メジャーが注目する"岩手と剛速球"の秘密

プレジデントオンライン / 2019年4月18日 9時15分

作新学院との練習試合で、力投する大船渡の佐々木朗希投手=2019年3月31日、栃木・矢板運動公園野球場(写真=時事通信フォト)

岩手県・大船渡高校の佐々木朗希投手が日本人歴代2位の球速163キロを記録し、「令和の怪物」として話題になっている。ここで注目したい事実がある。歴代1位の165キロの大谷翔平も、158キロの記録をもっている菊池雄星も、岩手県出身なのだ。岩手が剛速球投手の名産地になる理由とは――。

■岩手の剛速球投手、大谷翔平、菊池雄星、そして佐々木朗希

野球界で今、熱い視線を集めているのが岩手県だ。

花巻東高から、二刀流の大谷翔平(24歳、カルフォルニア・エンジェルス)、菊池雄星(27歳、シアトル・マリナーズ)とたて続けにメジャーリーガーが生まれたうえに、今度は佐々木朗希という「怪物」が現れた。

佐々木は岩手県立大船渡高の3年生。まだ甲子園出場経験はないが、剛速球を投げる佐々木の存在は野球関係者に広く知られており、U-18日本代表に昨年から選ばれている。そして今年4月6日に、奈良県で行われた代表合宿の紅白戦に登板した佐々木は高校最速となる163キロを記録したのだ。

日本人投手の最速記録はエンジェルズの大谷が以前、日本ハムファイターズで投げていた2016年10月に出した165キロだ。マリナーズの菊池は日本人左腕投手史上最速158キロの記録を持っている。なおメジャー最速=人類最速は、アロルディス・チャップマン(ニューヨーク・ヤンキース)が2010年に記録した169キロである。

佐々木はプロ野球でも歴代2位にランクされるスピードボールを高校生にして投げてしまったわけで、そのとんでもない事態に現場は騒然となった。

■メジャー球団のスカウト騒然「Iwateはすごいところだ」

プロ野球各球団のスカウトやメディア関係者が佐々木を絶賛したのは言うまでもないが、それは日本国内にとどまらなかった。佐々木の評判は米メジャーリーグにも届いており、合宿にはメジャー数球団のスカウトたちも視察に来ていたのだ。

そして彼らの関心は岩手県に向かったという。

「大谷が出て、菊池が出て、今度は佐々木か。彼らを輩出した日本の岩手という土地はすごいところだ」と、まるで金脈鉱山を見つけたように「Iwate」を探究しようとする人が出てきたというのだ。

確かに北米+中米という広大なエリアから好素材を探し出す苦労を味わっているメジャーのスカウトから見れば、岩手という限られた地域からこうもたて続けに好投手が出ること自体驚きだ。興味をそそられるに違いない。気候や風土、選手の育成環境などを探究したくなるのも当然だろう。

■岩手を含む東北地方は日本屈指の「大物投手」の宝庫

ただ、岩手は彼らが思うほど好投手の「名産地」ではない。そもそも菊池以前に岩手から日本野球史に名を残すような大投手は出ていないのだ。

※画像はイメージです(画像=iStock.com/gyro)

それでも彼らは「昔はともかく今は名産地になったのだ」と言うかもしれない。しかし、その要因はとくに見当たらない。岩手の中学・高校野球関係者が好素材を発掘し育成するキャンペーンを行っているとか、どんな凡人投手をも理想的な投球フォームに仕上げるコーチの名人がいるとかいった事実があれば別だが、そうした話は聞かない。短期間で前出の3人の好投手が出現したのは、たまたまそういう流れが岩手に来たというしかない。

とはいえ、対象エリアを東北全域に拡げれば、好投手の名産地といってもいいのではないか。

まず、剛速球タイプの投手が結構出ていること。最近では昨年夏の甲子園を沸かせた秋田・金足農の吉田輝星投手(日本ハム)がいる。吉田は最速152キロの速球を武器に準決勝まで投げ抜いた。

また、日本人で始めて160キロ超の球速を記録した佐藤由規は宮城出身だ。仙台育英高時代に157キロ、ヤクルト入団後の2010年には161キロを記録(プロでの登録名は「由規」)。この球速は今も歴代4位タイだ。その後、右肩の故障に苦しみ、現在は東北楽天と育成契約し、復活を期している。

■「大魔神」佐々木主浩は宮城、通算284勝の山田久志は秋田

さらにすでに現役引退した東北出身の選手にも剛球タイプの大投手がいる。

代表格は、横浜ベイスターズで抑えの切り札として活躍し、メジャーでも好成績を残した「大魔神」こと佐々木主浩も宮城出身(東北高)。フォークを決め球にしたが、これが効いたのは150キロを超えるストレートがあったからだ。

剛速球タイプ以外でも好投手は東北から数多く輩出されている。古くは皆川睦雄氏。山形・米沢高から1954年に南海ホークスに入団。アンダースローの技巧派で南海の黄金時代を支えた。通算221勝、最後のシーズン30勝を記録した投手でもある。

