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残念な人ほど"私は悪くない"と言い訳する

プレジデントオンライン / 2019年4月24日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/SoumenNath)

人は何のために仕事をするのか。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は「究極的にはカネのためだが、それにしても『怒られたくない』という気持ちの人が多すぎる。そういう人はつまらないアウトプットしかできない」と指摘する──。

■人が仕事をする目的とは?

我々は何のために仕事をしているのだろうか。

「自身の成長のため」「社会とのつながりを得るため」「仲間とともに何かをつくり上げる達成感を味わうため」「社会をより良くするため」といった話は、わりと耳にする。ときどき「お客さまの笑顔のため」などと気持ちの悪いことを語る人もいる。

人によりいろいろな理由付けはあるだろうが、私は、基本的にはコレが究極の目的だろうと考えている。

生活を成り立たせるにはカネが必要だから。

「働く」という行為にさまざまな意義を見出し、自分なりに目的を持つことで、より熱心に、より真剣に取り組めるようになるなら、それはそれで結構なことである。だが人は、第一義的にはカネのために働いているのだ。

■人が真面目に仕事に取り組むのは「怒られたくない」から

この「労働の対価としてのカネ」という果実を得るために、もっとも必要なものは何なのだろう。仕事をするうえで、人はなぜ努力をしなくてはならないのか、なぜミスをしてはいけないのか、なぜ理不尽を飲み込まなければならないのか……そういったことを、若き日々に私も考えていたのだが、27歳のころに答えは出た。

人は怒られたくないから仕事をする。

まさにコレである。拙著『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』(星海社新書)でも書いたのだが、人々がマジメに仕事に取り組む際の原動力は「成長」でも「社会とのつながり」でも「達成感」でもなければ、「客の笑顔」でもなんでもないことを知った。とにかく、私も含めた凡人はカネのため、そして「怒られたくない」から必死に仕事をするのである。そして「私、ちゃんと仕事してますから」とアピールするのだ。

■クライアントのために粉骨砕身の日々

この真理に気付いたきっかけは、クライアントである米企業・X社の日本上陸のPR活動を手伝ったときに遡る。当時、私は広告代理店の社員で、ミッションは次のようなものだった。

【1】上陸を高らかに発表する記者会見の運営
【2】X社のメディア露出を最大限にするためのメディアへのアプローチ
【3】記者会見後のメディアとの個別インタビューのセッティング
【4】X社のCEOを含めた幹部たちの、訪日中の宿泊先や食事の確保といった下準備

たとえば【4】については「朝食に寿司を食べたい」などと要求されるため、築地市場の有名店「寿司大」へ朝5時に出向き、「おまかせ寿司」を8人前買って宿泊先に届けたりした。とにかく広告代理店というのは、客のためには何でもやるのである。

メインイベントである記者発表会は11月1日だったのだが、私は準備が本格化する10月16日から11月1日までの17日間で、家に帰れたのはわずか4回、総滞在時間は5時間である。X社の本社があるアメリカ・西海岸との時差の関係もあり、昼間は日系クライアントの仕事をし、夜が深まってからX社の仕事をした。

■深夜、クライアントの担当者が電話口で叫んだ

アメリカ現地の始業時刻である午前9時は、日本時間では午前2時である。X社の日本法人の担当者・A氏とは、20時あたりからやり取りが頻発し、書類の修正などを次々と命じられ、X本社の始業時間に間に合わせるべく日英両語での資料作成を求められたりした。

そんななか、午前2時まで数時間というところでA氏から新規書類の依頼が来た。X社幹部が日本滞在中、いかなる動きをするのかを「これからすぐエクセルにまとめてほしい」という依頼である。私は別クライアントの業務にも追われていたので、さすがに「それは難しいです」と返答したところ、彼女は電話越しで狼狽して、こう叫んだ。

「困ります! これを出さないとジェニー(本社の上司)が怒るんです!」

■仕事は「より怒る人」が優先される

このとき、私はすべてを悟った。仕事とは「より怒る人を優先してやるべきものなのだ」と。そしてA氏にとって、上司のジェニーから怒られることは最大級の苦痛であり、自身のポジションを維持するためにもジェニーだけは絶対に怒らせてはならないと考えていたのだろう。

