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サッカー中島翔哉の中東移籍にイラつく訳

プレジデントオンライン / 2019年4月11日 15時15分

カタールのアル・ドゥハイルに移籍した中島翔哉選手(写真左。2019年2月5日、カタール・ドーハ)(写真=AFP/時事通信フォト)

サッカー日本代表の新エース・中島翔哉選手がポルトガルのポルティモネンセからカタールのアル・ドゥハイルへ約44億円で移籍した。多くのサッカーファンは中島選手の欧州での活躍を期待していたようで、批判の声が目立つ。だが心理カウンセラーの小倉広氏は「批判する人たちは、自分自身のネガティブな欲求や感情を他者に押し付けているだけだ」と指摘する――。

■お金目当ての「年金リーグ」を選んでガッカリ

サッカー日本代表のエース中島翔哉(以下、中島選手)が、ポルトガルのポルティモネンセからの移籍先としてカタールのアル・ドゥハイルを選んだことは、日本のサッカーファンに大きな衝撃を与えました。

なぜならば、私を含む多くのサッカーファンが移籍先として、イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランスの欧州5大リーグ、中でもビッグクラブと呼ばれる強豪への移籍を期待していたでしょうから。

中島選手は、ヨーロッパでは5大リーグに次ぐ二番手リーグと言われるポルトガルで月間MVPを受賞するなど大活躍をし、一躍世界から注目されるようになりました。そして、5大リーグの複数のチームから関心が寄せられ、「移籍間近!」との記事が紙面をにぎわせていたのです。

また、カタールなど中東リーグは別名「年金リーグ」とも呼ばれ、盛りを過ぎた有名選手が晩年にお金を目当てに過ごす二流の「金満リーグ」だともいわれています。だが、中島選手は、24歳という若さで中東を選んだ。そのことに、多くのファンが失望してしまった、とも言えるでしょう。

■人は自分の中にある“認めたくない”ことを他者に投影する

中島選手がどのリーグやチームを選ぼうと、それは彼の自由です。他者が口出しをすべきことでないことは自明の理です。にもかかわらず、なぜ、私を含むサッカーファンの多くが彼の選択にイラッときてしまったのでしょうか。

精神分析学で有名なジークムント・フロイトが提唱し、娘のアンナ・フロイトが理論をまとめた、自分を守る無意識のはたらき、「防衛機制(Defence Mechanism)」の一つとして「投影(Projection)」があります。

投影とは「自分自身の中にあるけれど“認めたくない”“できればなかったことにしたい”ネガティブな欲求や感情を他者に押し付けること」です。

例えば、本当は「自分はわがままで自分勝手な面がある」とうすうす感づいていたとしましょう。しかし、それは社会的には良くないこと、だと思われています。

ですから、それを“認めたくない”“なかったことにしたい”と無意識で思います。すると、やたらと、わがままで自分勝手な人が目につき、その人を「わがままで自分勝手だ!」と批判し、過剰にイラッと感じてしまう。これを投影と呼ぶのです。

投影が起きるとき、多くの場合、怒りを伴います。なぜならば、自分の中にある、否認したいほど見たくない欲求や感情を相手が堂々と披露している(ように見える)からです。そんな相手に対してイラッとくるのは当然、と言えるでしょう。

■心理学から考えた投影のプロセス

これを中島選手のケースに当てはめるならば、次のような投影が行われた可能性が考えられます。

【投影のメカニズム】
①「中島選手は、ステップアップせず現状維持でいようとしている」ことが、なぜかやたらと目につき、イラッとくる。

②私たち自身の無意識に、“認めたくない”“できればなかったことにしたい”となんらかのネガティブな欲求や感情がある。

③それは「私も本当はステップアップせず現状維持でいたい」という欲求だと推測される。

④しかし、それは社会的に良くないことと思われているので、“認めたくない”“できればなかったことにしたい”から、自分では気づいていない。

⑤私たちはその欲望を見たくないので、中島選手に押し付け(投影し)、中島選手を非難し自らと対比させることで、あたかも自分には「現状維持をしたい」という欲求などない、と確認し自分を守る。

心理学という眼鏡を通してみれば、このような投影が行われていた可能性がある、とわかるのです。

■欲求や感情を堂々と認める

では、厄介な投影に対して、私たちはどのような対策をとることができるのでしょうか。それは、自分の中にある、認めたくない欲求や感情を認めることです。

投影が起こるのは、欲求や感情を「なかったことにする」からです。もしも、その欲求や感情を堂々と認め、そんな自分を否定せずに受け容れることができれば、そもそも投影は起きなくなるのです。

そして、この統合のプロセスを「思考」と「感情」の両面から、「今、ここ(here and now)」で体験することが重要です。

まずは思考面からのアプローチです。私たちの多くは「現状維持のままではいけない」「常にステップアップしなくてはならない」という社会通念を共有しています。

そのため、それに反する欲求、例えば「現状維持のままでいたい」「ステップアップしたくない」という欲求を持つと、それを“認めたくない”“なかったことにしたい”と無意識で考えます。

