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がん患者に"言ってはいけない"NGワード

プレジデントオンライン / 2019年4月26日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kieferpix)

桜田義孝五輪相がついに辞任した。辞任の直接の理由ではないが、今年2月、競泳の池江璃花子選手が白血病を公表したときには「がっかりしている」とも述べていた。「がんになった」と打ち明けられたら、どう答えればいいのか。37歳のときに乳がんと診断され、現在はがん患者の就労を支援している桜井なおみ氏が、自らの経験から語る――。

※本稿は、桜井なおみ『あのひとががんになったら「通院治療」時代のつながり方』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

■およそ2人に1人が「がん」になる

一生のうちにがんになる確率は、現在「2人に1人」と言われています。

国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(更新・確認日:2019年1月21日)の推計によれば、新たに「がん」と診断された人は、2014年の1年間だけで約86万人。男性が約50万人、女性が約37万人いらっしゃいました。がん統計によれば、一生のうちに男性が罹患する確率は62%、女性は47%とされています。

おおよそ2人に1人となれば、とても身近な病気です。それでも、がんになった人は「どうして私が?」と思い、がんになっていない人は「私は大丈夫」と思っているのではないでしょうか。

30代でがん患者となった私も、がんという診断を受ける前までは、まさか自分ががんになるなんて思ってもいませんでした。インフルエンザにさえかかったことはなく、健康には自信があったのです。大病と言えば、骨折くらいで、病院で1万円札を何枚も払うような治療を受けたことはありませんでした。

おまけに、がん保険にも入っていなかったので、診断を受けてから、1万円札がどんどん消えていく状況に「この先どれだけお金がかかるのか」と不安でいっぱいになりました。がんになる前にもう少し「もしもがんになったら」を想定していれば……と思いましたが、まさに後の祭りです。

■命の大切さに比べたら「たったの3時間」

ここで、私はどうやってがんを見つけたのか、少し振り返らせてください。私の場合、職場の健康診断で見つけることができました。

当時、私が勤めていた会社では、一般健診は年に1回あり、内容は身長や体重、視力、聴力のほか、心電図や肺のX線写真、胃のバリウム検査、便潜血検査、尿検査、血液検査でした。オプションでがん検診があり、女性は、子宮がん検診は20歳から、乳がん検診は35歳から受けられました。

ところが、この2つのがん検診は、一般健診のあと、午後の時間に行われることが多く、受診するにはすべての検査を終えてから2、3時間病院で待たなければいけなかったのです。たったの3時間ですが、忙しい時期に待ちぼうけの3時間を捻出するのはとても大変でした。

というのも、待ち時間自体は3時間でも、午後にかかってしまうため、結局会社に戻れるのは午後3時頃。ほぼ丸一日が潰れてしまうのです。

いまから考えれば、命の大切さに比べたら「たったの3時間」なのですが、「健康だ」と思っている仕事人間にとって、3時間の待ちぼうけは「面倒くさい」「もったいない」という感覚でした。

■午後の時間が空いたので「ラッキー」と乳がん検診に

また、職場の雰囲気も影響しています。健診の開始時間はみんなだいたい同じですから、帰社が遅いと「どこかで暇つぶししているのでは?」とか、「なんか引っかかったのでは?」とか、あらぬ噂が立ちます。なので、なるべく早く職場へ帰りたかったのです。

そうした雰囲気は、当時の私の職場だけではないと思います。忙しい職場は、どこも同じようなものですよね。健診に費やす時間を仕事の範囲で認める、お互いに声をかけあうなど、健診に行きやすい風土づくりが大切だとつくづく思います。

そんなこともあり、35歳で1度乳がん検診を受けたものの、特に何も指摘されず、翌年は受けませんでした。1年半の間を空けて37歳になりたてのときの健康診断の日、「去年は、乳がん検診受けなかったな」なんて思っていたら、何の偶然か、午後1時から予定されていた重要な会議が中止になったのです。

午後の時間がぽっかり空いたので「これはラッキー」と、はりきって乳がん検診を受けたところ、担当の医師は「若いから、まだ大丈夫でしょう」なんて言いつつ、ニコニコと柔和な笑顔で触診を始めました。

