やりとりが一往復で終わらない人の頼み方
プレジデントオンライン / 2019年4月10日 9時15分
※本稿は、鈴木颯人『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■同じ指示を出しても結果が異なるのはなぜか
リーダーからよく聞く悩みの一つに、「メンバーに指示したことがなかなか伝わらない」というものがあります。「誰に」「何を」「どんなやり方でしてほしいか」と、明確に伝えたつもりでも、完成品がイメージと違っていれば「伝わっていない」ことになります。
これでは、何度も伝えることになり、時間がいくらあっても足りません。
ここでちょっとしたワークを紹介します。よかったらチームのメンバーとやってみてください。順番に役割を変えれば、ミニマム2人からできるワークです。
まずA4用紙を1枚用意し、次の1~6の手順を言う人と実行する人に分かれます。言う人は1人で結構です。
2 真横に折ってください
3 今度は縦に折ります
4 もう一度、真横に折ってください
5 右端をちぎってください
6 目を開けて紙を広げます
さて、一体どんな形になったでしょうか?
これを3人以上で行なうと、だいたい完成の形が異なります。これがこのワークの面白いところです。たとえば、次のような形のパターンがあります。
![](https://president.jp/mwimgs/5/d/-/img_5dbeaf59788bc38178d4262aaca6f36983560.jpg)
■言葉の「解釈」は人によって異なる
同じ手順を踏んで紙を折ったのに、このようにできあがりが違ってしまうのはなぜでしょうか?
それは、言葉の「解釈」が人によって異なるからです。
たとえば2と3の「横」「縦」の折り方で違いは出づらいですが、5の「右端」と言われると、どうでしょう。「右上」をちぎった人もいれば「右下」をちぎった人もいたはずです。右側の中央だけをちぎった人もいるかもしれませんし、右端の一辺全体をちぎった人もいるかもしれません。さらに、「右」も、「自分から見た右」の人もいれば、「相手から見た右」と受け取った人もいるはずです。
■言葉は「伝わらない」前提で話すべき
このワークで実感してほしかったのは、同じ言葉を使っても、相手によって解釈は変わるということです。長く働いていると、つい「自分の思いは相手に伝わるもの」と無意識に思い込んでしまいがちです。しかし、一緒に働くメンバーは、あなたとは違う環境で育ってきた人たちです。
![](https://president.jp/mwimgs/9/0/-/img_9035e87d3ca9402676e188bf8571336240895.jpg)
相手の発した言葉を過信したり、自分の意図通りに相手が解釈してくれると期待したりすると、うまく伝わらなかったとき、大きく落胆したりイライラしたりする原因にもなります。自分の言葉は「伝わらない」前提で、どう伝えれば理解してもらえるか、作戦を立てることが大切です。
二流のリーダーは「伝わる」前提で指示して、結果が思い通りでないと怒ったりしますが、一流のリーダーは「伝わらない」前提で指示し、確実に欲しい結果を手に入れます。
■間接的な言い回しで相手に想像させよ
次は、折り合いの悪い部下にあなたの意図をより伝わりやすくする方法について紹介します。「状況を想像してもらい、相手自身に気づかせる」という方法です。何度言っても同じミスをしたり、改善する姿勢が見られなかったりする場合は、相手に想像力が足りていない可能性があります。そこで、「たとえ話」を通じて自分のミスが相手にどんな印象を与えているのか、イメージしてもらいましょう。
同じチームのメンバーのEさんに、水曜までにプレゼン用の資料を作成するよう依頼したのに、木曜になっても一向に送ってこないとしましょう。あまりにも遅いので催促すると、「未完成ですが、とりあえずコレで」と、空白だらけの資料を送ってきました。とても、プレゼンで使えるレベルではありません。
こんなとき、あなたならEさんにどう伝えますか。
「これじゃ全然ダメ。やり直し」といった言葉を伝えたくなるかもしれません。ですが、そこをグッとこらえて、次のように伝えてみてはどうでしょうか。
「Eさん、頼んだ仕事が満足にできない人に、また仕事をお願いしたいと思うかな?」
相手はきっと、「思わない」と言うはずです。そうしたら、「そうだよね。頼んだ仕事がきちんとできていなかったら『残念だ』って思うよね。『この人に頼んで大丈夫かな』って不安になっちゃうよね」と続けます。そして、ここで止めるのがポイントです。
するとEさんは、自分の行動がリーダーの求めるものではなかったことに気づき、どうしたらよかったか、考え始めます。「自ら気づき、考える」ことができれば、自然と同じミスは減っていきます。腹が立つとつい直接的な物言いをしてしまうものですが、それでは変わらない相手の場合、間接的に伝えることで相手に想像させる手段は有効です。
■「一往復で終わる言い方」が信頼をつかむ
さて、ときにはリーダーの指示が曖昧で、意図がうまく伝わっていないケースもあります。
特に緊急時や急ぎの対応が必要な場合ほど、相手が動きやすい言い方を心がける必要があります。
私はスポーツメンタルコーチになる前に、航空関連会社の地上職員として、身体が不自由な人を機内や出口にサポートする業務を担当していたことがあります。その際、他の係員と、常に無線でコンタクトを取る必要がありました。
300~400人が一つの回線を使うため、まわりくどいやりとりでは混乱をきたしてしまいます。ですから、一往復で交信を終えられるよう、常に意識してコミュニケーションを取っていました。
たとえばロビーでお客様同士が喧嘩を始めてしまったとします。焦るだけで何も考えずに発信すると、「到着便でお客様がもめています、誰か助けてください」になってしまうでしょう。これだと、大きな空港の場合、どの便のロビーなのかわからず、また、誰が行けば良いか判断が難しいので、タイムラグが発生します。
しかし「一往復で終わらせるには」と考えれば、「○○便、△△ゲートでお客様同士がもめています。対応できるマネージャーの派遣をお願いします」になります。これで、担当者はすぐに駆けつけることができます。
■発言する前に”5秒”考えるくせをつける
誰かに仕事を依頼するときには、誰が聞いてもわかる客観的な状況説明と明確な指示が欠かせません。自分の言いたいことだけを一方的に言うのではなく「この言い方で、相手にきちんと伝わるかな?」「相手に負担にならないかな?」と、発言する前に5秒でいいので、頭の中で振り返るくせをつけると良いでしょう。相手に何を求めているのか、シンプルに伝えられる人ほど自然と信頼度が高まります。
「なんでわからないかなあ」と相手に原因を求めればストレスが溜まりますが、実は自分も自分本位な言い方になっているかもしれないと顧み、伝え方の工夫をすることで、コミュニケーションのストレスはぐっと下げることができるのです。
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スポーツメンタルコーチ
1983年、イギリス生まれの東京育ち。Re‐Departure合同会社代表社員。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球など、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。
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(スポーツメンタルコーチ 鈴木 颯人 写真=iStock.com)
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