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元電通マンが早大サッカー部を甦らせた技

プレジデントオンライン / 2019年4月11日 9時15分

10年のビジネスマン経験を生かし監督を務める外池大亮氏(写真提供=早稲田大学ア式蹴球部)

元プロスポーツ選手がアマチュアチームの監督に就任するケースが増えている。元Jリーガーの外池大亮氏は昨年、母校・早稲田大の監督に就任するや、すぐにチームを優勝に導いた。外池氏を取材したスポーツライターの清水岳志氏は「選手を引退した後、電通やスカパー! で働いた経験やノウハウが部員の意識を高めた」という――。

■Jリーガーで11年→電通とスカパー! に10年→早大監督へ

元プロスポーツ選手がアマチュアスポーツの監督やコーチに就任するケースが増えている。元Jリーガーの外池大亮氏(44歳)もそのひとりだが、その略歴は異色だ。

早稲田大学卒業後、Jリーグのベルマーレ平塚(現湘南)、横浜F・マリノス、ヴァンフォーレ甲府などに在籍し、11年間トップ選手として活躍(1997年~2007年)。現役引退後、一般企業で社会人生活を送り、2018年から母校・早大のア式蹴球部(サッカー部)の監督に就任した。

ユニークなのは、Jリーグ選手を引退してから監督に就任するまでの一般企業でのキャリアだ。実はその経験が、現在、90人以上いる部員のマネジメントや部の運営に役立つだけでなく、就任していきなり関東大学リーグ戦で優勝を果たす原動力にもなった(前年は2部に降格していた)。

■30代前半までトップ選手だった人がサラリーマンになった

30代前半までずっとサッカー人生を歩んできた外池氏が選手生活に終止符を打ち、選んだのが「サラリーマン」だ。2008年から働き始めたのは、大手広告代理店の電通。なぜ突然、電通という大企業への勤務がかなったのか。

外池氏は現役時代の2003年、ヴァンフォーレ甲府からサンフレッチェ広島に移籍する時、将来の第2の人生を見据えた行動をしていた。実はJリーグに「キャリアサポートセンター」という選手向けの窓口があり、そこを通じてオフシーズンなどに企業でインターン活動をすることができた。外池氏は、その制度を躊躇なく利用した。

「在籍していたマリノスを戦力外になった時(2002年)、『プロサッカー選手の存在意義って何だろうか』とじっくり考えたんです。選手としてはゲームに勝利し、観客やファンにプレーを楽しんでもらうことが第一であることはわかっていました。ただ、ボールを蹴る以外にも、自分の能力を社会に還元できることはないか。自分自身をもっと成熟させたかった。そんな時に知ったのがインターンの制度でした」

それ以降、計8社インターンで働いたという。「中日新聞社」「朝日新聞社」では取材活動の仕事を経験して、新聞が刷り上がる場にも立ち会った。「リクルート」では転職市場を体験し、「電通」のスポーツ局ではライセンスやブランディング、「Jスポーツ」で解説をやりつつ放送の仕組みの勉強をした。

■サラリーマン経験10年が「監督業」に生きている

そして、2007年に現役を引退したあと、電通に入社し、サッカー日本代表チームのスポンサーである大手飲料メーカーの営業の部署に配属される。そこでは、元Jリーガーという肩書は通用しない。さまざまな仕事の現場ですすんで下働きをしたという。5年間、電通で勤務したあとは、当時Jリーグオフィシャルブロードキャスティングパートナーであった衛星放送の大手「スカパー!」への入社を果たす。

「Jリーグの試合中継の担当をしたり、各クラブと一緒になって企画番組を作ったりしました。また、Jリーグの試合中継放映権がスカパー! から(インターネットスポーツ中継サービスの)DAZN(ダ・ゾーン)に変わるタイミングだったので、お金の流れやスポーツ中継の価値、交渉などを目の当たりにしたことが財産になりました」

■なぜ、早大の監督をやることになったのか?

