アップル最新CMに隠されたGAFAへの怒り
プレジデントオンライン / 2019年4月25日 15時15分
■温暖化対策で世界をリードするアップル
新機種が発表されれば、いやが応でも世界中の注目が集まるiPhone。しかし、アップルが進める地球温暖化対策にこそもっと注目が集まるべきだと不満をくすぶらせているのは、アップルのCEOティム・クックだけではないだろう。
アップルは地球温暖化対策で世界をリードしている。アップルが自社のデータセンターを100%再生可能エネルギーだけで稼働するようにしたのは、2014年のことだ。そして2018年4月には、直営店やオフィスなど全アップル関連施設の電力が、やはり100%再生可能エネルギーで賄われるようになった。
さらに、サプライヤーにも再生可能エネルギーでアップル製品を造るよう要請し、そのための資金提供も行っている。具体的には、2020年までに4GW(ギガワット)以上のクリーン電力をサプライヤーと共に生み出す計画で、これは2017年における同社の「カーボンフットプリント」の30%に相当する。
このように、新製品開発と並行して持続可能な社会の実現に力を入れているアップルだが、CEOティム・クックの挑戦はこのレベルでは止まらない。
■iPhoneの高効率なリサイクルを図る分解ロボット
その第一歩が、iPhoneの分解ロボット「Liam(リアム)」だった。2016年に登場したLiamは、iPhone6のタッチパネルをロボットアームでまず本体から分離させると、リサイクルできる部品をセンサーで検出して、パーツごとの分離作業を進めていく。例えば、バッテリーからはコバルトとリチウムを、システムボードからは銀とプラチナを、カメラ部分からは金や銀を取り出していくのだ。
そして、2018年には分解ロボットの2代目「Daisy(デイジー)」が登場した。LiamがiPhone6専用だったのに対し、DaisyはiPhone5からiPhone7までの9モデルに対応している。33フィート(約10m)のスペースで、5本のロボットアームが1台のiPhoneを約3分かけて分解していく様子は、まるでiPhoneの製造工程を逆回ししたかのように見える。
これまでのシュレッダーによる“丸ごと細断”方式では、希土類元素(レアアース)が取り出せず、アルミニウムを再利用できる品質で再生できない問題があった。
しかしDaisyは、高品質なアルミを抽出、回収することができるばかりか、希土類元素やタングステン、アルミ合金などの再利用をも可能にした。これによりiPhoneの高効率でのリサイクルが実現し、同社が目指す持続可能な社会づくりに大きく前進したと言える。
■目指すのは「製品の完全リサイクル化」
このDaisyはゴールへの一歩にすぎない。クックが目指すゴールは、あくまで「製品の完全リサイクル化」である。
アップルは今後、部品に使われている金属やレアメタルなどの「採掘」から、「加工」「組立・完成」、そして「ユーザーによる使用」から「廃棄」まで、これまで一方通行であったプロセスをがらりと変えるつもりだ。
つまり、廃棄される製品が再び「加工」に戻って、「組立・完成」へとつながるクローズドな循環をつくり上げようとしているのだ。
他に類を見ないこの挑戦は、究極の「クローズド型サプライチェーン」を目指すものであり、それが製品の完全リサイクル化につながるというのがクックの構想だろう。この先もし、「採掘」すらも不要になれば、モノづくりが根底から変わる一大革命と言える。それはiPodやiPhoneの登場を超える衝撃をもたらすに違いない。
しかし、こうしたリサイクル素材だけを使ったものづくりに挑むアップルに対して、「コストが膨大になり、ビジネスにならない」とか、「10年以上、あるいは数十年単位はかかる夢物語だ」と批判する人たちがいるのも事実だ。
また、「iPhoneが売れていて、余裕がある今だからできることだ」と冷ややかに見る専門家もいる。つまり、経営が苦しくなっても完全リサイクル化への挑戦を続けられるのかと疑問視しているわけだ。実際問題として、もしアップルからの注文が減れば、サプライヤー側から今ほどの協力を得るのは難しいのではないだろうか。
■ビジネスはキレイ事で成り立つのか
では、ユーザーはどうだろう。例えばiPhoneのカメラ性能が向上した場合は、ユーザーはすぐにそれを体感できる。だが、完全リサイクル化で作られたiPhoneの価値をユーザーが体感するのは難しい。果たして、「地球環境にいい製品だ」と訴えるだけで、今後もiPhoneを買ってくれるだろうか。
社内にも問題がある。アップル社員がクックの唱える完全リサイクル化の重要性を、どこまで理解しているかは大いに疑問だ。アップルにはもともと、これまでにない製品を生み出すことに全エネルギーを集中する企業風土があり、地球環境保護を同時に両立させろと言われても、簡単にできることではない。
それでもクックは、「私たちの使命は、常に世界を前よりも良いものにして残していくことだ」と強調する。これをキレイ事だと冷笑する連中が少なからず存在するのも、無理からぬことだろう。しかし、こうした理念は本当に単なるキレイ事なのだろうか?
