出口治明「70歳でも疲れないSNS活用術」
プレジデントオンライン / 2019年4月16日 15時15分
■SNSは本当は苦手です
僕がツイッターやフェイスブックを利用していると、周りの人からは「意外だ」とよくいわれます。たしかに僕はSNSのようなツールは、本来は苦手なタイプです。それでも現在は、ほぼ毎日SNSで何かしら情報を発信しています。数行の文章を投稿する、目にとまった記事のシェアをするなど、大体1日に3回くらいですね。
ツイッターやフェイスブックを利用するのは、大学に通勤するときなどの移動中がほとんどです。それも、電車やバスで座れなかったときに限ります。座れたら本を読むからです。
だから立ったままスマホを操作することになります。まずは仕事のメールに目を通し、必要ならすぐに返信して、それでもまだ時間が余ったらSNSを開く。あくまで隙間時間ですから、平均すると1日合わせて15分くらいでしょうか。それ以外にSNSを開くことはまずありません。
■他人の投稿はほぼ読まない
こんなことをいうと叱られるかもしれませんが、他人のSNSの投稿はほとんど読みません。というか読んでいる時間がないのです。僕にとってのSNSは、基本的に情報発信のツールなのです。現在、ツイッターのフォロワー数は約11万7000人、フェイスブックのフォロワー数は約1万2000人います。
連絡手段としてメッセンジャーを利用することもあります。最もやりとりが多いのは、僕が学長を務める立命館アジア太平洋大学(APU)の学生たちです。
学長室もいわゆるオープンドアの考え方で、学生の訪問はいつでも歓迎しています。それでも実際に訪ねてくるのは年に100組くらいなので、ツイッターなどでコミュニケーションをとるほうが圧倒的に多くなります。「この催しに来てください」「お会いしたいので、この日の都合はどうですか?」などのメッセージが、ダイレクトにどんどん送られてきます。
フォロワーの中には学内の教員や職員もいて、年齢は僕より若い人が大半です。
企業のトップの方は、実際にお会いすることはあってもSNSを利用する人はわずかなので、ほとんどつながっていません。もっとも、フェイスブックの友達申請は、すべて受け入れていたらすぐに上限の5000人に達し、新たな申請が受けられなくなってしまいましたが。
■義務づけられた1日3回のツイート
僕がSNSを使うようになったきっかけは、ライフネット生命を起業して3年ほどたった2010年頃です。20代の社員から「今日からツイッターをやってください」と指示されたのがきっかけでした。同じ金融業界の、銀行の頭取や生命保険会社、損害保険会社の社長を調べてみると、誰ひとりツイッターをやっていなかったようで、「出口さんがやれば差別化になる」というのがその理由でした。
SNSは苦手と渋っていたら、「出口さんはいつも『ライフネット生命は小さなベンチャー企業だ。大手と同じことをやっても負けるから、違うことをやれ』と言ってますよね。まさか有言不実行じゃないですよね」といわれてしまいました。反論のしようがなかったのでツイッターを始めることにしたのです。
当初、ツイートは1日3回以上というノルマを与えられました。最初は何をつぶやいたらいいのかわからず、部下に聞いたり友人のツイートを参考にしたり。まずはランチのことやその日の予定などからツイートし始めました。とにかく発信することが大事だったのです。
初めの2カ月ほどは、僕がちゃんとツイートしているかどうか、部下が毎日チェックしていました。サボると叱られるので、そのうち習慣になりました。そしてツイッターに慣れてくると、同じ理屈で今度はフェイスブックを始めるよう指示されました。といっても、発信する内容はほぼツイッターと同じで、出版社から献本があったらメッセンジャーでお礼を伝えるとか、イベントページで飲み会の出欠を回答するとか、そういう使い方が主です。
■ノートパソコンは絶対に持ち歩かない
スマホにはLINEやインスタグラムも入っています。ライフネット生命にいた頃は、LINEで秘書に連絡していました。インスタグラムは家族との連絡に使っています。仕事の連絡はメールが基本ですから、どちらも目的を限定して利用しています。
最近は電車のなかでノートパソコンを開いている人をよく見かけますね。でも僕は、ライフネット生命の頃から、一度もパソコンを持ち歩いたことはありません。生命保険会社の経営者は、ノートパソコンにも重要な情報が山ほど入っているからです。万が一落としたり盗まれたりしたら大ごと。どれだけ気をつけていても、事故や急性の病気で気を失うことだってありえます。
そうしたリスクを考えては、職場か自宅でしかパソコンは使っていません。第一、軽量化が進んだといってもまだまだ重いですし、簡単なことはスマホで代用できますから。
■マイルールがあればSNSに振り回されない
ツイッターとフェイスブックでは、いくつかのルールを決めて使っています。
