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なぜ優勝候補は「接戦」になると弱いのか

プレジデントオンライン / 2019年4月11日 15時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/South_agency)

一進一退の「死闘」と呼ばれる試合では、実力に劣るチームが番狂わせを起こすことが多い。なぜなのか。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人氏は「死闘を制するチームは、その前に大きな負けを経験していることが多い。一方、優勝候補はそうした経験がないので、土壇場に弱い」という――。

■死闘を制すチームの共通点

スポーツ好きな人ならば誰しも目にしたことがあるだろう、「死闘」と呼ばれる試合がある。死闘とは、両チームあるいは両個人が、実力と「勝つ」という気持ちを高いレベルで拮抗させたときにのみ生まれる、文字通り「決死の闘い」のことだ。

たとえば記憶に新しいのは、2015年のラグビー・ワールドカップ予選、日本代表と南アフリカの試合だ。優勝候補といわれていた南アフリカに対し、日本は残り時間4秒から劇的な逆転勝ちを収めた。このときだれが日本の勝利を予想していただろうか。

しかもその後、日本は予選リーグで2勝するも、スコットランドに10対45の大差で敗れ、決勝トーナメント進出を逃した。3勝1敗と勝ち越しているのに、決勝トーナメントに進めないチームは、ワールドカップ史上初だった。

僕がメンタルコーチとして見てきたアスリートの中にも、死闘を体験し、それを制してきたチームや選手がたくさんいる。そんな選手たちには共通していることがある。それは、「かつて大きな負けを経験している」ということだ。

■”大きな負け”がターニングポイントに

先述のラグビー日本代表にしても、1995年のワールドカップで、ニュージーランドに17対145の大敗を喫している。

このような“大きな負け”はターニングポイントとなる。選手たちや指導者に「変わろう」とするきっかけを与える。逆に言うと、その負けを経験できない、中途半端に勝ち進んでしまうチームは、そのきっかけを得ることができない。

優勝候補と呼ばれるような実力的に強いチームでも、もともとの才能やフィジカルの強さだけで勝てるかというと、最後の最後、大事な場面では負けてしまう。能力的な部分に頼りすぎて、勝つために本当に考えなくてはならない部分を無視してしまっているからだ。

■チームの「混乱期」こそが成長のチャンス

では、本当に考えなければならない部分とは何か。先ほど、大きな負けはきっかけをくれると書いた。そのきっかけとは、選手たち自身が変わろうとして「もがくこと」だ。

この時期のことを「混乱期」と僕は呼んでいる。「混乱期」とは、チームビルディングの5段階を示したタックマンモデルからとっている(図表参照)。

 

チームがもがくということは、団結することや、まとまることからはかけ離れている。しかし、その時はそれでいい。重要なのは、リーダーが「チームには混乱期があるのだ」と認識し、見越した上で、チームをマネジメントしていくということである。

チームのリーダー的存在の人は、混乱期を乗り越えるべくチームをまとめ、形成期と呼ばれる次の段階へと導いていかなければならない。そのためにも、リーダーには混乱期を、チームにとってのマイナスではなく、プラスだと認識することを大切にしてほしい。

ただ導いていくだけではなく、そのことを頭に入れてチームをまとめていくことが重要だ。だからといって、リーダーがすべてを背負い、まとめようとする必要もない。特に人数の多いチームには、少人数のグループを作る必要がある。

その少人数のグループ内で発生した問題を、リーダーに報告する。それを受けて、リーダーはグループ内での解決を促したり、考えたりする。そうやってチームがまとまっていけばいいのだ。

前述の「本当に考えなくてはならない部分」とは、こうしたチーム内の基礎的な部分、いわばチームワークを指している。もがく混乱期を通じてお互いの価値観をすり合わせていくことこそがチームワークの形成につながる。この価値観のすり合わせをしないと、あとあと大きな不満となって表れる。チームの価値観について腹を割って話すためにも、「大きな負け」と、それに伴う「混乱期」は、なくてはならないものなのだ。

■負けたチームだけが手にするもの

死闘を乗り越え制すチームと、最後の最後で乗り越えられないチームとの差はまさにここにある。チームの基礎力=チームワークだ。もともとの才能やフィジカル的なセンス、技術の差などではない。もちろん技術は大切だし、気持ちだけでは勝てないが、数多くの事例を見た結果、僕が言いたいのはそこではない。

