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だれもが首相を忖度する日本政治の異常さ

プレジデントオンライン / 2019年4月10日 9時15分

辞任を表明した塚田一郎国土交通副大臣=2019年4月5日、東京・霞が関(写真=時事通信フォト)

■「私はすごくものわかりがいい。すぐ忖度する」

国土交通省の塚田一郎副大臣(自民)が、「忖度発言」の責任を取って4月5日に辞任した。NHKによると、塚田氏は4月1日、北九州市で開かれた福岡県知事選挙の候補者の集会で、山口県下関市と北九州市を結ぶ道路整備をめぐって、次のように話したという。

「皆さんよく考えてください。下関は誰の地盤か。安倍晋三総理大臣だ。安倍晋三総理大臣から麻生副総理の地元への、道路の事業が止まっているわけだ。

吉田参議院幹事長と大家敏志参議院議員が副大臣室に来て、『何とかしてもらいたい』と言われた。動かしてくれということだ。

吉田氏が私の顔を見て、『塚田、分かっているな。これは安倍総理大臣の地元と、麻生副総理の地元の事業なんだ。俺が、何で来たと思うか』と言った。私はすごくものわかりがいい。すぐ忖度(そんたく)する。

総理大臣とか副総理がそんなことは言えない。森友学園などでいろいろ言われているが、そんなことは実際ない。でも私は忖度する。

それで、この事業を再スタートするためには、いったん国で調査を引き取らせてもらうことになり、今回の予算で国直轄の調査計画に引き上げた」

■安倍首相と麻生氏の2人にも責任が問われる

塚田氏は翌日になって「発言内容は事実と異なる」と撤回したが、安倍首相や麻生氏の意向を推し量って道路工事に国民の税金を使う方向付けをしたことが疑われる内容である。

塚田氏は1963(昭和38)年12月生まれの55歳。新潟県知事や衆院・参院議員を務めた故塚田十一郎(といちろう)氏の五男だ。2007(平成19)年に参院議員(新潟選挙区)選挙で初当選。昨年10月の第4次安倍改造内閣で、国土交通副大臣に就任していた。

副大臣の職を辞するのは当然だ。いや、それだけでは足りない。国会議員も辞め、一から出直すべきである。塚田氏の政治家としての資質が大きく問われている問題だからだ。

塚田氏はネット上に自らの短所を「慎重すぎる所」と書いている。こんな発言をする性格のどこが慎重なのか、あきれてしまう。

塚田氏は麻生氏の秘書を経験した後、麻生派の国会議員として政治家になった。直接の親分は麻生氏であり、その上に麻生氏の朋友である安倍首相がいる。塚田氏以上に責任が問われるのは、安倍首相と麻生氏の2人のはずである。

■日本という国が「忖度」で動いてしまっている

安倍政権では度々、忖度が問題になってきた。

森友学園の問題では、約8億2000万円という破格の値引きで国有地が売却された。値引き問題が発覚した後に、財務省は名誉校長に就任していた安倍首相の妻の昭恵氏の名前を決裁文から削除するなどの改竄を行った。

加計学園の問題では、獣医学部の新設をめぐって「総理のご意向」と内閣府が文部科学省に伝えた文書が見つかった。加計学園の理事長は安倍首相の古くからの友人で、便宜が図られたのでないのかとの疑いが持たれた。

そのほかにも、厚生労働省の「毎月勤労統計」の問題でも忖度が働いたのではないかという指摘があった。

いま日本という国は、安倍首相や首相官邸の意向を忖度する形で動いてしまっている。

■大島理森・衆院議長も「安倍政権1強」に猛省を促した

昨年末、臨時国会で安倍首相と与党自民党が外国人労働者を拡大する改正入管法を成立させた。野党やメディアの強い反対があったにもかかわらず、審議は短時間で済まされ、安倍首相は数の力で押し切った。反対する声に全く耳を傾けなかった。

こうした強引さは、ここ数年続いてきた。その事態を象徴するのが、昨年7月の大島理森(ただもり)衆院議長の談話の発表だった。

大島氏は「民主主義の根幹を揺るがす問題だ。国民の負託に十分に応える立法・行政監視活動を行ってきただろうか」と嘆いた。

大島談話の直接のきっかけは、前述した財務省による決裁文書の改竄だったが、大島氏は「安倍政権1強」が生んだ忖度に対し、猛省を促したのだ。

昨年9月の自民党総裁選で安倍首相は3選を果たした。しかし私たち国民が1強政権を認めたわけではない。政治は安倍首相のためにあるのでなない。安倍首相が国民のことを本当に考えているというのなら、安倍首相自身が「1強」の驕りを自覚し、謙虚になる必要がある。今回の塚田氏の忖度発言をきっかけに深く反省してほしい。忖度は安倍1強が生んだ落とし子である。