まず、前述したように1日に最低3回ぐらいは投稿すること。次に自分が本当に思ったことを正直に発信すること。そしてコメントをくれた人には返信すること。明らかに悪意があると思われる人のみはスルーすることなどです。また、ツイッターの場合はアカウントをフォローしてくださったらできるだけフォロー返しをしていますし、フェイスブックの場合は友達申請が届いたら上限に達するまでは原則として受けるようにしていました。
「SNS疲れ」という言葉がありますが、受け身で使うのではなく、このようにいくつかのルールを決めて主体的に使えば、振りまわされることはなくなるでしょう。
初対面の人と会う前に、相手のフェイスブックやツイッターを必ずチェックする人がいるようです。たしかに便利かもしれませんが、僕は情報収集のためにSNSを見ることはまずありません。僕の場合は、個人の経歴よりも、会社概要をチェックする方がはるかに多いですね。
例えば有名企業のトップに会う前に、ウィキペディアで経歴などをざっと調べることはあります。しかし、実際に顔を合わせて話したほうが、SNSに書かれている内容を読むより、はるかに人柄がわかります。
ウェブのニュース記事も、大きな事件の速報くらいはたまに目を通すこともありますが、基本的には読みません。情報の仕入れ先は、新聞や本と決めているからです。
■最大の魅力は「一期一会のご縁」がつながること
SNSは苦手でしたが、そうしたマイルールさえ守っていれば、一期一会のご縁がつながるのが魅力だと気づきました。リアルの世界では接点がない人ともつながりが生まれます。
一つのツイートがきっかけで、ありがたい出会いに発展したことは多々あります。
ツイッターを始めてまもないころ、京都大学の友人が訪ねてきて、「自分の代わりに、イスラム史を教えて欲しい」と頼まれました。グローバルリテラシーという講座の中でイスラム史をやることになったが、もう一度イスラム史を整理するのが面倒なので、歴史オタクの僕に頼みたいということでした。
講義に行く当日、ツイッターで課せられた「一日最低3回」ノルマのネタにちょうどいいと思って、「今日は初めて母校の京大へ講義に行きます」とツイートしました。すると、フォロワーから「テーマはリスク・マネジメントですか、ベンチャー論ですか」と質問がきたので「イスラム史です」と答えたら、「聴きたいです」と返事がきました。
後日その見知らぬフォロワーの方が、実際に講演会をセッティングして、僕を講師として呼んでくれました。そして、イスラム史について講義すると、すごくウケました。「こんな面白い話は1回だけではもったいない」ということで、それからも年に3~4回ほど公民館などで歴史について講義するようになりました。その講演会はAPUの学長になる直前までつづけ、初期は数十人だった参加者が、最終的には100人以上になりました。
その講義には編集者が来られていました。そして講演が終ったあと、その編集者に「面白いから本にしましょう」と声をかけていただいたのです。おかげで『仕事に効く 教養としての「世界史」』という歴史の本を初めて出版することができたうえ、10万部以上売れるという予想外のうれしい結果となりました。
その本がきっかけで、他の出版社からも歴史の本の執筆を頼まれるようになり、僕はいつの間にか世界史に詳しい人ということになっていました。20代の部下が僕にツイッターを指示していなかったら、数々の出版社とのご縁もなかったことでしょう。
■リアルの世界でも人とのつながりを加速させる
他にもフェイスブックでは面白い出会いがいくつも生まれています。
シンガポールに出張したときに1日休みができたので、一人でご飯を食べるのも味気ないと思って、フェイスブックで一緒にランチを食べられる人を募りました。すると10人以上集まったのですが、そのうちもともとの知り合いは一人だけで、あとは知らない人ばかり。フェイスブックを見た人だけでなく、日本にいる友人から連絡をもらったという人もいました。おかげでたくさんの人とご飯を食べられ、知り合いもたくさん増えました。
3年くらい前には、フェイスブックで「出口さんの著書を読んでファンになりました。大阪に住んでいるのですが、僕と飲んでくれませんか」というメッセージをいただきました。
偶然にも翌日は大阪に泊まる予定があったのでOKしたら、相手は急遽、飲み会をセッティングしてくれました。それ以来仲良くなり、何度も飲み、APUにも訪ねてきてくれました。
僕にとってのSNSは、一期一会でさまざまな人と情報交換ができるツールであるばかりでなく、リアルの世界でも人とのつながりを広げてくれるすばらしいツールでもあります。
(立命館アジア太平洋大学学長 出口 治明 構成=Top Communication 撮影=大槻純一)
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