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子供の挫折を自分の挫折と捉えるバカ親

プレジデントオンライン / 2019年5月5日 11時15分

年4名のプロ四段昇段を目指し、約180名がしのぎを削る奨励会。最下位の6級でも力量はアマ四~五段だ。在籍年数は約10年(卒業生は約6年)程度とか。退会者の社会復帰を考慮して、昔は31歳だった年齢制限が26歳に引き下げられた。(日本将棋連盟=写真)

▼成人した子供がニート

■「負け犬」と罵られ、殴り合いの大喧嘩に

僕はね、モラトリアムってそれほど悪いことだと思わないんです。極端に言えば、そんなときは無理に社会に出なくてもいいと思うんです。

僕も、医師の道しか許さぬ親の反対を押し切って東京の大学に入ったものの、一時は学校に行かず新宿の将棋道場に入り浸っていました。進路が決まらずにいたら、たまたま知人の紹介で日本将棋連盟に就職が決定。そこで、すべてを懸けてプロ棋士を目指す青年たちと出会いました。

将棋のプロになるには、養成機関である奨励会に入るのが通例で、棋士になれるのはうち1割ほど。満21歳の誕生日までに初段、満26歳の誕生日までに四段になれなかったら退会を余儀なくされる厳しい世界です。

元奨励会員のA氏は在籍時、年齢制限のプレッシャーからノイローゼでアパートに引きこもり、兄のアドバイスで南の島へ逃避行。同じくB君は退会が決まった日、友人の故・村山聖九段(大崎氏著『聖の青春』の主人公)に「あなたは負け犬だ」と罵られ、殴り合いの大喧嘩に。挫折感を拭うため、夜の繁華街で粋がる奴を相手にストリートファイトを繰り広げ、その後は俳優の付き人をしたり役者を目指したりと変転を重ねました。19歳で退会が決まり、何をしていいかわからなかったC君は、師匠に「海外でも放浪してこい」と言われ、アフリカやヨーロッパをアルバイトしつつ放浪しました。

■社会性も身につかぬまま放り出されたわけです

今でこそ超高学歴の奨励会員も少なくありませんが、当時は中卒が大半。将棋しか知らず、社会性も身につかぬまま放り出されたわけです。

でも、A氏は将棋連盟職員として今は現役奨励会員の“世話役”です。B君は指導棋士と将棋の記事の執筆を。ブラジルで結婚したC君は現地の将棋の指導員です。彼らのように将棋に関わり続ける者がいる一方、すっぱりと将棋との縁を切ったり、猛勉強の末に公認会計士や司法書士になった者も。ただ、退会者のその後の情報は極めて少ないですね。アマチュア強豪として活躍していれば、まだわかるのですが。怒り狂っていた僕の父親も、囲碁好きのせいもあってか、いつの間にか「おまえはすごい」と一目置いてくれるようになりました。人生わからないものです。

奨励会のような過酷な場にいたとしても、その経験が先々どれほど役に立つかはわかりません。結局、親は黙って見守るしかない。子供の挫折を自分の挫折のように捉え、がっかりする親がいますが、僕は子供と挫折を共有したくありません。

もし僕の子供が挫折したとしても、それは本人が解決すべき問題なんです。何か特別な金銭的フォローも必要ないと思うし、何かアドバイスしようにも、親は教育者である師匠とも違う。もっと大きな立ち位置にいるんじゃないでしょうか。

誰にでもモラトリアムは必要ですし、いつ終わるかは人それぞれ。モラトリアムが終わってからはじまる人生もきっとあると思うんです。

打つべき一手:黙って見守ろう。親子で挫折を共有しない

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大崎善生
作家
1957年、北海道生まれ。「将棋世界」編集長を経て2000年、『聖の青春』で作家デビューし新潮学芸賞。01年、『将棋の子』で講談社ノンフィクション賞。『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』ほか。

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(作家 大崎 善生 構成=篠原克周 撮影=石橋素幸 写真=日本将棋連盟)

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