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家族の"治療をやめたい"への正しい対応

プレジデントオンライン / 2019年4月30日 11時15分

■人工透析の中止は尊厳死ではなく自殺

2018年8月、当時44歳の腎臓病患者が人工透析中止を選び、1週間後に死亡した。患者が診察を受けた病院では、過去に20人以上の患者が透析を中止あるいは開始せずに死亡しており、医療のあり方として適切だったのか議論を呼んだ。

患者が自ら死を選ぶケースは、安楽死、尊厳死、自殺の3つ。尊厳死と安楽死は混同されやすいが、薬物などで積極的に命を絶つのが安楽死、延命治療を中止して自然に死を迎えるのが尊厳死だ。

いまのところ日本において安楽死は違法で、手を下した医師は罪に問われる。ただし、「患者が耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいること」などの一定の要件を満たせば、違法性は阻却される(横浜地裁平成7年3月28日判決)。

一方、尊厳死はどうか。人工呼吸器を外すなどの延命治療の中止は現実に行われているが、現在まで医師が起訴された例はない。厚生労働省や関係学会が尊厳死のガイドラインを定めているが、それに従っているかぎり、医師が罪に問われることはないだろう。

問題は、今回の透析中止がガイドラインに則ったものかどうか。どのガイドラインを見ても、尊厳死が許されるのは終末期に限られる。一方、報道では、今回死亡した患者は透析を続けたら3~4年の生存が可能だったとされる。医療問題に詳しい谷直樹弁護士の見解はこうだ。

「死が目前に迫っているわけではなく、透析を受ければ翌日は元気に生活できたことを考えると、今回は尊厳死に当たらない。尊厳死でなければ自殺。手伝った医師は、自殺の教唆や幇助が疑われます」

■同意書のサイン後、心変わりしたら……

谷弁護士が特に問題視しているのは、医師による選択肢の提示だ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/BrianAJackson)

「透析で生き永らえることができる患者は、治療継続が唯一の正解。自己決定権を重視するとしても、医師から死の選択肢を示すのはおかしい。うつ病の患者に『自殺の選択肢もあります』というようなもので、倫理に反します」

そもそも本当に患者が自己決定したのかという点も疑問が残る。透析中止について病院側が説明した後、患者は同意書にサインしたが、透析中止後に再開を訴えた。

「患者がどこまで理解していたのかわからないし、まわりに忖度してサインをした可能性もあります。仮に本人が納得していたとしても、人の意思は揺れ動くもの。治療を中止して死が迫ったときの声こそが本音ではないか」

病院の対応の是非はこれから行政や司法が判断していくが、気になるのは、同じことが自分の家族に起きたときの対処法である。

「生き永らえられる人が透析中止に同意するのは、病気で心が弱っているからでしょう。まずは1人で病院に行かせないこと。患者会に入ったり、癌患者なら精神腫瘍科がある病院を選んだりするのもいい。患者の心のケアを最優先にしてください」

(ジャーナリスト 村上 敬 答えていただいた人=弁護士 谷 直樹 図版作成=大橋昭一 写真=iStock.com)

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