退職金を狙う「ハゲタカ」バンクの生態
プレジデントオンライン / 2019年4月15日 8時15分
■投資ビギナーも多い定年退職者の「札束」に群がる人々
3、4月は、年度区切りということで、定年退職者が多く出る時期でもある。そのためこの時期、お金のやりくりを含めた「定年退職後の生活」に関する相談依頼が増える。
現在、定年年齢で多いのは60歳だが、2013年4月1日に改正された高齢者雇用安定法により、希望する正社員に対しては65歳まで就労の機会を与えなければならないとされており、再雇用制度や勤務延長制度などを利用して、60歳以降も働き続ける人も少なくない。
ただ、再雇用制度などを利用する場合、いったん定年時に退職して、その後、契約・嘱託社員として継続して働くことになるため、定年時に退職金が支払われる。
となると、数千万円単位のまとまったお金を手にして、これをどう運用したらよいのか悩む定年退職者が続出。そして金融機関ではこれら退職金マネーに狙いを定めて、一斉に営業をかけてくる。
今回は、ほぼ投資ビギナーであろう定年退職者の方々が、退職金を運用する場合に金融機関から勧められる具体的な金融商品の事例をご紹介しよう。
■定年退職者が金融機関から勧められる金融商品
まず、退職金が銀行口座に振り込まれて、そのままにしておくと、たいていの場合、銀行から電話がかかってくる。
「ご退職おめでとうございます。長年のお勤めご苦労さまでございました」などのねぎらいの言葉から始まり、「現在、お口座にまとまった資金をお預けいただいているようですが、今後の運用について何かお考えですか?」とか「一度、支店長ともども担当者○○が、ごあいさつに伺いたいのですが」などと、訪問を希望する旨を丁寧に告げられる。
先に、商品のパンフレットなどを郵送で送りつけ、その後に電話がかかってきて、「資料はご覧いただけましたでしょうか? 詳しいご説明をさせていただきたいのですが、明日もしくは明後日のご都合は?」などと、面談ありきで直近の日程を指定してくるケースもある。
いきなり訪問されるのは……と尻込みしている向きには、「実は、今度、定年退職者さま向けに、資産運用セミナーが開催される予定です。最近のトレンドを踏まえた老後資金設計もご紹介します。ご夫婦でご参加いただけませんか?」など、セミナーに誘導するパターンもある。
銀行のほか、証券会社や保険会社、不動産会社など、金融機関はさまざまだが、おおむねこんな感じだろう。
「まあ、どうせ退職金の運用については、考えなくてはと思っていたところだし、セミナーくらいなら」と軽い気持ちで約束すると、さあ、ここからが大変だ。
そこで、定年退職者した人々が紹介される金融商品を具体的にみていこう。
■銀行はあとで「本当に売りたい商品」を売りにくる
事例その1:「退職金専用定期預金」
安全性と金利は高いが、預入期間は短い
これは名前の通り退職金専用の定期預金で、銀行や地銀、信用金庫などで取り扱われている。最大のメリットは、現在の金利水準の中では高金利であること。昨今の超低金利の影響から、都銀などを中心にこの定期預金の取り扱いを中止あるいは金利を大幅に引き下げる銀行が増えているとはいえ、それでも0.5~2%の金利が設定されている。
デメリットは、預入期間が1~6カ月程度と短いこと。そして、一定の条件が設けられていることだ。例えば、金融機関によって異なるが、預け入れは退職金を受け取ってから一定期間(1~3年など)以内、1人1回限り、預け入れの最低額(500万円以上など)および上限額(退職金受取金額までなど)、といった点は共通している。
このほか、投資信託やNISA(少額投資非課税制度)口座とセットにして、金利を上乗せしたプランや年金受取口座への指定などの条件を設けている銀行もある。
要は、金融機関にとっては末永くお付き合いいただくための顧客の囲い込み商品であり、退職金を受け取ってから、期間限定にして、アレコレ考える時間を与えないのも巧妙。預入期間の終了後は、銀行側が「本当に売りたい商品」(後述する事例2、あるいは事例3)を勧めてくること間違いなしだ。
そこで逃げ切りたいところだが、顧客としても、高い金利をもらったという、何となく後ろめたいものあるし、他にとくに運用のアテがあるわけでもない。それに何と言っても銀行なのだから、とんでもない詐欺まがいの商品を売りつけられることはないだろうという銀行への過剰な安心感が、判断を鈍らせてしまう可能性があるようだ。
事例その2:「投資信託」
手数料だけで収益分が飛ぶ!?
