ただ"お勧めを"と注文してはいけない理由
プレジデントオンライン / 2019年4月12日 11時15分
■バー文化発祥の地・横浜は個性溢れる名店の宝庫
日本のバー文化発祥の地ともいわれる横浜には、今もさまざまな個性あふれるバーが存在する。その中からどこに行こうかと悩むのもまた楽しみのひとつだ。
この日、取材が終わったのは夕刻。飲むにはちょっと早いものの、せっかくの横浜。このまま帰るのはちょっと惜しい。そこで17:00からオープンしている馬車道の「カサブランカ」へ寄ってみることにした。
雑居ビルの階段を降りると、目の前に本棚を模した扉が現れる。店内の様子が見えないため、毎回少し勇気がいるものの、扉を押せば、心配していたことがおかしくなるほど、アットホームな雰囲気が迎えてくれる。このバーはカウンターのみの全11席。そのため4人以上のグループ客はお断りするというのがポリシー。静かに飲みながら、気持ちをオフモードに切り替えるには最適だ。
このバーに来たらぜひオーダーしてもらいたいのが、フルーツカクテル。旬のフルーツを選んでカクテルをオーダーするスタイルのバーは今では珍しくないが、ここでは25年前の創業時から提供しており、オーナーバーテンダーの山本梯地(だいじ)さんは、フルーツカクテルのジャンルを世に広めた第一人者でもある。
カウンターにあるフルーツカクテルのメニューを開くと、イチゴ、イチジク、ユズ、安納芋など、旬のフルーツや野菜ごとに分類されて、それらを使用したカクテルが列記されている。さて何にしようかと悩んでいるところで、お通しがわりのコンソメスープが出されるのもここの特徴。
「昔銀座にまずミルクを出すお店があったと聞いたんです。お酒を飲むお客様の胃腸を守る意味があったらしいのですが、そこから派生してコンソメスープを出すバーが当時、いくつかありまして、その流れでうちでも出しています。何も食べていなければ、少しお腹が満ち足りますし、食後に寄られた方なら胃腸がリセットされますから」
確かに温かいスープをひと口すすると、“ふうっ”と一息ついた気分になる。お腹も気持ちも落ち着いたところで「冬から初春のフルーツはまもなく終わってしまうので、楽しむなら今が最後ですよ」との提案で、まずは「金柑(キンカン)のカクテル」をオーダーすることに。
■こだわりの果物を使ったオリジナルカクテルに舌鼓
「どうぞ」と出されたカクテルにはスライスしたキンカンと金箔が飾られ、黄金色の輝きと、シンプルながらも、華やかな雰囲気に心が踊る。グラスを口元に近づけるとキンカンの濃厚な香りが鼻腔をくすぐり、ダークラムのふくよかな味わいから、徐々にキンカンのスッキリとした甘みが口中に広がってくる。
そもそも、フルーツカクテルは、果物の味がおいしさを左右する。そのため山本さんは、契約する青果店のほか、鎌倉の市場で見つけた神奈川の青果、愛媛県岩城島から取り寄せる柑橘類や、沖縄から直送されるカボチャなど、全国各地からカクテルにするにふさわしいフルーツや野菜を探し、ラインナップを増やしてきたという。
そう聞くと、あれもこれもと飲みたくなるもの。さて、2杯目は何を飲もうか……。
「例えばお好きなカクテル名をお伝えいただいて、それよりもスッキリしたものが飲みたいなどとリクエストされると、こちらも提案しやすいですね。お酒に強いのか弱いのか、お好きなリキュールのジャンルや銘柄を言っていただくのもいいですね」
バーにはあらゆる種類の酒が揃っている。そのため“何かお勧めを”と言われるのが、実は一番難しいのだそう。「最近はスマホで一生懸命、メニュー名を検索しながらオーダーされる方もいらっしゃるのですが、せっかく目の前にバーテンダーがいるのですから、わからないことやどんなものがあるのかなどは、どんどん聞いてほしいんです」。
そこで「次の1杯で終わりにしたいので、デザートっぽい〆のカクテルが飲みたい」とリクエストしたところ、定番のカクテルで女性からの人気も高いという「バナナのティラミスカクテル」をお勧めされた。
表面に振りかけられたココアパウダー、エスプレッソリキュールとマスカルポーネの味わいはまさにティラミス。そこにバナナの甘みと、クラッシュアイスの食感が加わり、ついついピッチが早くなる。濃厚なバナナの香りと甘みは、フレッシュなバナナとオーブンで焼いたバナナの2種類をミックスしているからだそう。
「パンプキンとバナナは以前は茹でていたのですが、焼いたほうが香りや味わいが凝縮されて、余韻が長く楽しめることに気付き、それ以来ミックスしているんです」。人気メニューであっても、さらなるおいしさを研究し、レストランでの食事などからインスピレーションを受けて新たなカクテルも生み出していく。だからこそ、老舗でありながらもカサブランカのフルーツカクテルには、いつも新鮮な発見があるのかもしれない。
これから夏にかけては、国産マンゴーやスイカ、サクランボ、シャインマスカットや巨峰のカクテルが登場するそうで、次に訪れる日がすでに待ち遠しい。後ろ髪を引かれつつも、東京に戻ることを考えたら、ほろ酔いくらいでストップするのがちょうどいい。カクテル2杯3300円(チャージ料、サービス料込)でなごりの春の味覚を堪能した。
常時10種類ほどのフルーツを用意。それぞれに数種類のカクテルに仕立ててくれる。観光地が近いため、客の約半数は初めて訪れる人というのも、バー初心者には心強い。最近は女性のひとり客も多いそう。もちろんカクテル以外の酒も豊富に揃っている。
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神奈川県横浜市中区相生町5-79-3ベルビル馬車道地下1F
TEL:045-681-5723
営業時間=17:00~26:00(L.O.25:30)
休業日=年末年始
テーブルチャージ=800円
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(林田 順子)
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