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元サッカー日本代表が大便を収集するワケ

プレジデントオンライン / 2019年4月19日 9時15分

AuB社長の鈴木啓太氏。(写真提供=AuB)

腸内細菌がスポーツ選手のパフォーマンスを大きく左右することがわかってきた。元サッカー日本代表の鈴木啓太さんは、腸内細菌を解析する会社を立ち上げ、26競技500人以上のアスリートから糞便サンプルを収集。アスリートの食事サポートを始めた。スポーツライターの酒井政人氏が、その最新成果をリポートする――。

■「塩こうじ」がスポーツ界で注目を集めているワケ

空前の「塩こうじ」ブームが起きたのは2011年。当時と比べると市場規模は縮小したものの、現在でも塩こうじを使ったレシピは料理サイトなどで盛んに紹介されている。実はその塩こうじ、意外な方面で進化を遂げている。

それに関連して紹介したいのが、元サッカー日本代表選手の鈴木啓太(元浦和レッズ)だ。彼が現役を引退したのは2015年のこと。熱狂的な地元ファンには有名だが、現在は実業家に転身し「AuB(オーブ)」という会社を立ち上げている。驚くことに、鈴木は社長として今、せっせと大便を集めているという。いったいどういうことか。

「塩こうじ」「鈴木啓太」「大便」。この3つがそろい、ある化学変化が起きている。

たとえば箱根駅伝の「山の神」として知られたプロランナー・神野大地(セルソース)も、この3つの要素の化学変化により、走りに磨きがかかり、2020年東京五輪のマラソン日本代表選考会となるMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の出場権をつかむことができた。

■「塩こうじ」「鈴木啓太」「大便」を結ぶ、点と線

プロランナーの神野大地選手。写真提供=AuB

化学変化の概要を詳しく解説していこう。まずは、冒頭で触れた「塩こうじ」だ。

塩こうじは食べ物のうま味を引き出し、肉などをやわらかくする働きがある。そのため、肉や魚、野菜にも使える万能調味料として人気が高い。ただし、最近は商品の形状が変わっている。それがみそ製造メーカー・ハナマルキが販売している「液体塩こうじ」だ。液体のため計量が簡単で、食材に染み込みやすく、焦げにくい、と利便性が格段に向上した。

「液体塩こうじ」の販売数は右肩上がりで伸びており、タイに専用工場を建設しているほどだ。ハナマルキの戦略はしたたかで、すでに製造特許を取得(日本、米国、台湾)。他メーカーがまねしにくい状況を作り上げている。

■元サッカー日本代表が500人以上の選手の「糞便」を収集済

次は、鈴木啓太が代表取締役社長を務めるAuBについて。鈴木はすでに26競技500人以上のアスリートから「糞便サンプル」を収集しており、解析を進めている。

「血液検査、尿検査、体組成だけでなく、これからは『便』が新たな(アスリートなどのの)コンディショニングの方法に加わってくるのではと思っています」(鈴木)

腸内には100億~500億兆以上の細菌がおり、その重さは1kg~1.5kg。腸内細菌は1000種類以上あり、多様性が高いほど健康だといわれている。アスリートは比較的、多様性が高い傾向があるが、個人差は大きい。

鈴木によると、たとえば筋肉をつけたいという課題を持っている選手は、腸内細菌の多様性が低い傾向であることがわかった。また選手や競技によって腸内細菌の種類・数の特徴が異なり、AuBでは、大便(腸内細菌)を調べるだけで、サッカー選手かどうかが92%の確率でわかるようになったという。

「ほぼ同じ遺伝子を持っている双子の兄弟でも、腸内細菌が異なるために、体形が違うことがあります。太りやすい/太りにくい、筋肉がつきやすい/つきにくい、ケガが治りやすい/治りにくい。そういうことも腸内細菌が大きく影響しています。また、腸内細菌の役割には、消化・吸収・排便促進、免疫機能の調整、感染予防、短鎖脂肪酸の産生、幸せホルモンであるセロトニンの産生などがあります。口に入るものに気をつけている人は多いですけど、出たものを気にしている人は多くありません」(鈴木)