この「ジェニーが怒るんです!」という言葉を聞いた瞬間、私の脳裏には自分のつくる書類を待つ日系企業Bの営業担当の顔が浮かんでいた。「このB社用の書類を今日中に完成させず、『明日送ります』と言っても彼は怒らないだろう。でも、ジェニーは数時間後に書類がないとめちゃくちゃ怒るのだろうな。だったらジェニーのための仕事を優先しよう。Aさんを窮地から救おう」──そう判断した。

■「怒られたくない」を行動原理にする人が多すぎる

電話越しのA氏が心のなかで「ああもう、どうしよう、ジェニーに怒られる。ジェニーは私のことを無能だと周囲に言いふらすかもしれない……」などと脅え、なかばパニック状態に陥っているであろうことは容易に想像できた。そこで私はAさんに「わかりました。ジェニーが怒ったら大変ですからね。他の仕事は後回しにして、Aさんの仕事を最優先でやります」と伝えた。A氏は「ありがとうございます……」と、ようやく安堵したのだった。

仮に私が「Aさん、さすがにこの時間から『やれ!』と言われても、無理なものは無理ですよ。せめて今日の夕方までに言ってくれたなら対応できたかもしれませんが、提出期限まであと数時間しかないじゃないですか。私はX社以外のクライアントも担当しています。いまは他のお客さまの書類をつくらないと、先方に迷惑がかかってしまうのです」などと返したとしよう。

その結果、何が起こるか。おそらくは後日、A氏が私の上司や営業担当に「中川さんはあのとき、私がどんなにお願いをしても、何ひとつ対応してくれなかった」「書類が用意されなかったことにジェニーが激怒して、その後の業務が滞った」などと告げ口をする可能性が高い。

結局、私もA氏から、そして上司や営業から、怒られたくなかったのである。

これが「人は怒られたくないから仕事をする」と考えるようになった、原点ともいうべき体験だ。あれから19年経った現在でも、これは真理だと感じている。何しろ、仕事でやり取りをしていると「怒られたくない」を行動原理にした言動をとる人間が多過ぎるのだ。

■講師の仕事でスケジュールが錯綜

私は、自分の専門である編集やライティング、PRなどに関して、さまざまなセミナーで講師を担当しており、複数の主催者、運営会社と付き合いがある。なかには、ひとつの運営会社の依頼で何コマも講座を受け持つことがあり、そこで生じるのがスケジュールの錯綜だ。

自分のスケジュール管理が行き届かないのも悪いのだが、「どの講座」が「いつ開催される」のか、わからなくなることが少なくない。そのため、運営会社には「Googleドキュメント」上で担当講座を一覧にしてもらい、それを弊社の従業員・Y嬢が把握。彼女から私にすべてのスケジュールが伝えられるような体制にしている。先方も気を利かせて「Googleドキュメント+メール連絡」という二段構えにして、万全を期してくれている。

■担当者の弁明に滲む“小物”感

しかし過去に一度、先方がGoogleドキュメントへの記入を忘れることがあった。私は講義の存在に気づかぬまま、直前に「○月×日の講義、よろしくお願いします」とリマインドのメールを受け取ったのだ。このメールは担当者だけでなく、CCで先方の上司やY嬢にも共有されている。

「Googleドキュメントだけでなく、メールもきちんとチェックしていなかったお前が悪い」という指摘もあるだろう。だが、こちらとしては「Googleドキュメントにある一覧を、スケジュールを把握するための、いちばんの材料にしていた」という事情がある。そのため、以下のような趣旨のメールを先方に「全員返信」で送った。

「○月×日の講座ですが、Googleドキュメントに記載がありませんでした。本当に講座は開催されるのですか? 申し訳ありませんが、把握しておりませんでした。しかし、スケジュールは空いておりますので、どうぞよろしくお願いいたします」

すると先方の担当者から、すぐにCC付きで返信が届いた。メールの趣旨は次の通りである。

「私は以下に転送したように、先日すでにメールで今回のスケジュールについて送っています。Googleドキュメントには先ほど書き加えておきました」

メールを「転送」モードにし、「○月×日○時に私はキチンと、こういう文面のメールを送っています。あなたもちゃんと宛先に入っております」ということを明示したわけだ。その行為自体はまあ当然の対応なのだが、メールを読みながら実にイヤ~な気持ちになった。なんというか……言外から滲む「小物臭」に違和感をおぼえたのだ。

