私が休日絶対に守るたった一つのルール
プレジデントオンライン / 2019年4月26日 6時15分
■休暇観を変えた、「アイスホテル」の休日
これまでで一番印象に残っている休暇といえば、30歳の誕生日のサプライズプレゼントに夫が連れて行ってくれた、スウェーデン北部にある「アイスホテル」です。当時は子どもが生まれる前で、夫婦でスウェーデンに住んでおり、私はスウェーデンのH&Mで働き始めていました。
のんびりした夜行列車で向かったのですが、今でも列車の揺れやエンジンの音を覚えているほど。電車を降りた瞬間は、マイナス30度空気に顔が凍りそうになりました。ホテルでは、氷と雪でできた部屋の、氷のベッドに泊まります。夜中に布団から出てトイレに行くのも大変な覚悟。寒いと体が求めるものも変化して、食欲が増し、普段食べないような油っぽいものを食べたくなるのも発見でした。
アイスホテルは、毎年違うアーティストが室内をデザインし、トルネ川で取った透明な氷のブロックを使って作り直されます。数カ月後には解けてなくなってしまうのに、手間暇をかけて素晴らしい作品を作り上げるのです。ホテルの中を歩くだけでも畏敬の念を抱かされます。人間の創造する力とチームワークのすばらしさ、そして自然のパワーに圧倒される経験でした。
この体験をきっかけに、休暇の過ごし方が大きく変わり、仕事を離れ、都会を離れたところで、自然の中に身を置いてゆったり過ごすようになりました。
■予定を一切入れないで1日を過ごす
今も、毎年夏休みには、家族で夫の両親が住むスウェーデンで過ごします。夏の北欧は「白夜」と言われるように夜遅くまで明るいので1日が長いのですが、予定を一切入れず、気の向くままのんびり散歩をしたり、子どもたちと一緒に庭で育てている野菜をとってきて料理をしたり、日々の小さなことを楽しむようにしています。
普段は家事も仕事も、限られた時間の中でできるだけたくさんのことをこなそうとしているので、私たちの体の中には「効率追求」がプログラミングされています。スウェーデンでの休暇中、散歩に行くときも、私はつい「どこに行く」「何時に戻る」など、目的を持ったり計画を立てたりしたくなってしまうのですが、夫に「散歩は散歩。目的はいらないでしょう」と言われてハッとしました。ほかにも例えば家で子どもとただカードゲームをするだけの時間を過ごすことに罪悪感を覚える人もいるでしょう。でも、いったん「効率」から離れてみないと得られないものもあるのです。
■休日は「デジタル・オフ」
ハイファッションの世界は忙しいですし、海外出張も多い。仕事はおもしろいので、つい休みの日にも、ビジネスの本を読むなど仕事につながる勉強をと考えがちです。でもそれでは、世界が狭くなってしまいます。休暇に仕事の世界から離れることは、視野を広げることにもなるし、エネルギーの充電にもなります。
休日に意識しているのは、スマホやパソコンなどのデジタル機器から離れる「デジタル・オフ」です。私も夫も仕事中は電話やメールに追われていますし、子どもたちもスマホやゲームは好き。デジタル・オフというと子どもたちはすぐ「つまらない」と言いますが、そういう時間をどう過ごすか自分で考えたり、家族でただ会話したりすることが必要です。そんな時間を通して、想像力が育まれるからです。
本当は私も、休日でも売り上げは気になるし、ついスマホを手にしたくなってしまいますが、ぐっと我慢。犬の散歩に行ったり、一緒にクッキーを焼いたりと、画面を見ないで一緒に過ごすようにしています。
デジタル・オフを意識するようになったのは、子どもが小さい時に描いた、家族の絵がきっかけです。私の姿は、トレードマークになっている赤い口紅。そこまでは良いのですが、携帯電話で話しているところだったのです。「これって、私が絶対なりたくなかったママの姿だわ」と、ショックを受けました。
■「こたつ」のすごさを思い知る
今は本当に便利で、スマホがあれば買い物もできてしまうし、友達とコミュニケーションも取れてしまいます。空いた時間も、スマホがあれば暇になりません。だからこそ、デジタルから離れた時間をどう過ごすか、意識して子どもに教える必要があると思います。