こうして社会人生活も約10年となり、それなりに充実した生活を送っていた外池氏はなぜ母校の監督に就任することになったのか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/mizoula)

「早大ア式蹴球部が2024年に創部100周年を迎えるということで、そのプロジェクトメンバーになってOB会活動に参加していたんです。部員と接すると生きかたやサッカーへの気概が低いように感じました。OB会という外側からいろんなアプローチをしていったところ、ならば実際に監督をやったら、という話になって……」

多くの大学の体育会の「監督」は学内の嘱託職員になるか、それまで勤務していた企業から出向という形にすることが多い。ところが外池氏は業務委託という契約を希望する。

大学から監督業務委託料を支払ってもらったスカパー! が、外池氏に給料を払うという流れをつくったのは監督業を単なる腰かけにしたくない、と現在の業務との融合により相互の付加価値を生み出すというビジネス感覚によるところがあるに違いない(現在も、外池氏はスカパー! のコンテンツ事業本部チャンネル事業部のスポーツチームに籍を置き、制作や編成、広告などサッカーコンテンツ事業に従事している)。

■母校ワセダを否定することが監督の第一歩だった

外池氏の監督デビューは華々しいものになった。

2018年に監督に就任して、いきなり関東大学1部リーグ戦で優勝。前年度は2部に落ちていていたが、1部に復帰してすぐ優勝させたわけだ。いくら元プロ選手とはいえ、新人監督がいきなりそうした手腕を発揮できたのはなぜだろうか。

そこにはビジネスマン経験をした者ならではの様々な「チーム改革」があった。外池氏が監督就任直後にしたこと。それは、愛する母校サッカー部を否定することだった。

早大のア式蹴球部には創部当時からビジョンとして掲げられてきた「WASEDA・ザ・ファースト」という言葉がある。外池氏はこれに関して、「これ、どう思う? 一度やめないか」と部員に言ったのだ。学生は「(掲げるのを)やめちゃいけない言葉じゃないんですか」ときょとんとしたが、「俺がOBに謝るから」と説得したという。

「実は、もともと早稲田の体質で個人的に嫌いなところがあったんです(苦笑)。高校(早稲田実業)の時から、『なぜ早稲田はこんなに上下関係が厳しく、理不尽なことが多いのか』と思っていました。大学3年の時に、連絡の行き違いで遅刻した時、先輩から『坊主にするか、グラウンド整備を3カ月間、1年生と一緒にやるか選べ』と言われたこともあって。厳しさの意味も理解していましたが、そんなことがまかり通るのかと思いました」

もちろん早稲田にはいい面もたくさんある。だが、修正すべき古い体質もあるように思えた。だから、Jリーグへ入団する時、「早稲田のヒエラルキーには乗りたくない」という気持ちがあり、OBが声をかけてくれたクラブではなく、最初に入団をしたのは早稲田OBがいなかった、ベルマーレ平塚だった。最初に手を付けた部のビジョンの見直しは、そうした「現在地の否定」だ。

チームを改革している外池氏(撮影=清水岳志)

■ビジネスマン経験を生かして部の改革に着手

代わりに誕生した部のビジョンは「日本をリードする存在になる」だ。これには、うるさがたの多いOBにも上々の評価だった。

「まず、サッカーで早稲田がトップに立つ。日本代表のキャプテンは早稲田であってほしい。しかし、その一方で、部員全員が将来、プロのサッカー選手になるわけではありません。社会人として主体的に行動することができ新しい何かを築ける人物になってほしい。もちろん監督である僕自身もこのスローガンを追い求める。監督をやめた時にどう日本をリードできるのかをイメージして今を生きていく。そんな気持ちもこの言葉に込められています」

「早稲田を変えたい」。外池氏には、部を、もっと社会に開かれた存在にしたいという考えがあった。そこで、部員にツイッターで部の活動状況などを積極的に発信するようにすすめた。自身の発信も頻繁で、部員のアカウントへの反応も早い。一般学生やファンのフォロワーが徐々に増えてきた。部員の意識が、部内の内向きのものではなく、外へ向き始めたのだ。

