アップルの未来がウォッチにある3大根拠
プレジデントオンライン / 2019年4月16日 15時15分
■iPhoneは4年前から頭打ちになっていた
2019年1月に米アップルが売上高予想を下方修正した「アップルショック」。主原因はiPhoneの販売不振だった。
その後は「iPhoneは頭打ちだ」という声が世間に流れ、経済界は揺れている。背景には米中貿易戦争や中国経済の減速、世界的なスマホ市場の飽和感といった外的要因もあるが、それだけではない。実はすでにiPhoneは2015年にピークを迎えていたのだ。
過去4年を振り返れば、ティム・クックCEOのとった高価格戦略によって販売金額ベースで成長を維持していたが、販売台数でみると頭打ちになっていたことがわかる。2015年度に2億3122万台だったiPhoneの販売台数は、2018年度には2億1772万台に落ち込んでいた(図表参照)。
一方、競合のファーウェイなど中国スマホ勢はシェアを伸ばしている。このままではiPhoneはジリ貧となりかねない。
気の早い人々はすでにiPhoneに見切りをつけ、ポストiPhoneの議論を始めている。
■アップルウォッチが命運をにぎる3つの理由
アップルの2019年第一四半期の業績を見ると、アプリ販売や決済代行、製品保証などを提供する「サービス部門」の売り上げが100億ドル以上になり、Mac製品を追い越していることがわかる。これは同決算期では前年比19%増であり、2018年度通年でみても前年比24%と高い成長率を誇っている。
そのため、アナリストたちなどからは「ポストiPhoneはサービス部門だ」という声も上がっている。しかし、これらの売り上げは単体で成り立つものではない。
私は、ポストiPhoneはアップルウォッチだと考えている。その理由は3つある。
1つ目は、アップルの生命線は、ハード製品を基軸プラットフォームとしたビジネス構造にある。いわるゆ「エコシステム」だ。その上で、前述のサービス部門が稼いでいる。だからこそ、ポストiPhoneはサービス部門ではなく、ハード製品でなければならない。
2つ目は、ハード端末は常にウエアラブル化する宿命を背負っていることだ。ウエアラブル化とは、より身に着けやすくなることだ。iPhoneは便利だが、使うとき片手がふさがってしまう。しかし、アップルウォッチなら両手が空く。両手が使えれば生活様式やビジネスシーンを広範囲に変革する可能性が出てくる。製造現場の作業員や介護士などいくつでも利用シーンが頭に浮かんでくる。
3つ目は、新たなユーザー層の獲得だ。iPhoneはデジタル世代を中心に伸びてきたが、スマホ市場そのものが頭打ち状況に陥り、デジタル世代に行きわたった感がある。iPadも中核はやはりデジタル世代だ。しかし、アップルウォッチは非デジタル世代を取り込む可能性を秘めている。
■ヘルスケア分野で非デジタル世代を取り込む
その一つが心臓病患者や高齢者を含むヘルスケア分野だ。アップルウォッチには「心拍センサー」という革新技術が搭載されている。
振り返れば2015年に登場した時のアップルウォッチは、フィットネスシーンでの利用にばかりに注目が集まり、ポストiPhoneと呼ぶには期待外れだった。
しかし、2017年にアップルウォッチを着けていた米国人男性が、異常に高い心拍数を検知してアラートを出したことで「命を救う」というニュースが報道されると、状況は一変した。さらに、2018年には米国人女性の命をまたしても救った。
これらのニュースにより、ハイテクと無関係だった人たちが関心を一気に強めていった。
■医師もびっくりの“心電図計”を搭載
そうして2018年秋には、「シリーズ4」にヘルスケア分野の決定打ともいえる“心電図計”が搭載された。この心電図計はFDA(米国食品医薬品局)が承認したことで世間の注目が高まった。
これがどう生活に関わっていくのか。ふつうは病院に行って心臓の検査を受けても、「異常はありません」と言われて帰ってくるケースが多い。だが、アップルウォッチの利用者は心拍の異変を感じたとき、すぐに心電図計で測定できるので、そのデータが病院での診断の手助けとなる。
実際、アップルウォッチの使用者は以下のような体験をした。
ところが別の日の朝、自宅でアップルウォッチの心電図アプリを起動すると警告音が鳴る。それで病院に行ったものの駐車場がいっぱいで待合室も混雑していた。それでも、アップルウォッチで心房細動が検出されたと病院側に説明すると、即検査になった。
結局、医者は「あなたは心房細動だ」と診断を下した。そして、「アップルウォッチがあなたの人生を救ってくれた」と患者に告げたのだった。46歳の男性はその時まで心房細動がどんなものかよく知らなかったという。