土日は、よほど緊急なことでもなければ、仕事の電話対応はしません。普段は忙しいので、週末はできるだけ100%子どもに意識を向け、「お母さん」に集中したいのです。
どうしてもメールを確認したいときは、子どもたちに見られないように、就寝中などこっそりやっています(笑)。
それから、もう暖かくなって片付けてしまいましたが、この冬、我が家はこたつを買いました。洋風の家なので全然似合わないのですが、これがデジタル・オフにとてもいいのです。こたつがあると、家族が集まりますし、お互いの顔も見えて自然に会話が始まります。家族との絆を深め、子どもたちの会話の力にもつながります。おすすめです。
会話はコミュニケーションの基本ですし、子どもたちにはぜひ、コミュニケーションの力を身に付けてほしい。それは将来、家を出て外の世界に羽ばたくときにも必ず役立つと思います。
■「つまらないおばあちゃん」にならないために
先日夫に「仕事をリタイアしたらどうしたい? 夢は?」と聞かれたのですが、答えられなくて愕然としました。まったく考えたことがなかったのです。今の私は仕事と子育てしかしていません。子どもはやがて巣立ちます。そのあと自分はどうしたいのだろうと少し焦りました。
そういえばインタビューなどで、「趣味は?」と聞かれても、答えられませんでした。「ビジネス以外の楽しみや、やりたいことは何だろう?」「『キャリア』だけでなく『ライフ(人生)』を考えなくては」と思いました。
たとえ仕事をリタイアしても、好奇心を持ち続け、常に新しいことを学んだり、いろんなことに挑戦していきたいのです。「つまらないおばあちゃん」にはなりたくありません。
例えば、ボランティアを考えています。これまでも時々、教会の活動で、ホームレスにおにぎりを配る活動などはしてきましたが、ほかにも、子どもが好きなので子どものために何かできないか、高齢者のためにできることはないか、などと考えています。
仕事も家事も、普段はつい、限られた時間にいっぱい詰め込もうとしてしまいます。日本の女性はとくに、自分のキャパの300%くらい働いているのではないでしょうか。でも、そうして「やること」に追われていると、「考えること」ができません。考える時間をつくるために、ヘルパーさんやシッターさんをお願いすることをギルティーに感じる必要はないと思います。夕飯もたまにはピザでいいんですよ。
私もこれからの休暇は、将来つまらないおばあちゃんにならないために、何をやりたいか考えたり、思いついたことを試したりする時間にすることを、意識しようと思っています。
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ジバンシィ・ジャパン プレジデント&CEO
1975年、日本人とアメリカ人のハーフとして生まれ、東京で育つ。97年、マテル・インターナショナルに入社、2000年に株式会社アントステラへ転職。結婚を機にスウェーデンに移住し、05年にストックホルムでMBAを取得。H&M本社に入社。2007年からのアジア進出に伴い、香港でエリア・マネージャーを経験した後、H&Mジャパンの立ち上げから2016年まで代表取締役を務めた。2017年、LVMHファッション・グループ・ジャパンの「ジバンシィジャパン」プレジデント&CEOに就任。二児の母としてもワークライフバランス、フラットな組織や人材育成にも力を入れ、日本女性の社会進出を支援する活動に積極的に取り組んでいる。著書に『Up to you「よくばりに生きる」ためのキャリア戦略』(日本経済新聞出版社)がある。
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(ジバンシィ・ジャパンプレジデント&CEO クリスティン・エドマン 構成=大井明子 スタイリング=丹きぬ子 ヘアメイク=成田幸代)
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