いいチームは、「困難に繰り返し立ち向かっていく中で強くなっていく」と僕は考える。そもそも「死闘ができる」のは、チームの基礎がしっかりしているからなのだ。基礎のないチームは死闘を経験することもない。

チームの基礎部分、つまりチームワークが、死闘を迎える前にきっちりと仕上がっているかどうか。これが、死闘を乗り越えられるチームとそうでないチームの違いだと僕は思う。

チームワークを仕上げるためには、まずはチームがどういう状況にあるか、自分たちを顧みる必要がある。顧みるためには、きっかけが必要だ。そのきっかけが、「大きな負け」なのである。

■変わるために「もがく」ということ

負けることは悪いことである。勝つことはいいことである。少し極端だが、スポーツの世界と同様、ビジネスの世界でもこれがふつうの認識なのではないかと思う。

しかし、よく考えてみれば、絶対に負けられない試合ばかりではないとわかるだろう。たとえばスポーツの練習試合は、勝つこともひとつの経験や自信につながるが、それ以上に普段の公式戦であまり起用しない選手を出場させるなど、チームの練習として試合を利用することは多くある。こうした機会に負けを経験することが、自分やチームを考えるきっかけになる。

勝ち続けてしまうチームでは、内容が悪くても、勝ってしまうことにより自身を振り返ることがなかなかできない。つまり、変わるきっかけを得られないのだ。

大きな負けは自身やチームを変えていくきっかけである――。

そう考えると、負けは絶対に経験すべきことであり、チームにとってマイナスではなくむしろプラスであると考えることができる。ただし、負けること以上に、負けた後どう行動するのかがさらに大切だ。負けを「変わるチャンスなんだ」と捉え、なぜ負けたのか、相手と自分の違いは何なのかなど自分を顧みて、変わるために「もがいていくこと」が強くなるためのファーストステップとなる。

■ビジネスでも目の前の数字に惑わされてはいけない

第一、負けるのは悪いことだという観念を強く持ちすぎると、人は萎縮してしまう。もちろん負けられない試合に「絶対に負けない」という強い意志を持って向き合うことは大切だが、先ほども言ったとおり、よく考えてみると「何がなんでも負けられない試合」というのはそう多くはない。練習試合や紅白戦では、負けてもいいのだ。そこで負けることで、変わるチャンスを得られるのだから。

負けや失敗を恐れてばかりいては、無難な動きしかできなくなる。しかし、得点を重ねて勝つためには、無難な動きだけではだめだ。ファインプレーと呼ばれるような鮮烈で大胆な動きが得点につながったり、チーム全体を活気づける役割を果たしたりするが、どれも失敗を恐れていてはできない動きであろう。

負けを恐れないために、チームならば「失敗してもいいんだ」と思える環境作りや、個人ならばそうした環境に身を置くことが大切だ。このような環境作りは一朝一夕にできるものではないので、指導者やチームのリーダーは意識して積極的に取り組んでほしい。

ビジネスにおいても、結果を出すための行動ばかりをしがちである。僕も営業経験があるから、目の前の数値目標についつい追われてしまう気持ちはよく分かる。しかし、今まで以上の結果を出したいのならば、目の前の無難な勝ちを拾いにいくのではなく、新しいことにチャレンジしなければならない。そうして失敗することが、自分を顧みて、何をすればいかと思考量を増やし、大きな勝利を手繰りよせることにつながるのだ。

■負けた時にチームを活性化できるリーダーを目指す

死闘を乗り越えられる強さを得るためには、大きな負けを経験して、そこからもがき、強くなろうと変わっていくことが大切だと述べてきた。

鈴木颯人『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)

負けはチームを活性化する。負けをマイナスだ、悪いことだと思うことなく「むしろこれはチャンスなんだ」と捉えて自らのこと、チームのことを考えるきっかけにしてほしい。そうすればどんな死闘でも乗り越えていけるし、さらにチームは強くなれる。

とくにチームリーダーは「負けを失敗だと思わない」こと。そこから必ず何かを得て、チームメンバーにも共有していくことが求められる。

大きな負けを経験しているからこそストレスやプレッシャーに負けない強さを手に入れる。死闘を乗り越えられるチームは、失敗から得たものを武器に変え、勝つべくして勝ち上がっていくのである。

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鈴木 颯人(すずき・はやと)
スポーツメンタルコーチ
1983年、イギリス生まれの東京育ち。Re‐Departure合同会社代表社員。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球など、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。

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(スポーツメンタルコーチ 鈴木 颯人 写真=iStock.com)

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