■「下関北九州道路」は安倍首相と麻生氏の地元をつなぐ道路

塚田氏の辞任について、朝日新聞の社説(4月6日付)は次のように指摘する。

「政権・与党は国会審議や統一地方選への影響を最小限に抑えたいようだが、予算の背景に政治的な配慮があったとしたら見過ごせない。これで幕引きではなく、国民が納得できる説明が必要だ」

塚田氏の辞任は、トカゲの尻尾切りと同じだ。トカゲの胴体である安倍首相や麻生氏をたたくべきだ。

問題の「下関北九州道路」は、山口県と福岡県、つまり安倍首相の地元と麻生氏の地元をつなぐものだ。2008年に凍結されたが、2017年度に地元自治体と国による事業化調査がスタートし、本年度からは海峡横断プロジェクト6ルートで唯一国の直轄となった。朝日社説は指摘する。

「塚田氏は福岡県知事選の自民党推薦候補の集会で、自民党の吉田博美参院幹事長から『これは総理と副総理の地元の事業だ』と言われ、自らが忖度して国の直轄調査にしたと語った」
「発言が問題になった後、『大勢が集まる会だったので、われを忘れて、事実とは異なる発言をした』と釈明したが、にわかには信じがたい。吉田氏との面会には、国交省の幹部職員も同席した。当時の記録を公開し、実際にあったやりとりを明らかにすべきだ」

自らの性格を「慎重すぎる」という塚田氏が、「われを忘れる」のはやはり信じがたい。公的記録をもとにことの真相をはっきりさせるべきである。

■「罷免するどころか、かばい続けた首相の責任は重い」

朝日社説の後半は、矛先が安倍首相と麻生氏に向けられる。

「16年3月に与党議員が国交相あてに提出した早期実現を求める要望書には、首相も名を連ねていた。首相は『知らなかった』というが、調査を復活した経緯は、その妥当性も含め、検証されねばならない」
「この間、塚田氏を罷免するどころか、かばい続けた首相の責任は重い」
「麻生氏はいまだに公文書改ざんなどの責任をとらず、財務省トップの座に居座り続けている。首相はそのことを問題視する風もない」
「首相は塚田氏の辞任を受け、『一層気を引き締めて、国民の負託に応えていく』と記者団に語った。政権のおごりや緩み、政治責任を軽視する体質が本当に改まるのか、厳しく注視し続けねばならない」

本当に安倍政権の驕りが改善されるのか。沙鴎一歩も疑問である。

■読売も「思慮を欠く発言にあきれる」と突き放す

次に読売新聞の社説(4月6日付)を見ていこう。見出しが「思慮を欠く発言にあきれる」で、こう書き出す。

「職責の重さを自覚しない発言にあきれるばかりだ。辞任を巡る安倍内閣の対応も後手に回った。緊張感を欠いていると言わざるを得ない」

安倍政権擁護の読売社説もかばいようがないようだ。

さらに「公共事業を所管する副大臣として、資質を疑う。野党は国会で追及する構えを取っており、自民党内でも統一地方選や夏の参院選への影響を懸念する声が強まっていた。事実上の更迭とみられる」と書く。

更迭はいいが、トカゲの尻尾切りでは困る。

■「長期政権ゆえの驕りや緩みが目立つ」

読売社説は「塚田氏が発言したのは、福岡県知事選での新人候補の集会だ」と指摘しながら解説する。

「現職に麻生氏が推す新人が挑む保守分裂の構図だ。麻生派の塚田氏は、劣勢とされる陣営をテコ入れしようとして、政権の取り組みを誇示したのだろう。利益誘導を図ったと受け取られかねない」
「首相は当初、続投させる考えを明言していた。対応が遅れた背景には、塚田氏が参院新潟選挙区で改選を迎えるという事情もある。定数減で1人区となっており、選挙直前の辞任は避けたいとの判断が働いたのではないか」

塚田氏の選挙に勝つための利益誘導と安倍首相の選挙対応。いずれも党利党略であり、国民のことなど考えていない。読売社説の指摘は当を得ている。

さらに読売社説は「長期政権ゆえの驕りや緩みが目立つ。惰性を排して、政策面で結果を出さねばならない」とも主張する。

これまで沙鴎一歩は読売社説を「安倍政権擁護の社説だ」と批判することもあった。だが、今回の読売社説を読んで、まだ捨てたものではないことが分かった。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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