大和証券社長"布団の中で考える、決める"
プレジデントオンライン / 2019年4月26日 9時15分
■24時間365日ひとり思索
2017年4月の社長就任から、ひとりで過ごす時間が極端に減りました。これは大きな悩みの1つです。
会社にいると会議や打ち合わせがつづき、自分のデスクにいられる時間はわずか。夜は夜で、お客様や社員との会食がほぼ毎日のように入っています。週末も、土日のどちらかはゴルフに出かけます。私は法人営業を担当していた時期が長く、本部長を務めたころも、仕事のことで頭はいっぱいのつもりでした。しかし社長になると、その密度がより高まった。24時間365日考えていると言っても大げさではありません。
考えている内容も変わり、本部長時代はあくまで自分の担当している領域が中心。2~3年先を意識しながらも、やはり足元の業績への対応に大きな比重がありました。
これが社長になると、視野が会社全体、グループ全体へと広がります。時間軸も5年先から10年先、場合によっては20年先といった中長期の戦略も入ってきて、自分が社長ではなくなっている将来まで見据えて深く考えていく。組織のトップに立つと見える景色が違う、ということを改めて実感しています。
社長になってひとりの時間がほとんどなくなった代わりに、誰かと一緒にいるときでも、常に頭の片隅で仕事のことを考えるようになりました。そのときの頭の中の自分はまさに孤独です。最近はゴルフのプレー中でも、球を打って歩き出したとたんに、もう仕事のことを考えているときがあります。
ひとりでじっくり考えるのに最適なのは、出張の移動時間。特に国内出張では、忙しい人なら飛行機を利用するような距離でも、新幹線を利用することがあります。東京から広島や秋田に向かうときなどがそうです。資料に目を通しながら思案を巡らせる。1時間でも集中できれば、それだけでも貴重なひとり時間です。
自宅でくつろいでいるときも完全なオフではありません。家族とテレビのバラエティ番組を観ている間も、頭の片隅で「何か仕事のヒントになることはないか?」と考えているのです。
24時間で、本当にひとりでじっくり考えるのは、布団に入ってから。健康管理の一環として、睡眠をしっかり取ろうと決めているので、毎晩22時半から23時の間に布団に入ります。夜の会食がある日も、2次会には行かず、21時ごろには家路につきます。起床はだいたい朝6時ごろなので、7時間以上は布団のなか。その間ずっと眠っているのではなく、高い頻度で仕事のことを考えています。
実はごく稀に、休日にこっそり会社に出てくることがあります。たとえば決算説明会の前とか長期出張の後など年に数回、本当にひとりで集中して考えることができる環境を求めてのことです。とはいってもそれほど長い時間ではなく、昼過ぎに会社に到着して、夕飯前には帰宅するから数時間です。ただし習慣化するといけないので、大きなイベントがある直前の本当に深く考える時間が必要な場合に限っています。当社は07年から「19時前退社」を励行し、働き方改革には先進的に取り組んできましたので、これはあまり大きな声では言えませんね。
私の場合、いいアイデアが浮かぶのは夜の時間帯です。だから、テレビを観ているときも、寝ているときも、すぐにメモが取れる用意をしています。
私は秘書にプリントアウトしてもらった年間予定、週間予定、1日の予定という3種類のスケジュール表をいつも持ち歩いているので、アイデアや気になることがあると、その余白にペンで書き留めます。会社ではデスクの上に切り取れるメモ用紙が置いてあり、気になったことがあるとそれに書いて、担当者に指示します。指示をすると、メモはその場でスパッと捨てるのが私のスタイル。社長から指示があれば、社内では誰かしら動き出します。そうなればメモはもう必要ありません。資料も溜め込まないほうで、目を通したらすぐに捨ててしまいます。デジタルの資料も同様にパソコンから消去します。これまでの経験から、保管した資料をあとで見返すことはまずないとわかっているから捨てるのです。
■「グレーゾーン」と対峙、そのときどうするか?
メモとともに役員や部長へ指示を出す際に心がけていることがあります。それは、その仕事の目的や背景をしっかりと伝えること。社長からの指示となれば、部下たちは一生懸命に応えようとします。ときには、その反応が過剰になることがある。たとえば何か調べものを頼んだら、こちらが必要としないところまで完璧に調べようとします。それではロスを生みますから、何が目的で、あとでどう使うかというポイントをしっかりと伝えます。曖昧な指示は、余計な仕事を増やし、部下たちの貴重な時間を奪ってしまうことになりますから。
「経営者は孤独」と言われます。毎日たくさんの人と会いながらも、経営の重大な意思決定を下すときには自分以外に頼る相手はいません。誰かに気軽に相談できないのはトップの宿命でしょう。もちろん日比野隆司会長や松井敏浩副社長(COO)に意見を求めることはありますが、最終的には自身で決めます。
私が決断で、最も意識する基準は「それが正しいか否か」。たとえ会社の利益になることでも、相手に損害を与えたり、あとで苦境に立たせるとわかっていれば、それは正しい行動とは言えません。
社長就任時には「正義と誠実」という言葉で、そのことを社員に訴えました。この判断基準は、30代半ばに課長になった頃から変わりません。ビジネスでは、必ずしも正しくはないが、悪いともいえないという状況、グレーゾーンがあります。私は部下たちがグレーゾーンに手を出すことを許しませんでした。「白か黒かをはっきりさせ、白でなければやるな」と繰り返し伝えました。それが原因で業績が悪くなろうと、ダメなものはダメなのです。部下たちには「どんなことでも一生懸命に頑張って取り組め、しかしグレーゾーンには進むな」という指導を徹底してきました。会社が持続的に発展するために「正義と誠実」は欠かせません。周囲の状況に流されず、一人一人が自発的に考えていくことで、この判断基準は守られていくのです。
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大和証券G本社社長兼CEO
1960年、東京都生まれ。83年早稲田大学政治経済学部卒業後、大和証券へ入社。2007年大和証券グループ本社執行役。09年取締役兼常務執行役、12年大和証券専務取締役法人本部長、16年副社長を経て、17年4月より現職。
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(大和証券G本社社長兼CEO 中田 誠司 構成=Top Communication 撮影=大槻純一)
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