CCに入っている上司をはじめとした内輪の人間全員と弊社のY嬢に対し、「私はこのようにキチンと連絡をしています。Googleドキュメントに書き入れていなかったのは当方のミスかもしれませんが、先に送ったメールをしっかりとチェックしていなかったあなたのほうが悪いと思います」と言われたように感じた。加えて、上司に向けた「悪いのは私ではなく、いつまで経ってもスケジュール管理がなっていない中川さんです」という猛烈なアピールにも見えた。

■防衛本能を過剰に働かせたばかりに……

確かに、メールのチェックが緩かったのは認める。私が悪い。しかし私は、彼を糾弾するようなことをメールに書いていないのだ。あくまでも「Googleドキュメントに担当講座の日程が書かれていませんが、本当に催されるのですか?」と確認しただけなのである。

しかし「お忙しいなか、講義をお願いさせていただく」立場である弱い自分に対して、講師が上から糾弾してきた……とでも考えたのか、事実関係だけを示すようなテイで、自分には非がないことを強く主張する風情のメールを送ってきたのだ。まるでハリネズミのごとく、自己防衛本能を過剰に働かせすぎているように、私の目には映った。

この場では普通に「Googleドキュメントに記載漏れがありました。メールはお送りしていたのですが、記載漏れの件、申し訳ありません」とだけ返せばよかったのである。いちいち“証拠”を示して、「メールでちゃんと連絡しています」と強調しても、実のところ、あまり意味はない。というのも「中川はメールをあまり見ない」ということが、それまでの付き合いを通じて、すでに先方の関係者の大半に知れ渡っているからである。だからこそ、Googleドキュメントでのスケジュール共有が導入されたのだ。

そもそも、私はまったく怒っていない。また、担当者の名前でメールを検索すれば、彼が過去にキチンと連絡してきたことなどすぐに把握できる。それなのに「私はちゃんと仕事をしている!」「このオッサンはあたかも私が悪いかのように、CCで上司にも伝わる形をとり、指摘してきた!」といった反応をしたのだ。

■そして、つまらないアウトプットだらけになる

彼の気持ちは、よくわかる。私だって若いころは「怒られたくない」と身構えて、自身の非を少しでも軽減させたいと考えながら仕事をしていたのだから。そして、そのころの自分の卑屈さを思い出すのだ。

このようなことを述べると「自己防衛のために、事実関係をハッキリさせながらメールを書くのは当たり前だろ」「講師だからってエラソーにしてるんじゃねぇよ」と反論したくなる人もいるかもしれない。ただ、それがあなたの小物っぷりを見事に表している。あなたも所詮は「怒られたくないから仕事をしている」のですね……としか、私は捉えられない。

今回紹介した事例に関しては、「中川は何も問題視していない」「あなたを責める意図はそもそも持っていなかった」「むしろ自分の適当なスケジュール管理に呆れている」という点について、彼に伝わらなかったのが実に残念である。

……というわけで、この運営会社が手がける講座の仕事は辞めることにした。まぁ、そういうもんである。「怒られたくない」ということを業務におけるプライオリティの最上位に据えるような人とは、正直、あまり仕事をしたくないのだ。

何度もいうが、そうなってしまう気持ちはわかる。わかるが、一方で実に情けないとも思う。かくしてこの世には余計な忖度がまかり通り、仕事は自己保身まみれになっていき、つまらないアウトプットだらけになっていくのだろう。

染みついてしまった「怒られたくないから仕事をする」という姿勢はなかなか拭い去れないかもしれない。ただ、その姿勢があなたに不必要な卑屈さをもたらし、結果として仕事の質を下げてしまっているかもしれないことは、意識しておくほうがいい。

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【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・人は、究極的にはカネを得るために仕事をしている。
・そして、ツラい仕事でも人々が真面目に取り組むのは、上司や取引先などに「怒られたくないから」である。
・気持ちはわかるが、「怒られたくない」という意識を最優先するような人とは一緒に仕事をしたくない。
・「怒られたくないから仕事をする」といった姿勢は、余計な忖度やつまらない自己保身を横行させ、その結果、つまらないアウトプットだらけになる。

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中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。

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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎 写真=iStock.com)

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