ところが、右側を触ったあとに左側、そしてまた右側を触り、もう一度左側と、何度か行き来するうちに、医師の表情は曇っていきました。心配になって「何かありましたか?」と聞くと、「うーん、しこりがありますね。気づきませんでしたか?」と。先ほどの表情からは一変し、真剣な顔で言われました。

■エコーの検査までは「2週間待ち」

そしてもう一度右側を触ったあとで、「今日、時間があればマンモグラフィーを受けてほしい。それから、エコーも予約していって」と突然言われました。この時点で、頭の中は真っ白でした。

エコーの検査予約はいっぱいで、検査で引っかかってから2週間も待たされました。この確定していない状態の辛いこと、辛いこと。夜一人になると、いろいろと考えてしまいます。

「呼吸回数が増えると血液の循環が増え、がん細胞が飛び散るんじゃないか」とか、「仰向けで寝ると、がん細胞が下にまわるんじゃないか」とか、いまとなっては笑い話ですが、当時はそんなことを本気で心配してしまうほど、頭のなかは混乱状態でした。

上司に再検査になったことを告げると、「仕事よりも検査を最優先になさい」と言ってくれたのは本当に助かりましたが、健診で引っかかってからは仕事に集中することができず、地獄でした。

当初は旦那に話すのは「すべてが確定してから」と思っていましたが、1週間でギブアップ。エコーの予約日まで1週間というタイミングで、「がん検診で引っかかって、どうも悪いものがある可能性が高いかも」と伝えました。

■どこに行っても「お若いのにかわいそう」

そうして迎えたエコー検査の日。

マンモグラフィーにははっきりとがんは写っていないものの、しこりはあり、何かがあることは確実という、あいまいな状態でした。エコー検査を受けながら、「半年後に経過観察するか、すぐに細胞を採ってみるか、どうしますか?」と聞かれ、「グレーの状態のまま、半年待つのは精神的に苦しいので、白か黒かはっきりさせてください」と答えました。

このとき、この言葉を言っていなかったら、この決断がなかったら。

今、私はここにいないと思います。

入院も手術も人生で初めての体験というなか、30代だった私は、検査に行っても病棟に行ってもどこに行っても最年少。決まり文句のように言われた言葉があります。それが、「お若いのにかわいそう」という言葉でした。

自分では自分のことを「かわいそう」とは思っていないのに、同じがんの患者さんからも「かわいそう」と言われる。そのたびに、「そっか、世間から見ると私はかわいそうな人なんだな」と悶々とした気持ちになりました。

「お若いのにかわいそう」という言葉が出る背景には、「がん=高齢者がかかる病気」というイメージが根強くあるのだと思います。私自身も、自分ががんになるまでは、そう思っていました。

■がんは「高齢者だけの病気」ではない

確かにがんは、年齢が上がるにつれて増えてくる病気です。

しかし、20代、30代でもがんになることがあります。「小児がん」という言葉があるように、子供もがんになることはあります。そして、乳がんや子宮頸がんのように若い人にも多いがんもあります。

ところが、当時の私は、部位ごとにさまざまな特徴があることなどもまったく知らず、「がん」は「がん」でした。大腸がんも肺がんも乳がんも、全部「がん」で一緒。それぞれの種類ごとに年齢的な特徴があったり、進行の特徴があったり、見つけにくさや見つけやすさがあったりということは知りませんでした。

いま振り返ると「なにも知らなかったな」と思うのですが、ほとんどの人のがんに対するイメージはこんなものではないでしょうか。ただ、がんは確かに高齢者に多い病気ではあるものの、高齢者だけの病気ではない、ということはみなさんに知っていただきたい事実の一つです。

■「がん=死」のイメージが強い

がんに対するイメージと言えば、こんな調査結果があります。内閣府が2012年に実施した、「がん対策に関する世論調査」というものです。

このなかで、「あなたは、がんについてどのような印象を持っていますか」という質問がありました。これに対して4割の人が「こわいと思う」、3割強の人が「どちらかといえばこわいと思う」と答えていました。

がんはもはや国民病ですが、それでもなお、4分の3の国民が「がん=こわい」という印象を持っているのです。

そして、「どちらかといえばこわいと思う」「こわいと思う」と答えた1339人に、「がんをこわいと思う理由」をたずねたところ、いちばん多かったのは「がんで死に至る場合があるから」という理由でした。7割の人が、この理由を選択していました。

