米国がファーウェイを禁止する本当の理由
プレジデントオンライン / 2019年4月10日 9時15分
※本稿は、田中道昭『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。
■疑われてきた中国の情報機関との関係性
創業者のレン・ジンフェイはかつて人民解放軍に所属しており、創業当初は人民解放軍時代の人脈を活かして業績を伸ばしたともいわれます。そういった背景から、ファーウェイは長らく中国人民解放軍や中国の情報機関との関係性が疑われてきました。
しかしファーウェイは、こうした疑念を強く否定しています。近年は中国政府から距離を置く姿勢を明確にしてきましたし、未上場企業でありながら内容の濃いアニュアルレポートをつくって情報開示に努めているのも、グローバルにビジネスを展開していく上でチャイナリスクを払拭したいという意思の表れなのかもしれません。
同社のサイトの「サイバー・セキュリティ」に関するページには、次のような文章が掲載されています。
【Made in Chinaが問題ではない】多くの欧米系ICTベンダーが大規模な研究開発センターを中国に設置しています。また、生産拠点を中国に置くICTベンダーも数多くあります。
【売上の約6割は中国以外の市場から】世界170か国以上で事業を展開しているファーウェイの売上の約6割は中国以外の市場からもたらされています。
【100%従業員所有】ファーウェイは非上場企業であると同時に従業員持株制度を採用し、2015年12月31日時点で7万9563人の従業員が全株式を保有しています。従業員は、不適切な行動をとったりすれば、自らの資産が損なわれることを理解しています。
■ファーウェイを警戒する動きはアメリカ以外でも
この文面からは、「ファーウェイは情報を中国当局に流すような会社ではない、そのような疑いがかけられるのは遺憾である」という強い思いが読み取れます。
しかしこうした情報発信の甲斐なく、ファーウェイは長らく警戒の目で見られてきました。2011年には、米国政府はサーバー技術を持つ米国企業3Leafをファーウェイが買収するのを阻止。その理由として、ファーウェイが軍人によっても投資されていること、人民解放軍が長期にわたって無償でキー・テクノロジーを同社に提供していること、両者が長期にわたる多くの協力プロジェクトを有していること等が挙げられました。
さらに2012年には、米国下院議会調査委員会が報告書を発表しました。そこではファーウェイとZTEという中国の通信機器大手企業について米国の安全保障への脅威であると主張されていました。そして2014年には、米国の政府機関などでファーウェイ製品の使用を禁止する措置がとられたのです。
2018年には、FBI、CIA、NSAなどの米秘密情報局幹部から、ファーウェイ製品やサービスの利用を控えるべきだといった発言があり、政府機関と政府職員がファーウェイとZTEの製品を使用することを禁じる国防権限法も成立しました。
こうした動きはアメリカで顕著ですが、ほかにカナダ、オーストラリア、ドイツ、英国などでも長らくファーウェイを警戒する動きがあったのです(山田敏弘「世界を読み解くニュース・サロン:ファーウェイのスマホは“危険”なのか『5G』到来で増す中国の脅威」ITmedia)。
■2018年12月「ファーウェイ・ショック」の根底にあるもの
このような背景のもと、2018年12月に起きたのが「ファーウェイ・ショック」でした。前述したように、孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)が違法金融取引の疑いで、米国の要請に応じたカナダ当局によって逮捕されます。
孟副会長は、レン・ジンフェイの娘です。12月5日に逮捕が発覚すると、翌6日からの米国株式市場でダウ工業株30種平均は2営業日続落して、2万5000ドルを割り込む事態となりました。日経平均も一時600円を超す急落、中国株も下落と、「ファーウェイ・ショック」は世界同時株安をもたらしたのです。
本書執筆時点の2019年1月でも、「連邦検事がファーウェイを調査・起訴する可能性がある」と、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じるなど、まだ問題に決着はついていません。そして私はこの問題は長期化すると考えています。
■製品を通じた「スパイ活動」の疑い
より具体的には、ファーウェイの何が問題視されているのでしょうか。それを明快に示しているのが、2018年12月27日に日本経済新聞に掲載された「華為技術日本株式会社(ファーウェイ・ジャパン)より日本の皆様へ」と題した全面広告の内容です。
そこには、「一部の報道において、『製品を分解したところ、ハードウェアに余計なものが見つかった』『マルウェアが見つかった』『仕様書にないポートが見つかった』といった記述や、それらがバックドアに利用される可能性についての言及がありました」と記されており、ファーウェイはそれを「まったくの事実無根です」と否定しています。
つまりは、ファーウェイが同社製品を通じて不正に情報収集している、端的にいえば中国政府や人民解放軍の代わりにスパイ活動をしているとの可能性が米国では問題視されたのです。
私は、本書を執筆するに際して、改めて米国のメディアで指摘されているファーウェイのスパイ活動疑惑についての論文やレポートに目を通してみました。
個別にファーウェイを調査したものとしては、2012年10月に米国下院議会調査委員会が公表したファーウェイとZTEについての調査リポートがあります。詳細に調査が行われていますが、いずれについても、「ファーウェイ側は明確に否定できなかった、あるいは回答しなかった」と述べるにとどまっています。
■中国政府の支援を受けてきたのは確かではないか
そもそも先ほどのファーウェイの広告からもわかる通り、現時点においても、実際に同社がスパイ活動を行っているという明白な証拠はありません。また、サイバー攻撃の手法は高度化しており、「ハードウェアに余計なものを入れる」といった古典的で稚拙な手法は不要となっています。ただしスパイ活動を行っているという明白な証拠は現時点で存在しない一方、ファーウェイが中国政府や人民解放軍と深いつながりがあるということについてはさまざまな資料が存在しています。
どのような関係性があるのかは不明ですが、私は、ファーウェイが中国政府の支援を受けて成長してきたこと自体は確かではないかと分析しています。そしてそのような関係性の中で米国からスパイ活動の疑惑をかけられたことが、同社の積極的な情報開示姿勢となって現れてきたのだと考えます。
なお、米国司法省は2019年1月28日、イラン制裁違反と企業秘密の窃盗を巡る2つの事件に関して、合計23にも上る罪状でファーウェイを起訴しました。銀行詐欺、通信詐欺、資金洗浄、司法妨害等の罪状が含まれており、先に引用した新聞広告での反論だけではカバーできないものとなっています。
■「米中の戦い」における真の目的
ここで明白なのは、「米中の戦い」の顕著な事例として米国からファーウェイが問題視されているということです。米国の真の目的は、ファーウェイの米国およびその同盟国での通信基地事業展開、特に5Gでの覇権を阻止すること、それに伴って中国政府が推進する「中国製造2025」の実行を中止させることではないかと見ています。孟副会長の逮捕は、「米中の戦い」が単に米中貿易戦争ではないことを物語っているのです。
これからファーウェイはどうなるのでしょうか。すでに日本を含めて米国の同盟国は、政府関連の通信機器等において同社製品を事実上締め出す方針を明らかにしました。米国の強固な姿勢を目の当たりにして、同社との取引を見直す動きも出てくるのではないかとも予想されます。
その一方で、ファーウェイ側では、
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立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。
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(立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭 写真=iStock.com)
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