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"ゴーン対特捜"泥仕合で損するのは検察だ

プレジデントオンライン / 2019年4月8日 9時15分

ツイッターで記者会見を予告後、弁護士事務所を出た日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告=4月3日、東京都千代田区(写真=AFP/時事通信フォト)

■まず双方に「泥仕合にするな」と忠告したい

日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏(65)がまた、逮捕された。ゴーン氏の逮捕はこれで4度目。東京地検特捜部が保釈された被告を再び逮捕するのは、極めて異例である。

特捜部は4月4日午前6時前、都内のゴーン氏の住居を訪れて任意同行を求めて逮捕した。早朝の任意同行も異例だ。

特捜部は「日産の私物化を裏付けるもので、逮捕して捜査する必要性があると判断した。日産に与えた損害額も考慮した」としている。

これに対し、ゴーン氏は容疑を全面的に否認し、弁護側は「人質司法だ。痛めつけて検察に有利に運ぼうとしている」と検察の捜査手法を痛烈に批判した。

沙鴎一歩は昨年11月19日にゴーン氏が初めて逮捕されて以来、プレジデントオンラインに記事を書きながら事件の推移を見てきたが、検察とゴーン氏のどちらにも味方するつもりは全くない。それゆえ、まず双方に「泥仕合にするな」と忠告したい。

■逮捕容疑はクルーザー「社長号」への私的流用だ

特捜部の発表などによると、再逮捕の容疑は会社法違反(特別背任)だ。

ゴーン氏は、2015(平成27)年から昨年にかけ、知人の経営するオマーンの販売代理店に巨額な資金を日産から支出させ、その一部を私的流用して日産に損害を与えた会社法(特別背任)の疑いがある。流用したとみられる資金は、計5億6000万円余りだ。

ゴーン氏と長年交際している知人が経営するオマーンの販売代理店に支出された巨額資金の一部が、この代理店のインド人幹部の個人口座を通じてレバノンのペーパーカンパニーに送金された後、一部となる計5億6300万円が、ゴーン氏の妻が代表を務める会社に送金されてクルーザー(「社長号」と命名されていた)の購入資金にあてられた疑いがある。このほか息子が経営するアメリカの投資関連会社側にも流れた疑いがある。

検察は資金の流れが複雑で、しかも海外の複数の会社を経由するなど隠蔽工作が行われていることから時間をかけて捜査を進めてきた。

■「オマーンルート」は実質犯で筋がいい

報酬を有価証券報告書に少なく記載した金融商品取引法違反の罪や、サウジアラビア人の知人に日産の巨額な資金を不正に支出させた特別背任の罪で逮捕起訴され、ゴーン氏は108日間にわたって身柄を拘束された後、保釈金10億円を支払って3月6日に保釈されていた。

ただ、これまでの金融商品取引法違反の罪は形式犯と批判され、特別背任の罪も含み損の問題などをともなうことから公判維持の難しさが指摘されていた。

その意味では今回の「オマーンルート」の特別背任容疑は実質犯であり、資金の流れも具体的に把握できている。捜査的に筋のいい事件だった。特捜部は捜査権の及ばない海外には捜査共助を求めて検事を派遣し、複雑な資金の流れの解明に至った。

■感情的になって攻撃すれば、検察は敗北する

沙鴎一歩は11月19日の最初の逮捕直後から有価証券報告書の不実記載などいう形式犯でなく、実質犯の業務上横領や所得税法違反(脱税)、特別背任の容疑で立件すべきだ、と主張してきた。その通りになったわけだが、あえて検察にこう言いたい。

「罪を憎んで人を憎むな。感情的になってゴーン氏を攻撃すれば、検察は敗北する」

ゴーン氏の一連の事件をめぐっては、裁判所を間に挟んで捜査側と弁護側が激しく対立した結果、事件の流れが二転三転した。

昨年12月10日の金融商品取引法違反容疑での再逮捕の後の12月20日、東京地裁が東京地検特捜部の勾留延長請求を却下すると、特捜部はその翌日にサウジアラビラルートの特別背任容疑での再逮捕に踏み切った。しかし今年3月6日にはゴーン氏の弁護側の機転で保釈され、特捜部は苦汁をなめさせられた。

オマーンルートでの今回の再逮捕は、検察に軍配が上がった。だからといって裁判で判決が下されたわけではない。海外メディアからの「身柄を拘束し続けて自白を強要する人質司法」との批判の声も強い。特捜部がそうした批判に反論するには、公判でゴーン氏の私物化をきちんと立証するしかない。

■「それでも私は闘い続ける。私は無実だ」

容疑を全面否認しているゴーン氏は、これまでのマスコミの取材に「(オマーンの販売代理店に支払われた資金は)日産の部下の要請を受けて長年支払ってきたもので、正当な報奨金だ。クルーザーの購入も日産とは無関係だ」と話していた。