「がん=死」というイメージはまだまだ根強いのだな、と思います。

■「5年相対生存率」は年々改善されている

実際、がんになったことを告げると、「え……」とか「あら……」などと言ったまま、絶句されることがちょくちょくあります。これ、告げた側からすればとても辛い。

驚いて、なんて言葉をかければいいのかわからない状態なのだと思いますが、そうなるのは、やっぱり「がん=死」「がん=不治の病」と連想してしまうからではないでしょうか。

がんで亡くなることがあるのは事実ですが、亡くなる人のほうが多いのかと言えば、そうではありません。部位による違いはありますが、いま、がんの5年生存率は6割ほどと言われています。

医療は日々進化し、すべてのがんの5年相対生存率は年々改善されてきているので、「いま、がんの治療を受けている人」「これからがんの治療を受ける人」の5年相対生存率はもう少しよくなると思います。

■「生活習慣病」の言葉で人生を否定された気持ちに

そもそも病気は、何かに気をつければ確実に予防できるわけではありません。病気によっては、再発や転移のリスクもつきまといます。成功も失敗もあれども、自分の人生を自分で決断して進んできた私にとって、この「自己コントロール感の欠落」は最もやるせなく感じたことのひとつでした。

たとえば「がんは生活習慣病」とよく言われます。生活習慣病とは、自分の生活習慣が原因で発症する病気のことです。

でも「生活習慣病」という言葉を聞くたびに、「何か悪い生活が習慣化するほど、長く生きていないんだけどな」と思うとともに、「病気になった自分の生活が悪い=自分の生き方が悪い」と、これまでの生き方を否定されたような気持ちになりました。

がんを発症するリスクを上げる要因は、いくつかわかってきています。

たとえば、たばこ。喫煙は、肺がんや食道がん、すい臓がん、胃がん、大腸がん、膀胱がん、乳がんと、いろいろながんに関連があることがさまざまな研究から報告されています。男性のがんの3割が、たばこが原因と言われるほどです。

でも、その人のがんの原因が何か、ということはまた別の話です。

■がんになった自分を責めなくていい

がんと診断されると、「どうして私が?」の「どうして?」の部分を考え、これまでの生活を振り返って自分を責めがちです。

桜井 なおみ『あのひとががんになったら-「通院治療」時代のつながり方』(中央公論新社)

ただでさえ、患者の方は「あれがいけなかった」「もっとこうしておけばよかった」と後悔しています。そこに、まわりから「どうしてあなたが」「不摂生していた印象もあるしね」なんて言われると、責められているようで、さらに落ち込んでしまう。『あのひとががんになったらー「通院治療」時代のつながり方』(中央公論新社)へ詳しく記しましたが、これは言ってはいけないNGワードの一つです。

がんになったのは生活習慣かもしれないし、遺伝かもしれないし、ウイルスや細菌の感染かもしれないし、ストレスかもしれない――。

何が原因かなんてわかりません。原因もひとつではないのかもしれない。事実として、いまの医学でまだわからないことはあります。

だからもし、がんと診断されたからといって、それで自分を責めるのは、絶対にやめましょう。そして、がんの患者さんが身近にいる方は、「がんのリスクはいろいろあるんだから、何が原因かなんてわからない。でも言えるのは、あなたのせいではないということ」と、やさしく伝えてあげてください。

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桜井 なおみ(さくらい・なおみ)
キャンサー・ソリューションズ株式会社代表取締役社長
1967年生まれ。厚生労働省がん対策推進協議会委員。乳がん体験者。37歳のときに乳がんが見つかり、治療のために勤務先の設計事務所を休職。職場復帰後、治療と仕事の両立が困難となり退職。その体験を元に、がん患者の就労支援事業である「CSRプロジェクト」をスタート。その後キャンサー・ソリューションズを創業し、代表を務める。企業によるがん患者雇用配慮や、元患者やその家族などを含めたケアの広がりを視野に、啓発と発信を続けている。著書に『あのひとががんになったらー「通院治療』時代のつながり方』(中央公論新社)。

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(キャンサー・ソリューションズ株式会社代表取締役社長 桜井 なおみ 写真=iStock.com)

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