"改元10連休"で旅行消費額は過去最高に
プレジデントオンライン / 2019年4月25日 9時15分
いよいよGWが目前に迫ってきた。今年のGWは10連休となる企業も多いだろう。今年は、新天皇が即位する5月1日と即位礼正殿の儀が行われる10月22日が休日になる。これらの休日は国民の祝日扱いになり、4月30日と5月2日も休日となるためだ。
経済への影響はどうか。一般的に、連休が増加すれば、娯楽、レジャー、外食等へ費やす時間が増え、これらの関連支出が増加することが予想される。ただし、製造現場で工場の稼働日数が減れば、生産量が抑制されるため日本経済にとっては押し下げ要因となる。
そこで以下では、今年のGWが10連休になることが日本経済に及ぼす影響、すなわち改元がもたらす日本経済への影響を検討してみたい。
■GWの旅行総消費額は過去最高になる可能性
まずは、旅行動向に対して及ぼす影響を検証してみよう。ここでは、JTB総合研究所が昨年4月4日に公表した「2019年ゴールデンウィークの旅行動向」を参考にした。下記資料はJTB総合研究所が推計した旅行総消費額の推移である。これによれば、今年のGWの旅行総消費額が前年比+3.7%の1兆0610億円と予想されていることがわかる(図表1)。
前年の総消費額が1兆0232億円程度であることからすれば、10日間の旅行消費額だけで前年から約378億円増加することになり、旅行人数が約2467万人であることからすれば、1人当たり3万6800円程度の平均消費額となる。
なお、こうした10連休により、車による帰省ラッシュや国内旅行が増加すれば、車の給油の増加や、洗車や車両メンテナンスの需要等も伸びることも合わせると、GWの旅行総消費額は過去最高になる可能性が高い。
ちなみに、2019年通年の旅行総消費額は、「ラグビーワールドカップ 2019 日本大会」が開催されることもプラスに働き、前年比+2.8%の15兆3000億円と予想されている。前年からの増加額は約4156億円であることからすれば、約0.1%のGDP押し上げ効果がある。
■期待される「駆け込み婚」や「新元号婚」
一方、改元により「駆け込み婚」や「新元号婚」が増加するだろう。それに伴い、婚姻件数や出生数も伸びるだろう。
実際、「ミレニアム婚」がはやった2000年の婚姻件数と出生数は、それぞれ前年比+4.7%、1.1%の増加に転じた。そこで、仮に2019年も同様の効果が出現すると仮定すれば、婚姻件数が2万8000件、出生数が1.0万人増加することになる。
各種調査に基づき、結婚の平均費用を300万円、出産までの平均費用を100万円とすれば、結婚と出産でそれぞれ839億円、101億円の特需が発生する計算となる(図表2)。
■短期アルバイトの急増で人手不足が深刻に
しかし、改元による経済効果は、ポジティブなものばかりだとは限らない。その点では企業活動への影響を見る場合には注意が必要である。
というのも、例年4月下旬には上場企業の3月決算発表が本格化する。特に例年、5月上旬をピークに多い日には一日数百社が決算を発表する。したがって、ここで10連休により営業日数が減少し、GW前後の限られた日程に決算発表が集中することになれば、発表会場の不足や、決算内容を読み解く投資家への影響も無視できないだろう。
人手不足が続く業界にも警戒が必要だ。というのも、10連休で長期不在となる世帯が増えることになれば、連休前にネット通販の駆け込み需要が発生する可能性があり、配送面でトラブルが多発することにもなりかねない。
また、GW中はイベントや小売り・外食等の販促、引っ越しなど大量の短期バイト募集が発生することが予想され、採用する企業側からすると、より時給を上げないと人手が確保できなくなる可能性もありそうだ。
■金融市場では連休前の株価下落リスク
意外な分野では、株価など金融市場への影響にも警戒が必要だ。実際、10日間も連休が続けば、連休前後の株価の振れ幅が大きくなる可能性がある。
というのも、日本の株式市場は休場となっても世界の市場は動いているため、海外で大きな材料が発生しても、日本では株式を売買できない恐れがある。特に、為替市場は世界中のいずれかの市場で24時間取引されており、当然のことながら日本の10連休中も市場は開いている。しかし、この間に円の取引量が減れば、通常よりも少ない規模の売買となるため円レートの値動きが大きくなり、それが株式市場にも反映される可能性がある。
こうした中で、海外で悪材料が出ても、日本の投資家が損失を回避する売りが出せなくなることになれば、10連休中に株式を保有するリスクを避けるために、連休前に株式市場に売り圧力が高まり、株価の下落をもたらす影響も懸念される。
■長い休みで「五月病」の増加が懸念
さらに、保育園や病院、銀行、役所等が長期閉鎖することによる国民生活への影響も無視できない。
まずは、10連休中に働く必要がある労働者の場合でも、子供の預け先が確保できなければ、仕事を休まざるを得ない労働者も出てくる可能性がある。勤務日数が減る非正規労働者の所得が減ることも考慮すれば、10連休が日本経済に及ぼす影響そのものはプラス・マイナス両面あることがわかる。
こうした社会生活への影響として最も懸念されるのは、やはり医療機関が休日になることであろう。患者の中には、人工透析を受けている人や、複数の医療機関を別の日に受診する高齢者に加え、病状が急変する可能性のある患者もいるため、こうした人たちへの対応が喫緊の課題といえよう。
また、新しい生活にようやく慣れた児童や生徒、新入社員等への心理的な影響を懸念する向きもある。ようやく新生活に慣れてきたところに、長い休みにはいることでいわゆる「五月病」が増えるのではないかという心配である。このほか、銀行業務が10日間停止するとなれば、資金繰りへの影響も懸念されよう。
■お祝いムードから節約モードへ様変わりの可能性も
昭和天皇の崩御による平成の代替わりでは、国民の間に自粛ムードが漂った。それに対して、退位日を含めて10連休となれば、お祝いムードが盛り上がるといったプラスの側面もある(図表3)。
逆に、製造業では工場の稼働日数が減ることで生産量が抑制され、その挽回生産が連休前後で補えなければ、10連休によって想定ほど景気が押し上げられない可能性もあるだろう。なぜなら経済(GDP)成長率と鉱工業生産は連動しているためだ(図表4)。
なお、GW明けの5月20日に発表を控える1~3月期のGDP成長率はマイナスになることが予想されることや、10連休でお金を使いすぎた消費者が一気に節約モードへ様変わりする可能性がある点については十分な注意が必要であろう。
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第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト
1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。内閣府経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
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(第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣)
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