トランプ大統領のさまざまな言動が示すように、今の米国は平気でうそをつき通す人物が得をする国に落ちぶれつつある(これは日本も同様だが)。これでは正直者がバカをみる国になってしまいかねない。
そんな背景を顧みれば、堂々とキレイ事を掲げて一歩一歩前に進もうとするクックの姿勢は、今の社会では非常に価値があることではないのか。少なくとも私はそう感じている。
■クックのいら立ち「アップルをGAFAと一括りにするな」
そのクックが今、いら立っている。アップルが「GAFA」と一括りに世間で扱われていることに対してだ。
GAFAとはグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの頭文字である。そして昨今、「GAFAは個人情報を独占して金儲けをしている」との批判が多く噴出している。
グーグルマップやユーチューブが無料で使えるのは、グーグルが広告で儲けているからだし、インスタグラムが無料で利用できるのは、やはりフェイスブックが広告でガッポリ稼いでいるからだ。グーグルもフェイスブックも、売り上げの約9割が広告収入というビジネス構造なのである。
しかし、アップルはiPhoneやiPadなどの製品を売って利益を上げている会社である。現にクックは、「アップルは広告で儲けない」と繰り返し発言している。個人情報を広告主に売って金儲けをしているフェイスブックやグーグルとは本質が違うと言いたいわけだ。
クックが昨年、「利用者のデータを収集している企業のサービスは、監視に等しい」とターゲット広告で儲けているフェイスブックやグーグルを批判したことは記憶に新しい。そしてこの発言により、クックとフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOの舌戦が始まった。
ついには腹を立てたザッカーバーグが、フェイスブックの全社員にiPhoneの使用禁じ、アンドロイドを使うよう命じたのは2018年11月のこと。ザッカーバーグは、「アンドロイドが世界で最も人気のあるOSだからだ」とその理由について説明したが、これに社員や世間が冷笑を返しただけであったのは、クックにとって幸いだったかもしれない。
■21世紀的な価値がスマホ戦争の未来を左右する
アップルはこれまで、個人情報を大切に扱い、外部に出さないよう注意を払ってきた。マイクロソフトやヤフーが、米政府から命令された途端に尻尾を振ってユーザーの個人情報を引き渡したのに対し、アップルは最後まで抵抗している。
また、FBIと司法省が、捜査のためにiPhoneのロックを解除するソフトウエア――つまりバックドア(裏口)を作れと命令した時も、「バックドアを作ると、全てのiPhoneユーザーの個人情報が筒抜けになる」とクックが拒否したのは有名なエピソードである。
アップルの最新のテレビCMをご覧になっただろうか。「プライバシーは大切」を前面に打ち出した、これまであまり見られなかったタイプのCMだ。アップルは今や、ユーザーにとって個人情報の守護神となっているようでもある。
クックは以前、「もしアップルが、顧客を商品だと思って金儲けに徹すれば、今より多額の利益を上げることができる。だが、アップルはそれをしない道を選んだ」と、フェイスブックとの違いを強調していた。
そのアップルを追撃するファーウェイなどの中国企業は、個人情報の保護も、地球環境保護もどこ吹く風だ。ならば価格や機能だけでなく、個人情報や地球環境といった21世紀的な新たな価値が、スマホ戦争の未来を左右するに違いない。
(経営コンサルタント 竹内 一正 画像=YouTube、Apple Japanチャンネルより)
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