物産社長"英語試験落第"でも海外行けた訳
プレジデントオンライン / 2019年5月4日 11時15分
■入社前の英語試験で、まさかの落第点
三井物産では入社前に英語の試験があるんですが、私はしっかり落第しまして(笑)。1から9にランク分けされて、5以上じゃないと海外に行かせてもらえなかったのですが、私は下から3番目の7でした。受験英語で読み書きに関してはそれなりに自信があったものの、要するに耳が慣れていなかった。私らの時代は海外旅行もそんなに行きませんでしたし、外国との接点はほとんどありません。
入社してからは毎日英語のテープを聴いたり、英語学校にも通って外国人と話したりと一生懸命やりました。なんとか1年目で6、2年目で5になって、3年目に「もう海外に出られるぞ! どこでもいいから出してくれ!」と言ったら「まずは中国に行け」と。
普通は「修業生」という制度があって、1年半みっちりその国の言語を勉強することができるわけですが、私の場合は特殊で、3カ月しか与えられなかった。当時の上司に訳を訊いたら「別におまえを中国語のエキスパートにしたいわけじゃない。中国大陸へ行っても英語をしゃべれる人はいないから、動く、食べる、寝る、要するにお客さんのところへ行くまで自力でなんとかできるように勉強してこい」と。
しょうがないから朝から晩まで必死に中国語を覚え、3カ月たったころには広州から北京まで1週間卒業旅行をして、死なないで帰ってくることができました。
東京に戻ってからもよく出張で北京に行きましたが、どこに行ったって英語はほとんど通じないんですよね。
その後、今度はインドネシア担当になりましたが、彼らの英語は中国人よりは上手なものの、我々と似たようなものでした。
■発音やグラマーより「何を伝えるか」
私の英語は、当時は日本人よりも英語が苦手な人が多かったアジア人との会話が基礎となっています。徹底して実践してきたのは、ビジネスとして相手に何を伝えたいのかをストレートに伝えることと、イエスかノーかをはっきりさせること。
また、言葉そのものよりもどれだけ会話の引き出しを持っているかが重要です。それはビジネスのみならず、文化だとか、歴史だとか、2国間の関係だとか、食事でもいい。やっぱり好奇心旺盛に相手の国のことを徹底的に知っていれば、話題はいくらでもできるわけです。
商社パーソンにとって座持ちというのはとても大事で、相手を飽きさせない話題を提供し、相手が興味を示したら掘っていき、興味を示さなかったら違う話題に持っていくだけの弾をどれだけ持っているかです。単純に、つたない英語を興味もないのに聞いてくれる人なんかいないわけですから。
日本人のなかには発音とグラマーばかり気にする人も多いですが、つたない英語であっても大人の会話、ビジネスの会話ができるかどうか、「自分の知らないことをどう教えてくれるのか」という相手の好奇心を満たしてあげるほうが大事です。商社パーソンにとっての英語は、武器でもありますがあくまで道具、ツールです。
そのためにまずはやっぱり、自分の経験をいかに、極端に言うと面白おかしく相手に話せるかですね。これは反復練習していくしかないんです。いろんな場合でいろんな相手に小ネタを出しまくって、これはウケると思ったら、それをもう一回表現豊かにやってみるとかね。そのためには、当然ながらボキャブラリーが豊富じゃなきゃいけません。
また、アジアで英語を学んだ人が英語を使う上で一番気を付けたいのは語尾です。親しみを込めるように、語尾に「ネ」や「ラー」を付ける人がいっぱいいるんですよ。
例えばシンガポールなどにいると、シンガポールイングリッシュって「OKラー」とか言うんです。日本人の場合だと「OKね」とか。こういうのは最も駄目で、意識してでも英語の単語で完結させるというのをやらないと、何を言っているのかわからないと言われます。
■地理、歴史、文化、食べ物はマスト
今や英語圏以外の諸外国のほうが、日本に比べて英語レベルははるかに上がっています。彼らは高校なり大学なりの高等教育を英語できちっと受けていますから。我々が相対するような中国やインドネシアやブラジル、メキシコでもそうです。日本人は残念ながら、十分な英語教育を受けられていないんです。
一方で、特にロシアや中国といった国では、ロシア語、中国語ができることによってインサイダー化でき、中でのネットワークが広がるというのもあります。
当然ながら、そういう我々が重点国と考えている地域においては、社員を派遣してその国の言語を学ばせる「修業生」という制度としてもう何十年もやってきていますし、これからもずっと続けていきます。
彼らに期待しているのは言葉を習得するだけじゃなく、その国の人になること。要するに、その国の文化、歴史、食べ物、スポーツ、何から何まで語れるようになることです。
■自分で語れない人は会話に参加できない
コンテンツを身に付けないと、やっぱりローカルネットワークってできないんです。それを何代も何十年と続けてきていることが我々の人的資産だと思っていますし、それを通じて層的なビジネスを作り上げることができます。
我々は66カ国で事業をやっているので、日本はワン・オブ・66カントリーズにすぎないのです。私の立場から言えば、日本と同じように中国も語れなきゃいけないし、アメリカもヨーロッパも語れなきゃいけない。歴史に対する造詣は持っていて当然です。
日本の初等教育の最大の問題は、明治以降の歴史教育に力を入れていないところだと思います。歴史観についてだって、そのときに自分がどう思うかということを自分で語れない人は会話に参加できないですよ。だから、もう大変なんです。ビジネスから食事から、特にアメリカだとアメリカンフットボールと野球の状況は必ず押さえておかないと。相手によってはバスケットボールまで押さえておかなきゃいけませんから、好奇心旺盛じゃないと会話はできません。私はちゃんと2018年はアメフトの応援に行きました。
アメリカにはパスポートも持っていないアメリカ人が何千万人といて、その人たちがトランプ政権を支えている部分があります。日本人はややもすればそういうことに対して、いかにアメリカが内向きかということばかり言うんですけど、日本人の発信力の弱さや歴史観のなさは、日本がいかに内向きかということを象徴的に表しています。
私らはビジネスで勝負しているわけだけど、やっぱり人間的魅力というのがないと「ビジネスが終わったら、はいさようなら」では、関係は深まりません。だから、地理、歴史、文化、食べ物、この辺はマストですね。
○ 英語で語れる“引き出し”をたくさん持つ
× 発音や文法に強いこだわりを持ちすぎる
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三井物産社長
1960年、愛媛県生まれ。83年東京大学工学部卒業後、三井物産に入社。プロジェクト業務部長、経営企画部長、執行役員機械・輸送システム本部長を経て、2015年、社長に就任。
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(三井物産社長 安永 竜夫 構成=いつか床子 撮影=村上庄吾)
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