヨタコネクティッド社長 トヨタ副社長 友山 茂樹 文=野地秩嘉 撮影=上野英和)

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