左から鈴木啓太氏、神野大地選手、ハナマルキ取締役マーケティング部長の平田伸行さん。(撮影=酒井政人)

■液体塩こうじを食べた慶大競走部員の体に起きた変化

そして、ハナマルキ、AuB、慶應義塾大学SFC研究所は共同で、「液体塩こうじ・アスリート腸内環境向上プロジェクト」を昨年3月に立ち上げた。箱根駅伝出場を目指している慶應義塾大学競争部の部員を被験者として、腸内環境への効果およびスポーツパフォーマンスへの効果を検証するものだ。

液体塩こうじの原材料は米、塩、酒精のみで、着色料、保存料などの化学調味料は一切使用されていない。含まれているこうじ菌にはアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ペクチナーゼなど30種類以上の酵素が含まれている。

それがランナーにどんな影響を及ぼすのか。

3カ月の実験で、毎日の食事に液体塩こうじを取り入れたグループは乳酸産生菌が57%も増加するなど、免疫力UP、筋肉をつくるサポート、ストレス緩和に貢献する短鎖脂肪酸を作る腸内細菌が増加した。

食事の前後で腸内を観察すると、水やミネラルを吸収するためのエネルギー源になる腸内細菌も増えていたという。簡単にいうと、腸内細菌をターゲットにした食生活を送ることで、アスリートとして活躍できる腸内環境に近づいたわけだ。

■「便通がいいんです。こんくらい(40cm)の便が出るんです」

AuBはコニカミノルタ陸上競技部をサポートしていることもあり、2018年4月末まで所属していた神野大地ともつながりがある。AuBの調査によると、多様性(種類と数)指数は、一般人平均が129.6、駅伝選手平均が150.38。そのなかで鈴木は193.0、神野は195.1とともに高い数値を誇っている。

そして、ふたりにはある共通点があった。それは免疫力が極めて高いことだ。

鈴木はアテネ五輪の最終予選をUAE(アラブ首長国連邦)で戦ったとき、選手23人中18人が現地で下痢になったが、何ともなかったという。神野も3度(トータル3カ月間)のケニア合宿を行ったが、他の日本人選手が下痢で苦しむなかで、ひとりだけ無事だった。これも腸内細菌の多様性が優れていることが要因だと考えられる。

※イラストはイメージです(写真=iStock.com/Greeek)

プロランナーとなった神野は栄養士を雇い、液体塩こうじを使った料理も積極的に取り入れている。3月25日に行われた「液体塩こうじ・腸内環境向上セミナー」後の囲み取材では、マジメな顔で、「僕は便通がすごくいいんです。1日3~4回出る。こんくらい(40cmほど)の便が出るんですよ。盛ってなくて、これです(笑)」と話した。悪天候の中、2時間11分05秒の8位(日本人4位)に食い込んだ、今年3月の「東京マラソン2019」でも便の状態が良かったという。

「調子がいいときはきれいな便しか出ないですね。便で調子を見るというのはアリだと思います。栄養士さんが作ってくれたバランスのとれた食事をとると便もいいですけど、会食があったりするときは、やっぱり良くないですから。レースで結果を残すには、食事も大切。走る練習だけ頑張っていても、結果は出ないと思います」(神野)

■大便サンプルがもっと集まり研究が進めばスポーツ界は大きく進化

腸内環境を改善するには、バランスのとれた食事、適度な運動、十分な睡眠が重要で、腸内細菌を増やすには、みそ、納豆、チーズ、ヨーグルト、漬物、キムチなど発酵食品を積極的に摂取することが有効になる。

ハナマルキは今後、液体塩こうじを「スポーツ分野」で広めていきたい考えを持っている。

日本には発酵食品が多く、腸内細菌の多様性をつくるという意味では恵まれた環境といえるだろう。大便は自分からの“お便り”だ。液体塩こうじレシピが広まり、AuBの研究がさらに進めば、日本のスポーツ界が大きく進化するかもしれない。

(スポーツライター 酒井 政人 写真提供=AuB イラスト=iStock.com)

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