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なぜ日本はWTO裁決で韓国に負けたのか

プレジデントオンライン / 2019年4月16日 15時15分

世界貿易機関(WTO)最終審で日本が逆転敗訴し、閣議後に記者会見する吉川貴盛農林水産相=2019年4月12日、東京・霞が関の同省(写真=時事通信フォト)

■「勝訴できる」と楽観していたのではないか

韓国が原発事故後から福島など8県の水産物の輸入を禁止している問題で、紛争を処理する世界貿易機関(WTO)が4月11日、上級委員会(第2審)で小委員会(第1審)判断を「取り消す」裁決を下した、と発表した。第1審は韓国に是正を求めていた。日本の逆転敗訴である。

予想外の結果で驚かされた。WTOの判断はおかしいと思う。だが、同時に日本の置かれている立場はそんなに甘くはないとも感じた。

日本との関係が悪化しているなか、韓国は水面下で必死に動いたのだろう。その間、安倍政権は何をやっていたのか。勝訴できると楽観していたのではないか。安倍政権はこれまでの対応を深く反省し、韓国に敗れた原因を慎重に探って今後に生かしてほしい。

東日本大地震から8年という歳月が流れたいまも、韓国など海外の消費者は、日本産の食品が原発事故による放射線で汚染されていると誤解している。中国や台湾、アメリカなど23の国や地域では、日本産食品に対して輸入規制が続いている。安倍政権はWTOの裁決で勝訴し、各国に対して規制緩和を強く求める方針だったが、その作戦はむなしく散ってしまった。

想定外の結果に外務省は急遽、今後の対応を検討し始めた。自国の利益を第一に考えて相手国と交渉し、その交渉姿勢の正当性を国際社会にアピールし続けるという外交の基本を再確認すべきである。

■1審は韓国に是正求める日本勝訴だった

2013年9月からの韓国による日本の水産物の輸入全面禁止に対し、日本は「韓国の規制は科学的でなく、自由貿易を阻害する」として2015年5月にWTOに提訴した。なかでも韓国で人気のあるスケトウダラやマサバなど28品目の魚類の禁輸措置解除を強く求めた。

WTOの審判は2審制だ。昨年2月の1審(小委員会)の裁決は、日本の勝訴だった。WTOは「輸入禁止は必要以上に貿易を制限している」として韓国側に是正を求めた。

ところが、昨年4月に韓国がこの1審の判断を不服として上訴した。その裁決が今年4月11日の2審の上級委員会による1審判断の破棄だった。

■常任メンバー7人のうち4人が空席の異常事態

今回、日本が逆転敗訴したWTO2審裁決は韓国の禁輸措置を「不当だ」と判断した1審裁決を取り消しながら、韓国のこの禁輸措置がWTOの規則に適合していることを認めていない。

日本と韓国の双方にいい顔をする、曖昧さの残る裁決だった。

その結果、韓国政府は「WTOの2審裁決を高く評価する」と韓国の勝訴と高く評価し、今後も日本の水産物の禁輸を続ける姿勢を示した。

これに対し、日本政府は「1審の事実認定は変わらない」としているが、1審裁決が破棄された以上、日本の逆転敗訴ではことに変わりはない。

WTOの第2審が第1審裁決を覆すのは異例である。なぜ、WTOの第2審裁決は、第1審裁決を取り消し、しかも曖昧な判断を下したのだろうか。

第2審の上級委員会の常任メンバー7人のうち4人が空席という異常事態が続いているからだ。委員が裁決に最低限必要な3人しかいないのである。国際紛争を裁く唯一の国際機関であるWTOが、機能不全を起こしている。

■相手はどこまでも敵意を示す韓国政府だ

今回の相手は日本に反旗を翻す韓国である。

日本固有の領土である竹島を不法に占拠し、一方的な解釈による慰安婦問題を世界各国に広めてきた。最近では自衛隊機への火器管制レーダーの照射事件や元徴用工の損害賠償訴訟などを引き起こしている。

とことん日本に敵意を示す。どんな手を使っても日本に勝とうとする。それが韓国政府の実態なのかもしれない。

沙鴎一歩の稚拙な想像にすぎないが、WTOに対しても機能不全に巧みにつけ込んで自国に有利なような裁決を下すよう働きかけた可能性があるかもしれない。

■「到底、納得できない乱暴な判断である」

この連載では新聞各紙の社説を読み比べている。相手が韓国となると、真っ先に“牙”をむくのが、産経新聞の社説(主張)だ。その産経社説(4月13日付)は冒頭から「到底、納得できない乱暴な判断である」と書く。見出しも「韓国の禁輸で敗訴 何のためのWTOなのか」とWTOに手厳しい。

