上司が休んで成果が上がる組織のつくり方
プレジデントオンライン / 2019年4月26日 11時15分
■「帰りなさい」「休みなさい」と社内をパトロール
私は「早く帰りなさい」「バケーションはいつ取るの?」と言って回る“社内パトロール”をしています。
みんな責任感が強く、「休みなさい」と言うと「仕事が終わらない」「クリスティンは、私がやっている仕事がどれだけ大変かわかっていない」と返してきます。
私も昔はそうだったので、気持ちはよくわかります。仕事は完璧にやりたいし、人に任せるのは苦手で、1から10まですべて自分で把握しておきたい。独身のころは、当たり前のように毎日残業していました。
だから最初にスウェーデンのH&Mで働き始めたときは、「みんな仕事を早く切り上げるし、1カ月もの長い休みを取る。よく会社が回るものだ」と半分あきれていました。でも実際、会社はまわっているどころか、成果をしっかり出していました。そして日本のH&Mでもそれができた。どの会社でもできないはずはないのです。
■疲れすぎると効率が下がっていることに気づかない
早く帰ること、休むことは「なまける」ことではありません。休暇にはたくさんの効用があります。
まずはやはり、リフレッシュです。疲れていたり体調が悪かったりすると、仕事の効率は大きく下がります。しかも、効率が下がっていることに自分で気づかなくなります。
体調不良でも、海外出張の翌日でも出社しようとする人がいますが、私はいつも休むよう言います。しっかり休んで体調を整え、リフレッシュしてから取り組むほうが、仕事がはかどるしクリエイティブに仕事ができるからです。
2点目は、視点を変えられること。忙しいと、近視眼的になってしまいます。仕事の全体像、将来のことに目が向きにくくなるし、今の仕事のやり方をどう変えたらもっと効率が上がるのか、考えられません。いったん仕事から離れ、全体を俯瞰し、違う角度から見る機会がないと、同じやり方を繰り返すことになり成長できません。
■休暇は人を育てるためにある
休暇は自分のためだけにあるのではありません。私が最も重要と考えているのが、部下の成長です。2019年3月に出した書籍『アップ・トゥ・ユー』でも詳しく書きましたが、休暇は人を育てるために使うのです。上司が休暇をとって職場にいなければ、部下は自分で考え、判断するしかありません。任されることは成長につながります。
私は、H&Mジャパンの社長だったときに、下の息子の出産のために半年間休んだのですが、本社はその間、ほかのマネジャーに代わりを務めさせました。そのマネジャーは、本社がいずれどこかの現地法人を任せたいと考えていた人材で、本当にその力量があるか判断したり、もう一歩成長させたりするために、私の休暇を活用したのです。
こうした取り組みは、H&Mでは当たり前に行われていました。産休・育休だけでなく、通常の休暇も同じです。誰かの休暇は、ほかの人の経験を積ませたり、適性を見たりするチャンスなのです。
■半年先の休暇の予定を共有する
ジバンシィでは、私を含め全員が半年先の休暇の予定を提出し、共有するようにしています。「そんな先のことはわからない」と言う人もいますが、「わからなくてもいい、理想でもいいから」と言って出してもらいます。
まとまった休暇を取るには、プランニングが欠かせません。早めに計画を立て、逆算して仕事を進めるのです。「この仕事が終わったら」「忙しくなくなったら」と思っていたら、永遠に休暇は取れません。
私はいつも、半年ごとに家族で相談し、家族旅行などのおおまかな予定を決めます。決めたら仕事のスケジュールにも入れて、ブロックしてしまいます。
社員全員が、こうして休暇の予定をスケジュールに入れておけば、そこを避けて打ち合わせを予定できますし、その人が休暇中にどのようにカバーするかも考えておけます。
■100%を目指さない
「休んだほうがいいのはわかっている。でも、やることがたくさんありすぎる」という人は多いと思います。しかし、「やらなくてはならない」と思っていることすべてが、本当に必要なことなのか、見直す必要があります。マネジャーが、それを見直すよう促し、見直しのサポートをしてほしいと思います。
日本人はまじめなので、100点満点を求めて「やることリスト」がどんどん広がってしまいます。優先順位をつけて絞り込む必要がありますが、簡単なことではありません。
その時に役立つのが、「このうちのどの仕事が、もっとも成果を生み出すか」を考えることです。
多くの仕事は、1から10まで順番にすべてやらなくても、2くらいまでやれば80%の成果が出るものです。残りの8つをやっても20%の成果しか出ないのであれば、やらなくてもいいと判断します。
実はここで、マネジャーなどのリーダーが、目指すゴールを明確に示すことが重要です。そうすれば部下たちは「この仕事はゴールに直結しないからやめよう」と判断できます。ゴールが明確でないと、どこまでやればいいのかわからず不安になり、すべてをやろうとして長時間労働になってしまいます。
■H&M社長を辞めて半年の「休暇」を取った理由
私はH&Mジャパンを離れてからジバンシィ ジャパンに入るまで、半年間の休暇を取りました。毎日家に帰るとママがいるのは、子どもたちも最初はうれしそうでしたが、後半は少しうんざりしていたかも(笑)。
考えるためには、そのための時間が必要です。休暇中は、これから何をやりたいか、自分のキャリアについて考えました。そしてあらためて「働きやすい職場を作りながら会社を成長させたい」「日本の女性に、仕事もプライベートもあきらめることなく元気に働き続けてほしい」「女性のリーダーが増えてほしい」という夢を実現させたいと思いました。こうしたメッセージを多くの人に伝えるために、本を書いたりもしました。
もうすぐ連休です。10日間丸々休めない人もいるかもしれませんが、少しでも仕事から離れてリフレッシュし、自分のキャリアやライフについて考える時間を持てるといいと思います。そして、遠出をしなくても、普段なかなかできない家の模様替えや家族写真の整理、子どもと料理をしたりするのも、良い休みの過ごし方ではないでしょうか。
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ジバンシィ・ジャパン プレジデント&CEO
1975年、日本人とアメリカ人のハーフとして生まれ、東京で育つ。97年、マテル・インターナショナルに入社、2000年に株式会社アントステラへ転職。結婚を機にスウェーデンに移住し、05年にストックホルムでMBAを取得。H&M本社に入社。2007年からのアジア進出に伴い、香港でエリア・マネージャーを経験した後、H&Mジャパンの立ち上げから2016年まで代表取締役を務めた。2017年、LVMHファッション・グループ・ジャパンの「ジバンシィジャパン」プレジデント&CEOに就任。二児の母としてもワークライフバランス、フラットな組織や人材育成にも力を入れ、日本女性の社会進出を支援する活動に積極的に取り組んでいる。著書に『Up to you「よくばりに生きる」ためのキャリア戦略』(日本経済新聞出版社)がある。
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(ジバンシィ・ジャパンプレジデント&CEO クリスティン・エドマン 構成=大井明子 スタイリング=丹きぬ子 ヘアメイク=成田幸代)
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