芸人ヒロシ「ソロキャンプ」に夢中なワケ
プレジデントオンライン / 2019年4月23日 9時15分
■なぜ、ソロキャンプは最高に楽しく、儲かるのか
「ヒロシです……」
十数年前、バラエティ番組などでこうつぶやくネタでブレークした元ホスト芸人・ヒロシさん。その後、出演回数が減り「一発屋」と揶揄する向きもあったが、近頃、見事に復活。芸人として再び脚光を浴びるとともに、「ソロキャンプYouTuber」としても注目されている――。
キャンプは、友人や仲間とバーベキューなどでワイワイ楽しむイメージがあるが、なぜ、ソロでするのだろうか。
「圧倒的な自由。これが心地いいんです。ソロキャンプを始めたのは約8年前。それまでは仲間と行っていました。複数人で行くのがキャンプという刷り込みが僕にもあったんです。集団キャンプのときは当然、キャンプ実施日のすり合わせや、集合時間はいつか、どこのキャンプ場へ行くか、誰がクルマを出すか……そうした細かい準備が必要になります。これが案外面倒くさい。
ところが、ソロキャンプを実践したら人に気を使わなくていいし、自分が行きたいところにも行ける。実は、小学校3年から地元熊本では単独でキャンプすることもありましたが、この経験から改めてソロキャンプが自分には向いているんだと気づきました」
とはいえ、自然の中でたったひとりで焚き火、食事、テント泊というのはやはり、寂しいのではないか。
「今は月1ペースですが、2、3年前までは、月に4、5回は行っていました。仕事の空き時間があれば即キャンプ。夜に現地に到着して翌朝帰ることも珍しくない。なぜ、急な日程でも行くのかといえば、ソロキャンプで心と体がリセットできるからです。
芸人の仕事は一筋縄ではいきません。テレビ番組の制作サイドの意向をくんだり、共演者に配慮したりするので、ピン芸人でも自分勝手にはできません。でも、自然の中でそうした煩わしさやストレスを解消できる。全部忘れられる。だから、寂しいという感情は微塵もなく、ただ自然の中でゆっくりした時間の流れを存分に満喫しています」
家にいたらガスのコンロをひねればお湯を沸かすことができ、スイッチを押せば電気が点くけれど、山へ行ったらそうはいかない。不便な生活を強いられる。だが、ヒロシさんは「シンプルで原始的な時間・空間だからこそ、余計なことを考えなくてすむんです」としみじみ語るのだ。
「ソロキャンプだから、集団キャンプにありがちな『カレーを作らなきゃいけない』とか、『ダッチオーブンで七面鳥を焼かなきゃいけない』とかいう縛りもないです。みんなで楽しむこと自体は悪くないのですが、リーダー的な人や声の大きな人の意見・主張に周囲が振り回されてしまうことがある。僕はそれがどうも嫌なんです。だから、空腹ですぐ食べたいときは、キャンプ先でもコンビニ弁当や即席麺。それでも、全然満足なんです」
同じソロキャンプ派の仲間同士でヒロシさんは山へ行くこともある。ただ、その際は各自がテントを張り、食事を準備する。基本はソロだ。
「ひとりぼっちは不安だという人や、仲間や組織に帰属することが重要だという人にとって、集団キャンプは意味があるけれど、そんな煩わしさは会社で働くときだけで十分なら、休日やオフタイムはソロがいい。それによって、自分を解放させることができるのではないでしょうか」
ヒロシさんは、大好きなキャンプの様子を自ら撮影して、約4年前から動画配信サイト「YouTube」で公開している。自身で撮影・編集を務めたキャンプ動画を月に2本アップし、多くの視聴者(「ヒロシちゃんねる」会員は取材時点で約32万人超)から見られることで広告収入約80万円を得たことがあるなど、芸人とは別の仕事の柱となりつつあるという。時には再生回数が100万回を超える動画もあるという。
■ニッチな世界でも、自分の好きなことを発信すべき
「テレビや雑誌で紹介されるオシャレなキャンプの様子より、キャンプに行くついでに記録したような僕のキャンプ映像を見たがる人が意外とネットには多いんです。ほぼ自己満足の映像を自己流で編集して流しているだけなのに。これには僕も驚きました。この経験から思うのは、何が当たるかは誰にもわからない、とにかく何事もやらなきゃわからないということです」
YouTubeの再生回数の多いヒット動画の中には、いろいろな種類のセミの鳴き声をただ撮影したものもあるという。撮影者はセミ好きの一般人。ヒロシさんが「自分の好きなキャンプに行ったついでに撮ってネットにアップした」のと同じだ。それが結果的に想定外の副収入につながることもある。
「お金稼ぎが主眼になってしまうと話が違うのですが、今の時代、発信するのは動画のほか、ブログ、ツイッター、インスタグラムでもいい。副業が解禁されつつある今、ビジネスパーソンの皆さんも自分が好きなこと、気になることを無理のない範囲で始めてみる。種をまいてみる。運よく芽が出たら、そこに集中して力を注げばいいのです」
勤務先など集団や組織に属していたら「何をするか」は自分では決められない。上司や会社の決済やGOサインが必要だ。それには想像以上に多くの時間がかかる。一方、趣味や遊びなど個人で動く際は、すべて自分で決められる。何をするかしないか、即断即決だ。好きなことに自分のペースで好きなだけ時間を費やすことができる。
「自分の『好き』なことがニッチなことでもコツコツ経験を積み、発信していけば、同志との出会いや思わぬビジネスへの展開など、相乗効果も期待できます。そんな楽しみが増えれば、本業の仕事がつらくても前向きに生きられるかもしれません」
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芸人兼ソロキャンプYouTuber
1972年、熊本県生まれ。九州産業大学卒。ピン芸人として「ヒロシです……」のフレーズではじまる自虐ネタで大ブレーク。お笑いライブなどの傍ら2015年3月よりYouTuberとして「ヒロシちゃんねる」を配信。自ら撮影・編集したソロキャンプ動画をアップして人気を集める。18年末、新著『働き方1.9 君も好きなことだけして生きていける』(講談社)を刊行。
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(フリーランス編集者/ライター 大塚 常好 撮影=市来朋久)
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