さらに、「転倒検出機能」は高齢者とその家族にとってセーフティネットとなり得るものだ。内蔵したジャイロスコープと加速度センサーの性能がアップしたことで、着用者の手首の軌道を分析し、ユーザーが転倒したことを検知し、1分間以上着用者が動かなかった場合は、緊急連絡先に自動で連絡を入れてくれる。
■ジョブズの感じた医療への違和感
ところで、なぜアップルウォッチは誕生したのか。そのきっかけにはジョブズが2003年に膵臓ガンと診断されたことが大きく関わっている。
入院してさまざまな検査を受けたジョブズは病院の非合理なシステムや対応に失望した。とくに憤慨したのは病院内のヘルスケアのシステムが共有化されずバラバラだったことだ。ガンの専門医や肝臓の専門医、痛みを和らげる専門家に栄養士、血液の専門医など、専門別のスペシャリストが入れ替わり立ち替わりジョブズを診断。検査結果を見てそれぞれ個別に対応していたことが、ジョブズは我慢できなかった。
患者のデータが、患者と医者など医療提供者との間できちんと連携されることが重要だと彼が痛感したのは当然だろう。
もともとジョブズは「デジタル・ハブ」という考えを2001年に打ち出していた。それは、我々の回りにあふれるデジタルカメラやDVDプレーヤーなど、多くのデジタル機器の中心(ハブ)となるのがパソコンでありMacだというものだ。このデジタル・ハブ宣言の数カ月後にiPodが登場し、アップルは本物の成功へと飛翔していった。
アップルウォッチが、我々の周りのさまざまなメディカル機器と患者と利用者をつなぐメディカル・ハブとして活躍する。その日が来るのはそう遠くないかもしれない。
■妥協しないデザインチームとの熾烈な戦い
アップルの製品開発力の評価は高いが、他社とひときわ異なるポイントは「デザイン性の重視」にある。そのため、デザインチームの発言力は絶対的に強い。
アップルウォッチの開発でもそれは同じだ。ヘルスケア機能で主軸となる心拍数センサーの開発では、デザインチームと開発チームのバトルが繰り広げられた。
開発チームは心拍数を手首の内側で測定しようと「腕時計のバンドリストに心拍センサーを配置する」と開発会議で提案した。医学的に見てもこれは常識的な選択であった。
しかしこの案に対し、ジョブズが厚い信頼を置いていたジョナサン・アイブ率いるデザインチームはNOを突き付けた。「バンドリストは交換可能にしたいから、そこに心拍センサーは付けられない」とデザイン面で拒絶されたら、別の案を考え出すほかなかった。
懸命に知恵をしぼった開発チームは、思い切って手首の外側にセンサーをつけることにした。ただこの場合は、「リストバンドをきつく締めること」という条件をつけ、その点を会議で主張した時、デザインチームはまたもNOを突き付けたのだった。理由は「腕時計をそんなふうにつける人はいない」「みんな、腕時計は手首にかなり緩く付けている」という利用者の視点に立ってのことだった。
開発チームとデザインチームのバトルで生み出された心拍数センサーの精度の信頼性は、カリフォルニア大学やスタンフォード大学などがお墨付きを与えたほどだ。
■最終形はまだまだこれからだ
これからのアップルウォッチの未来はどうか。
いま、全米では推定3000万人が糖尿病に苦しんでいるといわれる。糖尿病患者にとって血糖値を測定するには針で血液を採取する侵襲性(生体を傷つける)の方法しか現在はない。だがその方法は痛みを伴い、患者への負担がかかる。しかも、使い捨ての器具の消費という問題も抱えている。
そこでアップルでは、血糖値を測定する際に針を使わず、光センサーで体を傷つけない「非侵襲性」技術の開発に取り組んでいる。うまくいけば、次世代アップルウォッチに搭載されるだろう。
天国のジョブズが今のアップルウォッチを見たら何と言うだろう? 褒めるだろうか、けなすだろうか。あのジョブズが簡単にほめるとは思わないが……。
いずれにしても、アップルウォッチはまだ最終形ではないことは確かだ。だからこそ大いなる可能性がある。
ティム・クックはアップルウォッチを世に出した時に取材でこう語っていた。
「アップルが世に送り出した革新的な製品のいずれも、発売当初はヒットするとは考えられていなかったように思う。人々がその価値に気付くのは、時が経って過去を振り返ったときなんだ。アップルウォッチの場合も同じような展開になるかもしれないよ」
(経営コンサルタント 竹内 一正 写真=AFP/時事通信フォト)
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