橋下徹「僕が考える令和以降の天皇制」
プレジデントオンライン / 2019年5月8日 12時15分
(略)
■日本国民が天皇制を支持する際の「5つの立場」
天皇制を守りたいと思う国民の敬慕の念はどこから湧いてくるのか。
(1)神武天皇から続く万世一系の皇統(血筋)が根源となっているとする立場。そしてこの皇統は男系男子、つまり男側の直系子孫で現在まで続いているということに敬慕の念が集まるとする
(2)教育や社会制度によって敬慕の念が醸成されるという立場
(3)実際に目にしている天皇陛下をはじめとする皇室の皆様の行為(態度振る舞いの様子)が根源となっているとする立場
(4)敬慕の念はないとする立場→天皇制否定論へ
(5)そもそも国民の敬慕の念など考える必要はないという立場
だいたいこの5つに収れんされると思う。
みなさんはどの立場だろうか? (1)から(5)のいずれか1つにスパッと当てはまる人もいれば、複数に当てはまる人もいるだろう。さらに複数に当てはまる場合にも、重みの違いもあるだろう。
僕は、(1)と(3)であり、(3)の方が(1)よりもかなり比重が高い、という立場だ。
以上の5つの立場を念頭に、以下の議論を見てもらいたい。
(略)
この問題についてツイッター上で衆議院議員の長島昭久氏や足立康史氏と議論を深めていたところ、今度は歴史について色々な本を著している倉山満氏がフェイスブックで次のような批判をしてきた。
(略)
じゃあ、仮に「不滅の法灯を維持するのが大変だから」と、蝋燭をやめて電球にするのか? という話。理屈を言い出せば、いくらでも「維持するのが大変だから」なんて言えますね。
問題は、約1200年前から燃え続けている不滅の法灯に価値を見出せるかどうか。
男系なんて民主主義の時代に維持しなくていいじゃん!
不滅の法灯なんて科学技術が発達した時代に維持しなくていいじゃん!
これは理屈であっても、論理ではない。〉
(略)
■倉山氏の主張で思い出す「文楽を守れ!」騒動
倉山氏の主張は典型的な(1)の皇統絶対重視の立場。というよりも、もはや(5)の、そもそも国民の敬慕の念など考える必要はないという立場だと思う。皇統最重視の考えから、国民の敬慕の念など考慮する必要もなく、そうであれば国民の敬慕の念を醸成する天皇並びに皇室の行為(態度振る舞い)・努力も不要だという考え方の典型だ。こういう考えも1つの考え方として筋は通っている。
しかし、そのような立場を貫くと、令和以後に天皇制というものが「よりよく」続いていくためにはどうすればいいのかという議論は全くしなくなる。頭の中で抽象論だけを展開するので、自分の立場を貫くと現実にどのような弊害が生じるのかの予測ができなくなるし、そもそもそんな弊害など気にするな、と割り切っているのかもしれない。
倉山氏の考えを突き詰めると、男系男子の皇統さえ守られれば、皇室に国民が敬慕の念を抱かなくなっても、そして天皇制が国民に支えられなくなってもそれでいいという考えにつながる。この考えは天皇や皇室の人間性への考慮もしなくなる。僕はそのような立場には立たない。やはり、この日本の国における誇りでもある天皇制は、国民の敬慕の対象であり続け、「よりよく」続いて欲しいと願う立場だ。
倉山氏のような主張を聞くと、僕が知事・市長時代、大阪において文楽補助金改革を行っていた時に文楽を守れ! と叫び続けていた人たちのことを思い出す。
文楽は確かに日本の伝統文化の象徴である。しかし近年、観客数も減ってきており、行政の補助がなければ存続できない状況に陥った。インテリたちは口を開けば文楽を守れ! という。しかしなぜ観客が増えないのかについての考察はしない。確かに、人形遣いや太夫の技術には目を見張るものがある。しかしそれらが現代社会における娯楽のニーズに合致していない。ゆえに、現代社会にマッチした演出を施した三谷幸喜さんの文楽などは、連日満員御礼の状態だった。同じ伝統文化である歌舞伎も、様々な演出を施していまだに観客が溢れかえっている。
僕が文楽に改革を促した時に、インテリたちは、「文楽はとにかくそのまま守ればいいんだ。そのために補助金を増額しろ。観客数なんてどうでもいい。観客が0になっても文楽を守れればいいんだ」と皆、真面目な顔をして言っていた。そこには文楽楽団員のやる気や人間性への配慮は全くない。僕は恐ろしく感じたが、インテリたちは自分たちがおかしいとはまったく思っていない。僕は「あー、これは立場の違いなんだな」と認識した。
■天皇制がよりよく続くために必要なこと
上皇陛下の退位が議論となったときに、皇室や皇統を重視する人たちに限って、上皇陛下の退位を認めなかった。上皇陛下が公務の負担に耐えられないことが退位理由となっていたことについては、「陛下の象徴としての活動は不要だ。陛下はただその地位に就いて、祈って下さればいい」とまで主張する者もいた。被災地へのお見舞いや慰霊の旅も不要で、国民目線に下がる必要はないと言い放つ者までいた。
彼ら彼女らは、男系男子の皇統という形式・様式だけを重んじ、そこに天皇・皇室という「人間」が存在することは念頭にない。天皇制がよりよく続くためには天皇や皇室と国民の間の心の交流・絆が必要であり、皇室への国民の敬慕の念が必要であるとは考えない。
彼ら彼女らにとって天皇制がよりよく続くことなどどうでもよく、男系男子の皇統だけが続けばいいと考えている。まるで観客が0になっても、文楽楽団員に永久に文楽を演じ続けさせるがごとく。
倉山氏が、天皇制・皇統を語るにおいて、延暦寺の不滅の法灯をたとえ話にもってきたときに、氏は天皇制がよりよく続くためにはどうすればいいのか、ということについてはまったく関心がないのだなと感じた。ここが抽象論で生きる倉山氏と、日本が現実によりよくなってほしいと考える僕の違いだと認識した。
(略)
そしたら倉山氏は、「なるほど、私も『国民から支えられない皇室が成り立っていく』とは思っていません」と言ってきた。そうなんだよ、だから国民に支えられるためにはどうしなければならないかを現実的に考えなければならないんだ。男系男子の皇統を守りさえすれば国民から支えられるという単純な話じゃないんだ。
(略)
(ここまでリード文を除き約2600字、メールマガジン全文は約2万0300字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.150(5月7日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【令和時代の天皇制(1)】なぜ国民の多くが支持するか? 存続の危機に何をすべきか?》特集です。
(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)
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