絶好調のマックに潜む見過ごせない死角
プレジデントオンライン / 2019年4月1日 9時15分
■カサノバ社長のもとで見事にV字回復のマック
日本マクドナルドホールディングスが絶好調です。2月に発表した2018年12月期連結決算では、売上高が7%増の2722億円、本業のもうけを示す営業利益が前年比32%増の250億円でした。
1店舗当たりの売上高は過去最高で、19年12月期決算についても過去最高となる2825億円になる見通しといいます。マックは14~15年ごろ、期限切れの鶏肉の使用や商品への異物混入の影響で、業績が落ち込みましたが、サラ・カサノバ社長のもと、見事にV字回復しています。
一方、ハンバーガー店としてマックに次いで業界2位の店舗数をもつモスバーガーは、業績が芳しくありません。14年3月期から18年3月期まで5年連続で客数が前年割れしているほか、運営会社のモスフードサービスは19年3月期連結業績決算で純利益が8億円の赤字になる見通しであるとも発表しています。
2社の違いはどこにあるのでしょうか。顧客はどう感じているのか、両店舗のNPS(※)を調べてみました。
※NPSは、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
NPSとは、「あなたはこの商品やサービスを誰かに薦めたいと思いますか」という設問に対する回答を分析することで、既存の顧客満足度よりも収益との相関が高いとされている指標です。欧米の主要企業が経営に取り入れており、NPSを判断材料として用いる投資家も増えています。
1.あなたは○○(ブランド名)を利用することを親しい友人や知人にどの程度おすすめできますか? ▶0‐10点の11段階で回答
2.Q1で「おすすめ度:0~10」の点数をつけるうえで、以下の体験はどのように影響しましたか。業界ごとに設定した「顧客体験」について、「非常にプラスに影響」~「非常にマイナスに影響」の7段階で回答 ▶さらに「その理由」を自由記述で回答
3.属性質問(性別、年代、年収、世帯年収)
調査対象:
モスバーガー利用者226名、マクドナルド利用者261名
回答取得手法:
インターネット調査
調査期間:
2019/2/7~2019/2/13
■マック利用者は「他人にはすすめない」という人が多い
マックのNPSはマイナス54.4%でした。日本では多くの産業でマイナスに出る傾向にあり、外食店舗のNPSは平均でマイナス40前後です。マックのNPSは飲食業の水準からみても低い数値といえます。つまり、マック利用者は、他人にはおすすめしたくないという人のほうが、おすすめしたい人よりも多いということです。それなのになぜ絶好調なのでしょうか。
データから、マックは比較的成果が出やすい販促施策が奏功したことにより、一時的な業績改善をしているだけの状態なのではないかと考えられます。
NPSを下げている大きな要因は「食事への安心感」です。顧客が食の安全性に関して不安の感情を持っていることから、異物混入の影響が尾を引いていることがうかがえます。また「栄養バランス」「料理の味」「コストパフォーマンス」についても、消費者の求めている水準とのギャップがありました。
このことから、マックの顧客は、価格のわりに提供される商品の品質が低いと感じていると考察できます。
■アプリのクーポンで「お得」を強力に感じさせる
ただ、詳細を見ていくと、一定の顧客からは価格が安いと感じられていることが見て取れます。なぜ顧客はその様に感じているのか。考えられる理由のひとつは「価格の見せ方」です。
マックでは「バリューセット」と呼ばれるセットメニューを訴求しています。これは商品を単品で買うよりも安くなるので、「得をした」という感覚をもちやすいといえます。それに加えてマックではスマホアプリを使ってクーポンを配布しています。クーポンを使えば、ただでさえお得に感じられるセットがさらに安くなるのです。しかもアプリは18年末の時点で、累計5400万ダウンロードされており、とても強力なプロモーション手段となっています。
クーポンは一時的に「お得」を感じさせる手段として強力です。「セットメニューが670円ですよ」と売り込まれるより、「690円のセットメニューが670円ですよ」と言われたほうが「買ってみようかな」と思ってしまいます、わずか20円の値引きでも、お客を店に呼ぶ誘因になるのです。