今や証券会社だけでなく、多くの銀行も積極的に取り扱っている投資信託。定年退職前に、退職金の運用についてセミナーを受講して、リスク分散が大事だということを勉強したAさん(62歳)は、証券会社で勧められて、退職金のうち300万円をバランス型ファンドに投資した。
国内外の株式や債券など複数の資産に投資するもので、大きく増えることはないが、普通預金に預けっぱなしにしておくよりはマシだろうとAさんは考えた。
運用成績も、最初の半年間は順調そのもの。これだったら、もっと追加投資したほうが良いのではと考えたAさんは、ちょうど満期を迎えた定期預金200万円で、もう少しリスクの高い新興国に投資する海外株式ファンドを購入した。老後資金を順調に増やしていけるように思えた。
ところが半年後、証券会社から届いた運用報告書を見ると、ファンドが2つとも値下がりしていた。とくに、追加投資した海外株式ファンドは2割も減少している。
しばらく様子を見ていたものの、なかなか基準価額が元に戻らないことに業を煮やしたAさんは、損切り覚悟で、すべて売却してしまったという。
投資信託の中には、退職金向けの安定運用重視と銘打ったファンドが数多く用意されている。Aさんが投資した、さまざまなアセットクラスに投資して、リスク分散ができるバランス型ファンドもそのひとつだ。
投資信託を選ぶ際に、運用成績ばかり気を取られている人も多いが、実は、手数料やコストにもっと注意を払うべきである。コストは、収益が出なくてもかかるものだし、多少値上がりしていても、コスト分で吹っ飛んでしまう。
■「銀行が勧める商品に間違いはない」は間違い
事例その3:「外貨建て保険」
超低金利時代の救世主!?
保険商品の中には、退職金などまとまったお金を一時払いにして、満期になれば、「元本+α」が戻ってくる貯蓄性商品が以前からあり、いつの時代にも根強い人気とニーズを維持してきた。
このようなしくみが銀行の顧客のスタイルに合っているだけでなく、販売手数料も高いため、最近では、保険会社だけでなく銀行でも積極的に販売している。
とはいえ、今や、マイナス金利によって円建て保険の貯蓄性は皆無。そこで最近、人気を集めているのが外貨建て保険である。
米ドルあるいは豪ドル建ての終身保険や年金保険がベースで、為替リスクはあるものの、積立利率が一定水準(1.5%、3%など)最低保障されている。円建てに比べて高い返戻率と割安な保険料が最大のメリットである。
保険料の支払いは、月払いタイプと一時払いタイプがあるが、退職金などまとまった資金を持つシニアには、運用次第で老後資金を大きく増やせる可能性のある後者が人気だ。
しかし、外貨建てで高金利とはいえ、ベースが保険商品ということは、コストも二重にかかる。外貨建て商品で運用したいのであれば、外貨建てMMFや外国債券に投資するほうがコストは割安だ。
また、銀行という販売チャネルに惑わされるケースも少なくない。
銀行で「金利が高くて、相続対策にもなる」と外貨建て保険を勧められたBさん(65歳)は、銀行なのだから元本保証のある国債のつもりで1000万円の契約をした。後日、郵送されてきた通知で外貨建て保険と知ったが、いまさら保険には加入するつもりがないBさんは、解約を申し出るつもりだという。商品理解が不十分だと、こういう結果を招くことも多々ある。
後編では、退職金の運用に失敗してしまう理由と対処法について紹介しよう。
(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子 写真=iStock.com)
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