今季、ユニフォームにスポンサーロゴが歴史ある早稲田大学体育会史上初めて入ることになった。これにより部を財政面でサポートできるというメリットだけではなく、チームとしての価値をどのように高め、スポンサー企業といかに良好な関係を作っていくか、といったことを学生に考えさせるきっかけにもなると感じている。元電通マンの面目躍如だろう。

■なぜサッカー経験のないオタクを学生コーチにしたのか?

外池氏の改革はまだまだ続く。近々、部のマスコットキャラクターが登場予定だ。運動部のマスコットは、アメリカの大学などではおなじみだが、日本ではほとんど聞かない。ファンを含めて広く社会との接点を作るという意味でマスコットは有効的だという考えが、選手・ビジネスマンの経験が豊富な外池氏にはある。

「キャラクターをオオカミにしました。うちのサッカーはサイド攻撃を得意としています。オオカミは狩りをするときにフォーメーションを取って頭脳的な攻撃をします。それがストーリーです。愛されるキャラにするには今後どうしたらいいか、どんなPRを展開したらいいか、名前はどうするか。これもサッカー部としての重要な活動だと思っています」

さらに「学生コーチ」のポストを新設した。しかもサッカーをしない一般学生コーチだ。その学生(早大生)は去年、おもむろに部のドアを叩いてきたという。

「『分析担当をやらせてもらえないですか』と言ってきたんです。現状のサッカー経験がないけれど、指摘がすごくロジカルな“サッカーオタク”で、『早稲田には緻密なプレーが足りない』とかズバズバ言うんです(苦笑)。選手側はプレーできない人が何を指図するのかと反発する。でも、そういう、いい意味での摩擦がチーム全体の新しいポテンシャルになるんです」

早稲田大学ア式蹴球部のウェブページより。今年2月に「外池大亮 契約更新のお知らせ」を発表。

■選手の個性と「現在地」を知るための4種類の面談・ミーティング

日々の活動のスタート台になるミーティングにもひと工夫した。部には4種類のミーティングがある。「ワンオンゼロ(無記名アンケート)」と「ワンオンワン(1対1の面談」と「グループ」と「オール」だ。とりわけ外池氏が重視しているのが前者2つだ。

最近の学生は大勢がいる前でほとんど発言をしない。だからワンオンゼロ(無記名アンケート)が有効だ。

「口数が少ない部員でも実はいろんなことを考えていることがあります。無記名だと辛辣なことをけっこう書いてくるんです。そうした少数意見を大事にすると、部員たちのモチベーションが高まっていきました」

春と夏の2回実施するワンオンワン面談も重要視している。1対1だと学生は饒舌だ。集団の中では声をあげるのを躊躇する者も、「何でも言ってきていい」というオープンマインドの外池氏に対してなら言える。

「そうした個人の生の声は、私に多くの気づきを与えてくれました。面談でなくても、直接電話で話すこともよくあります。4種類の面談、ミーティングをするようになり部員の心のありかたがよくわかるようになりました」

今年のシーズンはどんなテーマで挑むつもりなのか。

「去年、4年生を中心にいいチームを作れたけれど、レベルの高いリーグなだけに油断をすると、すぐ2部に落ちる危険性があります。幸い、部員のプレーに対する意識や、ファンやスポンサーなど社会に対する意識も高まり、人間的に成長していると感じるので、さらなる奮闘を期待したい」

外池氏自身も監督2年目はより進化していきたいと考えている。

「チームとしてより強くするというミッションに加え、レギュラー選手ではない者を含む部員90人のマネジメントの課題にしっかり取り組んでいきたい。私には彼らの未来を作っていく責任がありますから」

(フリーライター 清水 岳志 撮影=清水岳志 写真=iStock.com)

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