"コンビニ24H営業"は政府が禁止すべきか
プレジデントオンライン / 2019年4月12日 15時15分
■コンビニ業界は「人手不足」に自力で対応すべき
深刻化する人手不足もあり、コンビニエンスストアの24時間営業が岐路に立たされている。
2月、コンビニ最大手セブン-イレブン・ジャパン(セブンイレブン)では、大阪府の加盟店オーナーが、本部の合意を得ずに営業時間を短縮した。この対応を巡って本部とオーナーが対立し、他のオーナーも本部批判に回った。混乱の責任を取って社長が交代した。
他のコンビニエンスストアでも人手不足は深刻だ。それを受け、政府は、コンビニ業界に行動計画の策定を求めた。これは政府が、民間企業の経営に介入したことを意味する。
ただ、人手不足が原因となり、コンビニ業界において深刻な社会問題(人手不足による店舗閉鎖や過労問題などの増加)が発生しているわけではない。コンビニ業界は、人手不足に自力で対応すべきだ。政府が口をはさむべき状況ではない。
コンビニ各社は、今後のビジネスモデルを真剣に考えるべき局面を迎えた。各社には、人手不足という危機を、持続的成長に向けた取り組みを進める“チャンス”に変える発想が求められる。
■加盟店オーナーが苦境に直面していることは明らか
3月26日、経済産業省が『コンビニ調査2018』を公表した。これは日本フランチャイズチェーン協会に加盟する8社の加盟店オーナーを対象とするアンケート調査だ。アンケートの結果を見ると、コンビニ加盟店オーナー(フランチャイジー)が直面する苦境がよくわかる。
目立ったのが、人手不足に危機感を持つオーナーが増えていることだ。前回2014年度調査では、人手が不足していると回答したオーナーは全体の22%だった。今回の調査では人手不足を指摘する回答が全体の61%と約3倍に跳ね上がった。加えて、本部の運営方針に不満を感じているオーナーも増えている。具体的には、本部に対して利益配分の見直しや人手不足への支援、オーナーの裁量による店舗運営を求める声が上がっている。契約を更新したいという回答は50%を下回った。
政府はこの状況を、かなり深刻に受け止めた。コンビニは地域社会に重要な役割を果たしている。加えて、政府は働き方改革に取り組んでいる。理由は、人手不足の中で企業の成長を実現すると同時に、就業者のワークライフバランスを向上するためだ。政府はコンビニ業界の業務実態を改善すべく、民間企業の経営に口を出し始めた。
■「人手不足」と「本部との対立」は分けて考えるべき
同時に、コンビニ業界全体で過度な長時間労働のあまり、健康が阻害されるケースなどが頻発しているとは言いづらい。政府は、人手不足の問題と、コンビニエンスストアビジネスにおけるフランチャイザー(本部)とフランチャイジーの意見対立を、明確に分けて考えなければならない。
まずは、企業が人手不足などへの対応に責任を持つべきだ。コンビニ各社は自主的な取り組みによって、店舗オーナーの納得を得なければならない。政府は、その取り組みを見守ればよい。政府は、必要に応じて省人化技術の導入支援や規制の緩和などを行い、民間の取り組みをサポートすべきだ。
政府が人手不足の中で不満を募らせる加盟店に配慮するなどし、頭ごなしに本部に行動計画の策定を求めるのはお門違いだ。その姿勢には、違和感を覚える。
■セブンで営業時間短縮に踏み切る店が出てきたワケ
セブンイレブンでは人手不足への対応が遅れ、オーナーが本部と対立してしまった。
加盟店オーナーは、人手不足により店舗運営が難しくなることに不安を強めた。彼らは、本部に24時間営業の見直しなどを求めた。しかし、本部は要望に応えられなかった。本部の対応の遅れこそが、オーナーが不安と不満をため込んだ原因だ。
オーナーらは、どのように人手不足に対応すればよいか、明確な指示がほしかった。それがなかったため、営業時間の短縮に踏み切らざるを得ないオーナーが出てしまった。契約違反までしなければオーナーは生活を守れなかったのだろう。これは同社にとって、かなり深刻な問題だ。
