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オナラの成分半分で"ニオイ"も半減するか

プレジデントオンライン / 2019年5月5日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/SIphotography)

■オナラの成分が半分になるとニオイも半減するか?

カレー専門店などでは好みの辛さを選べることがある。通常の辛さの2倍、5倍、10倍……。このとき、唐辛子などの辛み成分を2倍、5倍、10倍と増やしているわけではない。辛み成分の量と私たちが実際に食べて感じる辛さは単純に比例しないのだ。

これは音の感じ方も同じ。最も小さな音のエネルギーを1とし、音を2倍、3倍に大きくして聞きたい場合、音のエネルギーを2倍、3倍にすればいいわけではない。

逆もしかりだ。びろうな話で恐縮だが、部屋にオナラのニオイを充満させたとしよう。窓を開けてオナラの成分を半分に減らせば、ニオイも半減するかというとそうはならない。ほとんど変わらずくさいと感じる。

では、カレーの辛さを2倍にするにはどのくらい辛み成分を加えればよいのか。オナラのニオイを半減させるためには、どれだけオナラの成分を減らせばいいのか。

こうした味覚や聴覚、嗅覚など人間の感覚は、一見、主観的なもののように思われるが、実はそうではない。これらの感覚は、きちんと計算できる。

「ウェーバー・フェヒナーの法則」がそれだ。ドイツの生理学者・解剖学者エルンスト・ウェーバーと、その弟子である物理学者・心理学者グスタフ・フェヒナーの師弟による合作で、1860年に発表された。

この法則は図にある数式で表される。人の感じる感覚の強さが「P」で、重さ・音の大きさ・におい成分の量などそのときの刺激の強さが「I」、感覚の強さが0になる刺激の固定の強さが「I0」、そして辛さなどの個々の刺激が固有に持っている刺激の度合いである定数を「K」としている。ちなみに「e」は前回ご紹介した「ネイピア数」である

■辛いとかくさいは「足し算」ではなく「かけ算」

ここで右項にある「log」が、高校で習った「対数」であったことを思い出していただきたい。そして、右項のKとI0、そしてeは定数である。ということは感覚の強さは、そのときの刺激の強さIの対数に比例することになる。別な言い方をすると、辛いとかくさいといった感覚は「足し算」ではなく、「かけ算」で感じているということになるのだ。

何も対数が出てきたらかといって、拒絶反応を示さないでいただきたい。要はかけ算の回数のことである。1000の対数は「1000=10×10×10」と10を3回かけるので「3」となる。100の場合は「100=10×10」と10を2回かけた数なので、100の対数は2となる。

つまり、辛さ10のカレーを2倍の辛さにしたければ、「10×10=100倍」の辛み成分にしなければならない計算になる。エネルギー1の音の大きさの場合は、エネルギーを10倍にして、ようやく2倍の大きさに聞こえる。逆に部屋に充満させたオナラ成分が100のニオイは、オナラ成分を10分の1の10に減らして、ようやくくさいニオイが半減したと感じるのだ。

こう見てくると、人間の感覚というのは鈍感に感じるようにできていることがわかる。もちろん、この法則で感覚の仕組みのすべてを説明できるわけではない。感覚の定量的なモデリングに初めて成功したということである。

最後に話は変わるが、このウェーバー・フェヒナーの法則にも、ネイピア数のeが顔を出しているのは面白くはないか。誠にもって不思議な数といえる。

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桜井 進
サイエンスナビゲータ1968年生まれ。東京工業大学理学部数学科卒業、同大学大学院修了。2000年、日本で初めてのサイエンスナビゲーターとして活動を開始。『面白くて眠れなくなる数学』など著書多数。

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(サイエンスナビゲーター 桜井 進 構成=田之上 信 写真=iStock.com)

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