髙田明"電子辞書を30分で1億円売るワザ"
プレジデントオンライン / 2019年5月2日 11時15分
■大阪万博で、外国人に英語で声かけ
僕が英語に興味を持ったのは中学生のとき。10歳年上の叔父貴(叔父)の影響が大きいですね。大阪経済大学でESS(英語サークル)の部長を務め、英語が達者だった叔父貴は、僕の家に遊びに来たときによく英語の話をしてくれて、自然と英語に憧れを抱くようになりました。
よく覚えているエピソードが1つあります。僕が叔父貴に「『ペンの代わりに鉛筆を使う』と言いうのは英語で何と言うんですか」と聞いたら、「instead ofだよ」と。「すごい、instead ofって外国人に言えば通じるんだ」と衝撃的で。こんなふうに叔父貴に何でも聞いているうちに、英語への関心が高まっていきました。
大学は叔父貴と同じ大阪経済大学に進みました。特別な理由はなく、「国立は落ちてしまったし、すでに受かっている大経大は叔父貴も出た大学だからそこに進もうか」という気持ちでした。その大経大で、叔父貴と同じように僕もESSに入った。
戦後も20年の歳月が過ぎ、英語を話す文化とともに日本が経済発展していったという時代の空気もあってか、ESSは文化系で一番大きいサークルでした。説明会に行ったら、先輩が名前を呼ばれて「yes, sir」と答えているのがすごくかっこよく映り、すぐに入部しました。
■1つずつ語彙をたくわえてから議論する
そこからは学校の勉強はろくにせず、ESSにのめりこむ毎日。活動の1つに、英語でのディスカッションがありました。その準備のために、英字新聞から時事的な英単語を抜き出して覚えていくわけですよ。
たとえば、当時の日本は日米安保条約を結ぶべきか破棄すべきかで盛り上がっていたので、英字新聞からそれにまつわる単語を覚えていきました。「破棄」は「abolish」、「条約」は「treaty」のように、1つずつ語彙をたくわえてから議論する。英字新聞でインプットして討論でアウトプットするという、今思うと理想的な方法で英語が勉強できる環境でした。
ESSでは年に1回、英語劇の披露もしました。ある年、私は「イノック・アーデン」という作品の主役を演じたんです。1時間くらいの劇なので台本は分厚かったですが、全部覚えました。ピクニックに行くときの「This soup is mighty good」というセリフとかは、今でも体に染みついています。
1970年の大阪万博も、絶好の実践場でした。当時大学4回生だった僕は20回近くそこに通い、外国人に声をかけては英語で会話をしていました。アポロ12号が持ち帰った「月の石」などのパビリオンそっちのけで、海外からの観光客にどんどん声をかけてひたすら英語で話す。
よく覚えているのが、カナダ人から「なぜ日本の家は屋根がくっついているんだ」って聞かれたこと。カナダって広いから、屋根が隣とくっつきそうな日本の狭い住環境が物珍しく見えたのではないでしょうか。そういう異文化目線の質問って面白いでしょう。そんなふうに楽しみながら、実際に英語でコミュニケーションをとってみることで会話力を伸ばしていきました。実際に外国人と話すことが一番勉強になるんですよね。
■「翻訳はしましたけど自分でわかりません」
大学卒業後は、京都の機械メーカーに入社して貿易部に配属されました。話す・聞くが中心だったESS時代と打って変わり、最初の頃は特許や英文契約書の翻訳をしたり、海外から来る質問に英文タイプで回答したりしていました。
阪村機械製作所という世界的なねじメーカーの特許や契約書を翻訳する仕事は、紙1枚に一晩かかりましたね。翻訳しても、僕にねじの知識がないから、これで通じるのかどうかわからないんですよ。社長に「すみません、翻訳はしましたけど自分でわかりません」と言ったら、「あ、これで通じるから大丈夫」と言われほっとして。
2年目からはヨーロッパに駐在させていただき、通訳としてヨーロッパ中を回りました。ハンガリーで商談したときは、うちの技術者が日本語で喋るのを僕が英訳し、別の通訳がそれをドイツ語へ訳し、さらに別の通訳がハンガリー語に訳すという伝言ゲーム状態だったので、意思疎通には苦労しましたね。
でも一番苦労したのが、アメリカ出張での商談。そこでトラブルが起こり、めちゃくちゃ早口の英語でまくしたてられたんです。日本人が英語を学ぶときの速度とは全く違って、早いこと。「こんなに早く喋られたらわからん」と思いましたが、必死に聞き取り日本へ電話で報告しました。
■英語を学んだから、電子辞書が売れた
そうやってESSや貿易部で鍛えた英語力は、ジャパネットたかたを創業した後も意外な局面で役立ちました。リンカーン演説が収録された電子辞書をテレビで紹介したとき、20歳のときに丸々暗記したその演説を復唱してみたんです。そうしたら瞬く間に電話が殺到し、30分の放映で1億円分の売り上げになりました。20歳のときに覚えたリンカーンの演説が、どうして60過ぎに役に立つと思いますか。何があるかわからない世界だから、やったことは必ずどこかで報われるんですよね。
通訳をつけるという方法もありますが、企業のトップや現場のリーダーは、やっぱり英語をネイティブ並みに喋れる資質を持っていなければならないと思います。相手を理解するということに関して、言語の力はとても大きい。通訳ではどうしても微妙な表現の違いが埋められず、お互いの意思の7割くらいしか感じ取れないと思います。
英語を学ぶということは、ビジネス上役に立つということのほかに、ちょっと楽しい世界を広げていけるという側面もあると思うんです。英語を学んだら「ほかの言語もちょっとやってみたいな」と興味が広がっていく。それで、たとえばイタリアに行ったとき「Quale e` il piatto piu` speciale in questo ristorante?」(このレストランで一番おいしいものは?)とか、ドイツで「Ein bisschen billiger machen」(少しまけて)なんて喋れたら、世界中どこでも案内できますよね。
■英語を喋りたいという気持ちは今でも強い
数年前、ジャパネットで紹介する羽毛布団の撮影でポーランドに行き、打ち上げで酒場にて飲んでいたときのことです。「誰か歌え!」という声があがり、みんなの前で23歳のときに覚えたポーランド民謡「森へ行きましょう」を歌いました。「Szfa dzieweczka do laseczka do zielonego, do zielonego, do zielonego……」って。そうしたら場の空気が1つになって、拍手喝采。「なぜ日本人が、ポーランド語で歌えるんだ」と。
そんなふうに、語学というのは1つ学べば楽しみがどんどん広がって、人生を豊かにしてくれると思います。仕事という目的を持って勉強するのもいいですが、新しい世界を広げていこうという気持ちで学ぶとまた違ってくるのではないでしょうか。
真の意思疎通はネイティブ並みの語学力で行わないと実現しないと思っているので、英語を喋りたいという気持ちは今でも強いです。だから、数年後に機会があればホームステイをしたいですね。日本人がいるところだと何年経ってもうまくならないので、米国アーカンソー州の田舎あたりにふらっと行きたい。身元は隠してね(笑)。
○ 外国人観光客に対して、ひたすら英語で話しかける
× “ネイティブ”になる価値を理解せず勉強する
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ジャパネットたかた創業者
1948年、長崎県生まれ。大阪経済大学卒業、阪村機械製作所に入社。その後、家業の「カメラのたかた」に入社し、86年に独立しジャパネットたかたの前身となる「たかた」を創業。2015年に代表を退任。現在はサッカーJ2、V・ファーレン長崎社長。
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(ジャパネットたかた創業者 髙田 明 構成=万亀すぱえ 撮影=竹内さくら)
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