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いまさらサイパン直行便を復活させる理由

プレジデントオンライン / 2019年4月1日 9時15分

スカイマークの佐山展生会長(撮影=プレジデントオンライン編集部)

■観光客が10分の1以下に激減した「忘れられた島」

東京から飛行機で3時間半。美しい珊瑚礁の島・サイパンには、かつて年間45万人の日本人が訪れていた。それが今ではわずか4万人。2018年には日本からの直行便もなくなった。いわば「忘れられた観光地」になってしまったのだ。

そのサイパンに、スカイマークが就航するという。3月と5月にチャーター便を運航し、夏ごろに1日1便の定期運航を始める目標だ。実現すれば、国内航空会社の「第3極」を自認する同社にとって、はじめての国際定期便となる。

「チャンスはあります」

スカイマーク会長の佐山展生は、筆者の取材に対し、そう言い切った。佐山は同社の筆頭株主、投資ファンド・インテグラルの社長でもある。

「われわれが飛ばせる距離には制限があります。かといって、LCC(格安航空会社)や大手二社の混戦しているところに飛び込んでいくのは、われわれの戦術ではない」

■他社便がないので、飛ばすだけでシェア100%

スカイマークの所有する機体はすべて同型の中型機であるため、途中で燃料補給をせずに飛ばせる距離に限りがある。

飛行可能域内には台北、香港、ソウルなど、観光、ビジネス両面でニーズの高い都市は多い。どの路線も国内外の大手からLCCまで、1000本単位で飛び、価格競争は熾烈だ。

「需要の高いところには競争が集中します。大手に勝つためには、違う闘い方をするんです」

なるほど、他社便が飛んでいないサイパンならば、渡航者は100パーセント、スカイマークを選ぶことになる。4万人については他社と食い合うことなくすっぽりスカイマークの機体に収めてしまうことができるというわけだ。

ガラパンの街中 アメリカンメモリアルパーク前(写真=マリアナ政府観光局/MVA)

「他社がこのわずかなパイをとりにくるとは、よほどのことがない限り考えられません。サイパンの関係者からお話をいただき、ぜひやろうと」

大きな市場ではなく、むしろ、誰もほしがらない小さな市場を一手に引き受けるほうが、勝ち目はある――。隠し絵のような話だが、視点をちょっとズラすと、ビジネスの可能性が見えてくる。スカイマークには茨城空港という先例もあるからだ。

■茨城空港からの国内線はスカイマークの独占市場

茨城空港は2010年に民間空港として開港したが、国内線を運航しているのはスカイマーク1社である。栃木や群馬など周辺県に空港がないなか、茨城空港は北関東の人たちにとって利便性が高い。現在、札幌(2往復)、神戸(2往復)、福岡(1往復)、那覇(1往復)の4都市に就航している。

つまり茨城空港からの国内線については、スカイマークの独占市場ということができる。

スカイマークの佐山展生会長(撮影=プレジデントオンライン編集部)

「東京にいる人たちは『なぜ茨城空港なんて……』などと言います。でも、北関東の方たちにとっては成田も羽田も遠い。これまで飛行機を利用しにくかった地域です。それが、茨城空港を利用すれば、格段に移動が便利になるのは間違いありません」

スカイマークと茨城空港の縁は深い。2015年12月にスカイマークが経営破綻した際には撤退も懸念されたが、苦しい時期を乗り越えた。

バスケットボールのプロリーグ・Bリーグでは、茨城県のクラブと就航地パートナーシップを締結し、冠試合や協賛試合を開催するなど、地域密着型のプロモーションに力を入れている。

■「いちばん苦しい上り坂こそチャンス」

佐山は年3~4回フルマラソンを走るランナーでもある。「ズラし」の経営について、マラソンにたとえてこう話した。

「マラソンの上り坂といっしょです。しんどいところにさしかかると脱落していきます。そこをぐっと我慢して、坂を上り切ったら、勝てるんです」

ほかの投資先でも、「ズラし」の成功体験がある。たとえば、封筒に大量に書類を入れる封入封緘(かん)機の製造メーカー、BPS。

BPSの封入封緘機「EXTRUST」。最大10000通/時(名寄せ枚数1枚)の処理速度を持つ。(写真=BPSウェブサイトより)

佐山の経営する投資ファンド・インテグラルは、2009年からBPSの再生支援を手がけている。当時、BPSの業界シェアは5割程度だったが、ダイレクトメールなどの減少により、同業他社が相次いで撤退。現在のシェアは3分の2ほどに高まっている。

「市場規模を参入企業数で割るとどうなるか。封入封緘機の市場がなくなるわけではない。撤退する企業が増えるほど、シェアは伸びる」(佐山)

その視点からサイパン路線就航を見ると、独自の位置づけが見えてくる。

■年間定時運航率で国内12社中1位を獲得

大手各社にとって、4万人しか渡航者が見込めない路線は撤退対象である。だが、これから海外就航をめざす第3極のスカイマークにとっては、競合他社と価格競争をせずに4万人の市場を独占して、海外運航の「レッスン」ができる価値ある路線になる。

要は、他社と同じ考え方をせず、スカイマーク独自の状況に合わせて市場をとりに行くということである。

他方、サイパン渡航者は直行便の利便性を再び享受できることになる。

アチュガオビーチ(撮影=マリアナ政府観光局/MVA)

2015年11月に経営破綻したスカイマークは、2020年9月の再上場を目指して再建計画を立てている。2019年夏の海外就航は、そのシナリオ通りではある。2018年2月には、平昌冬季オリンピック応援のチャーター便を運航している。国際線は経営破綻後初めてで、これも定期運航に向けた準備の一環だった。

こうした挑戦を下支えするのは、業績が前倒しで改善している国内線だ。昨年には年間定時運航率1位(12社中)を獲得。現在は顧客満足度1位をめざしている。2017年度の業績は売上高は828億円、営業利益は71億円で、2018年度は増収増益の見込み。国内線の業績回復は計画より早い。

■「スペインなど直行便のない都市は案外たくさんある」

だが、それにしても、現在のところ、サイパンへの旅行者数が伸びそうな材料はみあたらない。長期的にはどのように考えるのか。

「長期的には、というのは考えていません。それは国内線でも同じです。一社が動くと全体に影響を及ぼします。過去の動きや事例も参考にならない。常に動きを見ながら決めないといけない」

そして、これは私個人の考えですが、と前置きをしたうえで、佐山は国際線について次のように語った。

「欧米にも可能性があると思っています。例えばニューヨーク便やパリ便は渡航者が多く、あふれている。ニーズはあります。あるいはヨーロッパには、スペインをはじめ、日本の航空会社が直行便を飛ばしていない都市は案外たくさんあります。欧米に飛ばすには大型機を使用することになるので、相応の準備が必要だが、十分にチャンスはある」

この業界は何が起こるかわからない。狙っていれば、チャンスは巡ってくる。

海外便を開始するにあたっては、国内便とは別に仕組みづくりが必要だ。さらにその先に欧米への定期運航をめざすということであれば、サイパン便は手始めとして申し分のない路線ということになる。

サイパンに続き、ゴールデンウィーク明けにはパラオへのチャーター便運航が決定している。

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三宅 玲子(みやけ・れいこ)
ノンフィクションライター
1967年熊本県生まれ。「人物と世の中」をテーマに取材。2009~2014年北京在住。ニュースにならない中国人のストーリーを集積するソーシャルプロジェクト「BilionBeats」運営。

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(ノンフィクションライター 三宅 玲子)

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