■中島選手にイラっとした理由

この一連のプロセスを意識化するのです。具体的には、先に挙げた「投影のメカニズムが自分の中にある」と認め、メカニズムが働いていることを「思考」で確認するのです。

①「中島選手がカタールに移籍する、と聞いた時にイラッときたなぁ」

②「そんなことは本来、気にするほどのことではないはずなのに、少し過剰な反応のような気がするな」

③「ということは、おそらくこれは“投影”に違いない」

④「私が“認めたくない”“なかったことにしたい”と考える社会通念に反する欲求や感情って何だろう?」

⑤「そうか。私は“現状維持でいたい”“ステップアップしたくない”という気持ちが本当は無意識下にあるんだな」

⑥「そんな自分を認めよう。私は、現状維持でいたいと思う時があるんだな。確かにそうだな」

このように自問自答を繰り返し、それを否定せず、受け容れるのです。

これらのプロセスは、一人でできる場合もありますが、アドラー心理学などカウンセラーの力を借りながら意識化させることも可能です。

■自己防衛のために人は無意識で嘘をつく

しかし、「思考」面からのアプローチだけでは十分ではありません。なぜならば、思考は自分を守るために実際よりもマイナス感情を矮小化してしまうことがあるからです。

もしかしたら、現状維持の欲求は非常に強いものかもしれません。しかし、これは社会通念上好ましいものではありませんから、私たちはそれを認めたくありません。

なので、自己防衛のために現状維持の欲求をわざと少なく見積もって「たまには現状維持で楽をしたいときもあるよね」などと矮小化してしまいがちです。それが、嘘になるのです。無意識の欲求を意識化したことにならないのです。

では、どうするかというと“感情”を伴った体験をすればいいのです。

具体的には、ゲシュタルト療法などの心理療法を通じて、

「現状維持を選択せざるを得なかった体験」
「ステップアップに失敗してつらい目にあった体験」

など、“なかったことにしたい”過去の未完了のことがら(Unfinished Business)を、“今、ここ”でもう一度体験し、完了させるのです。

すると、“なかったことにしていた”ことがらが本当の意味で意識化され、「統合」が始まります。すぐにイラッとくる自動反応が少しずつゆるんでくるのです。

■世界はすべて”投影”である

「あなたの心がきれいだから、なんでもきれいに見えるんだなあ」あいだみつを先生の有名な詩の一節です。

実際にある世界はただ一つです。しかし、それを「きれい」と思う人もいれば、「汚い」と思う人もいます。「楽しい」と思う人もいれば「苦しい」と思う人もいます。

つまり、それは投影の一つです。世界がきれいでも汚いのでもなく、私たちの心の中が世界に対して投影されているのです。

そう考えれば、イラッとくる自分は、自分の“認めたくない”“なかったものにしたい”自分に気づくチャンスです。

これまで“なかったものにしていた”現状維持をしたい、という気持ちは、決して不要な考えではありません。それは自分を守るために必要だった考えです。

高く飛ぶためにはしゃがまなくてはなりません。現状維持には、高く飛ぶための準備期間、という意味もあるのです。

■自分と向き合うことで人生がより豊かになる

また、現状維持を自分に対して許す事ができるようになれば、相手の現状維持を許すことができるようになります。すると対人関係も良くなることでしょう。

小倉 広『もしアドラーが上司だったら』(プレジデント社)

このように、“なかったもの”にしてきた欲求や感情は、マイナスの側面をなくすだけでなく、プラスの側面もあります。

投影の前提にある“認めたくない”“なかったことにしたい”ということの否認や抑圧は、私たちの成長の可能性を自分から奪っていた、とも言えるのです。

それを意識化し、取り戻すのです。すると、私たちの人生がより豊かになっていくことでしょう。

逆にいえば、他者から悪口を言われたとしても、それは私たちが悪いのではなく、相手が私たちに投影しているだけ、であることがわかります。

つまり、相手の中にある、自分では認めたくないネガティブな欲求や感情を私たちに押し付けているだけ。何も気にすることはない、とわかります。

「中島選手がカタールに移籍することで、イラッときた」

たった一つのできごとから、このような考察をすることができます。心理学を学ぶことで、問題を中島選手や相手のせいだ、と押し付けるのではなく、自分の内面を見つめ直すチャンス、と捉えることができるかもしれませんね。

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小倉 広(おぐら・ひろし)
組織人事コンサルタント/心理カウンセラー
1965年新潟県生まれ。88年青山学院大学経済学部卒業。リクルート勤務を経て、2003年より独立。『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『もし、アドラーが上司だったら』(プレジデント社)、『アドラーに学ぶ部下育成の心理学』(日経BP社)、『任せる技術』(日本経済新聞出版社)など著作多数。http://ogurahiroshi.net

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(組織人事コンサルタント/心理カウンセラー 小倉 広 写真=AFP/時事通信フォト)

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