またゴーン氏は、再逮捕される前日の4月3日、フランスのテレビ局のインタビューに対し、弁護士事務所から応じた。

そのインタビューで「90%の確率で逮捕されるだろう。それでも私は闘い続ける。私は無実だ」と繰り返し語っていた。

4度目の逮捕。しかもそれを予測して落ち着き払っていた。ゴーン氏は鉄のように精神力の強い男なのだろう。それだけに検察は彼を恐れているのかもしれない。

ただ、オマーンルートに関しては、仏ルノーからもフランスの捜査当局に対し、不明朗で不審な支出が通報されている。日仏で捜査が進む。

ゴーン氏に私的流用は全くなかったのだろうか。疑問である。少しでもやましいところがあるなら、それをきちんと認めるべきだ。ここまで国際社会を巻き込んだ事件を引き起こしたのだからその責任をとる覚悟は必要である。

■裁判所の判断に、検察内には不満がくすぶっていた

ゴーン氏は逮捕直前に、ツイッターで「11日に記者会見を行う」と明らかにしていたが、なんとか逮捕を避けようと日程を出したのではないか。

ゴーン氏の弁護士も逮捕で記者会見ができなくなることを予測していたことを認め、「あらかじめゴーン氏の姿と言葉を動画で記録してあるのでそれを近く公開する」と話している。

「日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告を巡る事件を語る上でキーワードとなったのが人質司法だ。そうした批判に耐えうる再逮捕だったのかが今回問われる」

こう書き出すのは、4月5日付の毎日新聞の社説である。見出しも「『人質』批判に抗せるのか」だ。

その毎日社説は中盤で指摘する。

「逮捕には検察内にも慎重論があった。長期勾留が海外メディアから批判を浴びたことを踏まえ、任意捜査で追起訴すべきだというものだ」
「一方、捜査が継続しているにもかかわらずゴーン前会長の保釈を認めた裁判所の判断に、検察内には不満がくすぶっていたとされる」

そのうえで毎日社説はこう主張する。

「逮捕や勾留は、あくまで容疑者や被告の逃亡や証拠隠滅を防ぐのが目的だ。その要件は厳格に判断すべきである」

逮捕や拘留は検察が裁判所に請求し、その請求を認めるかどうかは裁判所が判断するものである。今回の再逮捕は、裁判所が認めた結果だ。裁判所の判断である。毎日社説はそこのところをどう考えているのだろうか。

■「検察の強い意志」「被告の行為の悪質性」と書く読売らしさ

毎日社説に対し、4月5日付の読売新聞の社説は検察寄りである。

「在宅での捜査は、聴取の時間などが制約される上、証拠隠滅のリスクも伴う。批判を覚悟で逮捕に踏み切ったのは、日産からの不透明な資金の流れについて全容を解明したい、という検察の強い意志の表れだろう」
「今回の逮捕容疑が事実であれば、会社の私物化をより明白に物語る。特捜部には、被告の行為の悪質性を浮き彫りにする狙いもあるのではないか」

「検察の強い意志」「被告の行為の悪質性」などと書くところは、保守的な新聞を代表する読売らしさが色濃く出ている。

ただ、「今後、検察による勾留や勾留延長の請求を裁判所が認めるかどうかも注目される。一連の事件では、海外から長期の勾留に対して批判が相次いだ。裁判所は捜査への影響も踏まえ、身柄拘束の必要性を吟味することが求められる」とも指摘し、「人質司法」の問題にも言及している。バランス感覚は失っていない。

■「パソコンや携帯電話の使用を制限するなどの条件があった」

次に産経新聞(4月5日付)の社説(主張)を見てみよう。

「ここで問題となるのは、保釈を認めた東京地裁の判断である」と書き、今年3月6日の保釈を問題視する。

「逃亡や証拠隠滅の恐れがない場合、保釈は許可される。だが、被告が起訴内容を否認している事件で公判前整理手続きで論点が明確になる前に保釈申請が認められるのは極めて異例だった」
「しかも、オマーンなど中東を舞台とする海外での資金の流れの全容解明は捜査の途上にあるとされていた」
「弁護側は保釈後の国内住居に監視カメラを設置し、パソコンや携帯電話の使用を制限するなどの条件を提示して保釈決定に結びつけたが、関係者への接触はあらゆる手段で可能である」

■海外メディアからの批判は「内政干渉」だと言いたいのか

読売社説以上に検察寄りである。ゴーン氏の保釈が成立したのは、弁護側の機転であり、弁護士にかなりの能力があったからだ。裁判所の判断が誤っていたわけでなない。産経は誤解していないか。

さらに「そもそも、自身のツイッターのアカウントを開設した行為はどうなのか。パソコンなど通信機器の取り扱いは厳しく制限することが保釈の条件だったのではないのか」とも指摘する。

そのうえで「ゴーン容疑者の保釈は3回目の申請で認められた。長期の勾留には主に海外のメディアからの批判が強かった。外圧に屈しての保釈判断であったなら、社会の安全や公平性を守る刑事司法の目的に適わない」と書く。

どこまでも外圧にこだわる。海外メディアからの批判は「内政干渉」だと言いたいのだろう。実に産経社説らしいが、その主張はバランス感覚を欠いている。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=AFP/時事通信フォト)

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