青森出身では三沢高のエースとして1968~69年に甲子園のヒーローになった太田幸司氏がいる。高卒ドラフト1位で入団した近鉄バファローズなどプロでは通算58勝にとどまったが、高校時代からその存在感は光っていた。

秋田出身には通算284勝をあげ、プロ野球史上最高のサブマリン(下手投げ)といわれた山田久志氏(能代高―阪急ブレーブス)がいるし、近鉄で活躍したサウスポー村田辰美氏(六郷高)、福岡ソフトバンクホークスのエース格だった摂津正氏(秋田経法大付)、現役ではヤクルトスワローズの左のエースとして163勝をあげている石川雅規がいる。

福島からは大洋ホエールズのエースだった遠藤一彦氏(学法石川)が出ている。通算134勝、クローザーとしても58セーブを記録した頼れる投手だった。

そして再び宮城。大洋・横浜のエースを務め、メジャーリーグでも5球団でいい働きをした斎藤隆氏(東北高)、現役では西武ライオンズと東北楽天イーグルスでエースとしての活躍を見せている岸孝之(名取北高)がいる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Matrosovv)

■野球レベルが比較的低いからこそ、剛速球投手が生まれる

東北6県の高校は甲子園では春も夏も一度も優勝していない。最近では全国から好素材をスカウトし強化に努める私立校が増え(※)、レベルは上がってきているが、データで見れば野球後進地域といわざるを得ないだろう。にもかかわらず、これだけの好投手が出ているのだ。

※現シカゴ・カブスのダルビッシュ有は中学まで大阪だったが、高校は宮城の東北高校に進学。また野手では、兵庫県伊丹市出身の読売ジャイアンツの坂本勇人は青森の光星学院高に進学した。

もっとも好投手はレベルがさほど高くないところでも生み出すことは可能だ。

少年たちにキャッチボールをさせると、他の子とは比べものにならないほど威力のあるボールを投げる子が現れることがある。先天的に地肩が強く、強靱な下半身を持ち、なおかつ全身の筋肉、そして肩、ヒジ、手首を含めた関節を連動させてボールに力を伝えるセンスを持つ投手向きの素材だ。育てれば、彼のいるチームが強くなるのは確実で、投手を育てることに定評がある指導者に預けるわけだ。

一般的に野球の「打撃」や「守備」は、自分のほうにやって来るボールにどう対応するかのリアクションの技術が重要になる。ということは、野球レベルの高い地域やチームで試合経験を数多く重ねることが上達の条件だ。一方、「投球」はそうした経験も大事だが、何より打者をねじふせる威力あるボールを投げ込めるかどうかがいい投手の条件となる。

岩手を含む東北の野球レベルは、他地域に比べやや劣るといわれている。だが、東北は「野球の勝敗は、投手の出来で決まる」というシンプルな法則が生きており、投手向きの好素材の人材を大切に育て、大成させようというカルチャーがある。そうした土壌ゆえに、大谷や菊池、そして佐々木が生まれたのではないだろうか。

■チームがあまり強くないから連戦連投による肩の消耗が少ない

加えて東北ならではの特性もある。

東北の冬は厳しい。日本海側は雪で覆われるし、太平洋側だって寒くてまともな練習はできないだろう。そういう時期は走り込みをするしかなく、それによって強い下半身と精神力が養われる。より球威あるボールと粘りの投球を支える強い気持ちが獲得できるのだ。

さらに東北では、夏の甲子園の県予選などで、投手の生命線である肩の酷使が避けられる傾向にあることも「大器」を量産する背景にある。先ほど、強化のために他県から野球留学の生徒を受け入れる私立校が多くなっていると書いたが、東北の場合、それは各県2~3校。そうした「強いチーム」の打者相手には全力投球が求められるが、それ以外のチームには余力を残して勝てるケースもあり、省エネ投球ができる。

昨年夏の甲子園の金足農業はチームが勢いに乗って決勝まで勝ち上がったため、吉田投手は限界近くまで投げざるを得なかった。だが、本来なら東北勢は甲子園の1、2回戦で負けることが多く、肩の酷使は避けられる。そう考えれば、むしろレベルが比較的低い東北だからこそ、のちに大成する好投手が出やすいといっていいかもしれない。

■「令和の怪物」佐々木朗希の今後はどうなるのか?

となると、気になるのが163キロを出した佐々木朗希投手がプレーする大船渡高の動向だ。

ファンは甲子園での佐々木の投球を見たいはずだ。出場が決まれば、大いに盛り上がるだろう。だが、彼の将来を考えた時、酷使はさけてもらいたいという思いもある。

今年の岩手の甲子園県予選はどうなるのか。佐々木投手がどんな投球をするか含め、目が離せない。

(ライター 相沢 光一 写真=時事通信フォト イラスト=iStock.com 写真=iStock.com)

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