「福島第1原発事故を理由とする韓国の禁輸は必要以上に貿易制限的で、恣意的または不当な差別だとしたパネルの判断に瑕疵があると断じた。さりとて、日本が主張した科学的な安全性が覆ったわけではない。韓国の禁輸がWTO協定に整合的と認定したわけでもなく、釈然としない」

「パネル」とはWTOの第1審の紛争処理小委員会のことであるが、産経社説は1審の判断を取り消した2審裁決を「釈然としない」と批判する。沙鴎一歩の見解と同じである。

さらに産経社説は「詰まるところ、ルール違反かどうかを明確にしないまま、ただ訴えを退けただけといえないか。これでは一体、何のためのWTOかと疑念を抱かざるを得ない」と解説しながらWTOを批判する。実に分かりやすい社説である。

■水産物の安全性が否定されたわけではない

産経社説はこうも主張する。

「日本は科学的根拠に基づいて措置の撤廃を求め続けるべきだ。韓国に求める2国間協議で断固たる姿勢を貫いてもらいたい」
「今回の判断で、水産物の安全性が否定されたわけではない。これをきっかけに日本の水産物の悪評が国内外で広がるとしたら、それは誤りである」

「科学的根拠」「水産物の安全性」。いずれもその通りである。今後の韓国との2国間協議こそ、日本外交の腕の見せどころだ。

それでも懸念されるのが風評被害である。産経社説は「誤りである」と一蹴するが、問題はそんなに単純ではない。どうしたら国内で無用な風評被害が出ないかを、新聞社の社説として提言すべきだ。その提言に欠けることを考えると、産経社説には満点はあげられない。

産経社説は「日本政府の対応も十分だったのか。パネルでの勝訴に安堵し、上級委でも勝てると楽観的にみていたのなら猛省すべきだ」と主張する。ここは沙鴎一歩の意見と同じだ。

■WTO改革の必要性を再認識させるもの

次にWTOの機能不全の問題についても産経社説はこう指摘している。

「かねて、トランプ米政権がWTOによる紛争処理の実効性に強い疑問を呈してきた。今回の判断はWTO改革の必要性を再認識させるものでもある。教訓を生かして改革につなげる。日本はそのための努力も怠ってはならない」

トランプ大統領は貿易ルールを守らない、中国に対するWTOの対応を批判し、加盟国として上級委員会メンバーの任命に反対してきた。その結果が上級委員会メンバーの空席なのである。

産経社説が指摘するように「WTO改革」が必要だ。

■韓国とはすきを見せずに交渉するしかない

4月13日付の毎日新聞の社説はまず、こう主張する。

「日本政府には『敗訴は予想外』との受け止めが多いが、対応に問題はなかったか。検証が必要だろう」

やはり安倍政権はこれまでの対応をきちんと検証する必要がある。十分な検証がなされなければ、これから始まる韓国との2国間協議も失敗する。

毎日社説は続けて指摘していく。

「上級委員会が1審で問題視したのは手続きの誤りだった。韓国側は魚類が生息する水域の環境まで含めて考慮すべきだと主張したが、十分に議論されなかったという」
「『日本の水産物は科学的に安全』という1審の事実認定は上級委員会も変えていない。日本の検査は国際基準より厳しく、基準値以上の放射性物質は検出されていない」
「日本政府は今後、輸入規制を巡り韓国などと個別に協議する方針だ。その際、必要なのは安全性をより丁寧に説明していくことである」

冷静で丁寧な説明こそが、韓国を説得させるための武器だと思う。2国間協議で韓国は手練手管を使って日本の主張を封じ込めようとしてくるはずだ。日本は丁寧に言うべきところを言って、あらがう韓国を説得していくべきである。その際、大切なのはすきを見せないことである。

■韓国からの訪日客は昨年、過去最高を更新

後半で毎日社説はこう指摘する。

「韓国が神経質になるのは、日本の水産物に関する情報が不足している面もあるのではないか」
「消費者への働きかけも重要だ。韓国からの訪日客は昨年、過去最高を更新した。日本の食文化への関心も高い。安全性に理解が深まれば、インターネットで評判が広がる効果も期待できる。説得力を増すには日本国内の風評被害防止も不可欠だ」

その通りだろう。今回の逆転敗訴は、韓国に日本の食文化の素晴らしさを示す絶好のチャンスと受け止めるべきだと思う。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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