特にハンバーガーなどのファーストフードは、衝動的に食べられやすい類の料理です。アプリでのクーポン配布は、お客の衝動買いを誘う手段として強力です。
価格だけでなく、「店内の雰囲気・居心地」についても評価はポジティブでした。マックは古い店舗の閉鎖や改装を積極的に進めており、一定数は店内の雰囲気などについて評価をしていました。ただし、もっとよくしてほしいとの声も多々ありました。
マックは現在業績好調ですが、NPSの数字は高いとはいえません。これは顧客の店に対するロイヤルティーが低いことを意味しており、長期的に見れば危うい状況だといえます。ほかに行きたい店がでてくれば、すぐに移ってしまうファンではない顧客が売上の基盤をつくっているからです。
たとえば、再度、異物混入のような問題が起きれば、客足がぱったり途絶えてしまうかもしれません。その意味から、マックが今後も好業績を続けていくためには、「食の安全」について積極的にコミュニケーションを図ったり、商品やサービスの品質をより高めていったり、抜本的なサービス改善を図り、真のファンをつくっていく必要があるのではないかと考えられます。
■モスは「価格のわりに商品のサイズが小さい」の声
モスバーガーのNPSはマイナス27%でした。日本の外食産業は平均でマイナス40%、今回調査ではマクドナルドはマイナス54.4%だったので、それらに比べると高い数値です。
詳細を見ていくと、「料理の味」に関してはNPSの押し上げ要因となっています。多くの顧客はおいしいハンバーガーを求めて、あえてモスに来店していると捉えていいでしょう。それに対して、モスも期待にしっかりと応えているため、リピーター獲得につながっているようです。
ただ、コスパーフォーマンスについては、不満を感じている人が多いようです。自由回答では「マクドナルドと比べると高く感じる」「価格のわりに商品のサイズが小さい」とありました。モスは価格が「他人にすすめたくない理由」になってしまっています。マックの価格がクーポン施策などで一定の評価を得ていたのとは対照的です。
その意味では、モスはコストパフォーマンスの感じさせ方について、まだ改善の余地があるといえます。たとえば「価格の見せ方」の工夫が考えられるでしょう。
■モスは単品価格に「セット料金」が上乗せされてしまう
モスのセットメニューは単品価格に対して、「オニポテセット+440円」と表記しています。一方、マックは「バリューセット690円」として、単品価格を意識させないパッケージ型のメニューになっています。モスのほうがそれぞれの価格はわかりやすいのですが、価格を上乗せしていく方法なので、セットを頼んでも「得をしている」という感覚を得にくいと考えられます。
今回の調査結果をみると、マックは価格戦略含めた販促活動の成功により、一人ひとりのロイヤルティは低いものの、幅広い顧客を取り込んでいるのに対して、モスはモスが好きな一定のファンの人にしか売れていないのではないかと推察されます。
世帯年収についてみると、マックでNPSが一番高かったのは200~400万円未満の回答者だったのに対し、モスで一番高かったのは400~600万円未満の世帯でした。モスはより年収が低い層にターゲットを拡げることができれば、マクドナルドから顧客を奪えるかもしれません。
NPSはすぐに収益に影響が出るとは限りません。しかしNPSの高い企業は、長期的には収益も高くなりやすいことがわかっています。ロイヤルティーが高い顧客は口コミで新しい顧客を呼び込んだり、長期に渡り何度もリピートをしたり、一回あたりの購入の単価が高かったりと、収益拡大に結びつきやすいからです。そういう意味では、現時点で長期的な将来性があるのはマックよりモスである、との見方もできるのではないでしょうか。
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Emotion Tech 社長
1982年、東京都生まれ。早稲田大学大学院修了。日立製作所、ファーストリテイリングを経て、2013年に現在のEmotion Tech(エモーションテック)を創業。
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(Emotion Tech 社長 今西 良光 写真=時事通信フォト)
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