セブンイレブンはより早い段階で対策を打てたはずだ。経営者が24時間営業の意義をオーナーに説明し、共通する問題を把握していたなら、事態はここまで深刻にはならなかっただろう。
セブンイレブン経営陣は何を目指すべきか、はっきり理解していなかったのではないか。それはビジネスモデルの安定性、持続性にかかわる問題だ。見方を変えれば、同社は中興の祖である鈴木元会長の後継者を確保できていなかった。経営者の理解不足が対応の遅れを招いた。オーナーがその状況にいらだつのは仕方ない。
■現場の声を聞く前に、本部が明確な方針を示せ
同社は、本部に現場の意見が集まりづらくなっていたと説明しているが、根本の問題は経営者にある。経営者は、組織(本部と加盟店)全体に対して、明確に今後の方針を伝えなければならない。セブンイレブンは、店舗運営の負担軽減と顧客満足の向上を両立するための方策を、加盟店オーナーに示す必要がある。それが不安や不満が蔓延する組織を一つにまとめ、持続的な成長を目指すために不可欠だ。
トップ交代後、セブンイレブンは、組織全体をまとめることよりも、個別の事情に応じた柔軟な対応を重視している。本部が明確な方針を示さないまま現場の声を聞くことは、不満を聞いたこと止まりになってしまう恐れがある。そうなると、フランチャイザーとフランチャイジー間の対立は一段と深刻化しかねない。同社の先行きはやや不安だ。
■ローソンは全店舗に“セルフレジ”を導入する方針
経営者がビジネスモデルを揺るがす問題にどう対応するかが、企業の将来を左右する。問題が発生した状況は、組織構成員の意識を一つにまとめるチャンスでもある。コンビニ各社トップがそうした発想を持てるか否かが重要だ。
わが国にとって、人手不足は構造的な問題だ。今後、経済全体で人手確保は難しくなるだろう。企業はそれを見越して戦略を練らなければならない。小売業界などでは、いかにして人材を引き付けるかが成長を左右するだろう。
そのために、企業が省人化技術を導入し、生産性の向上に取り組むことは不可避だ。その上で企業は、就業者がより能率的かつ生き生きとビジネスに取り組むことのできる環境を目指さなければならない。
コンビニ業界では、そうした取り組みと並行して人口動態や昼夜の利用者数の違いなどを見極め、地域ごとに営業時間を調整して収益を獲得することが目指されるべきだ。深夜の店舗運営の負担をカバーするために、深夜の割増価格も検討されてよい。それがコンビニ運営企業にとっての“実情に即した経営判断”だ。
一例として、ローソンは、全店舗に“セルフレジ”を導入する方針だ。加えて、同社は24時間営業に関しても、環境の変化に応じて柔軟に対応しようとしている。コンビニ業界では、こうした考え方が増えていくだろう。
■従来にはない運営形態を目指すチャンス
中でも注目したいのは、省人化への取り組みだ。コンビニ企業が無人形態での24時間営業を実現できれば、本部とオーナーをはじめ、多様な利害を調整しやすくなる。海外では、アマゾンなどが無人コンビニの運営に取り組んでいる。
このコンセプトがわが国に合うか否かを確認するには、実証実験が欠かせない。人手不足が深刻化している今こそ、企業が新しい発想に取り組み、従来にはないコンビニなどの運営形態を目指すチャンスだ。
コンビニ業界で、ピンチをチャンスととらえ、ダイナミックに経営の革新を目指す経営者が増えることを期待したい。新しい発想を経営に持ち込む企業が増えれば、わが国経済のダイナミズムも高まるだろう。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=時事通信フォト)
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