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「令和」が景気にプラスと断言する理由

プレジデントオンライン / 2019年4月26日 9時15分

新元号「令和」は経済にどんな影響を与えるだろうか。三井住友DSアセットマネジメントの宅森昭吉チーフエコノミストは「今回は天皇の逝去に伴う改元ではないため、自粛ムードはなく、関連商品やサービスが続々と生まれている。景気にプラスに働きそうだ」と指摘する――。

■ラ行で始まる元号は過去には3つだけ

5月から「令和」が始まる。新元号は日本の経済にどのような影響を与えるであろうか。

平成の30年間は均してみると経済的には横ばいの状況が続いた。図表1は75年からデータがある現行の、鉱工業生産指数を88年までの昭和の時代と、89年から2019年2月分までの平成時代をタイムトレンド線で回帰してみた。昭和の時代は右肩上がり、平成時代はおおむね横ばい(わずかに右肩下がり)になっていることが見て取れる。令和の時代は再び右肩上がりになってほしいものだ。

「令和」という新しい元号に変わると、多くの国民の気分も新たになる。前向きなマインドが生まれそうだ。ラ行で始まる令和(レイワ)は新鮮な印象を与える。古来の日本語の「大和言葉」にはラ行で始まる単語はなく、音読みの漢語か外来語のようだ。

そのためか、ラ行の元号は珍しく、過去には「霊亀」、「暦仁」、「暦応」の3つしかない。「霊亀」(715年~717年)は奈良時代、元正天皇即位の際に瑞亀(ずいき)が献上されたことにより名付けられたという。「暦仁」(1238年~1239年)は鎌倉時代(1185年ごろ~1333年)の元号で、「暦応」(1338年~1342年)は南北朝時代(1336年~1392年)に北朝で使われた。

なお「令」の字が入った元号は幕末に候補に挙がったことがある。1864年に「令徳」と「元治」が候補に挙がったが、江戸幕府は「元治」を選んだという。「慶応」のひとつ前の元号選びの時のことである。

一方、「和」は昭和と字が重なり、年配の世代にも親しみやすさがあるだろう。新鮮さと安心感を組み合わせた元号で、個人消費にはプラスに働くとみられる。

■時代の変わり目「記念消費」の効果は大きい

過去のデータをみると、改元など時代の変わり目は個人消費や設備投資を刺激している。現在のGDP統計は1980年までさかのぼれる。81年から2018年まで38年分、1~3月期の前期比伸び率を高い順に並べると、図表2のように、第1位は平成に改元された89年、第2位はミレニアムの2000年である。どちらも個人消費、設備投資がしっかりした伸び率になっている。時代の変わり目の「記念消費」などの効果は大きいようだ。また、昭和から平成への切り替えや、2000年問題に対応するための設備投資も必要になったのだろう。

1~3月期の実質GDP前期比・ランキング(81-18年)

今回の改元は5月1日で、新元号「令和」の発表は4月1日と1カ月前だったことが、昭和から平成への切り替え時などと、決定的に異なる。天皇陛下崩御による自粛ムードがあったこれまでの改元と違い、今回は国民こぞってのお祝いムードが高まっている。

今、100歳の人でも、改元という時代の変わり目を迎える経験は、1926年の「大正」から「昭和」、1989年の「昭和」から「平成」、そして今回2019年の「平成」から「令和」の3回にすぎない。めったにない一大イベントと言えよう。

ゴールデンボンバーはさっそく新元号ソングを発売

すでに「平成」や「令和」にちなんだ関連商品、サービスもさまざまなかたちで出てきている。ゴールデンボンバーがさっそく“最速”目指して新元号ソング「令和」の制作風景をインターネット配信し、10日には一部店舗で先行発売した。旅行業界ではこれまでも「平成最後の伊勢神宮参拝」をはじめ、「平成最後の……」と銘打った企画が人気であった。

4月30日から5月1日にかけて、元号をまたぐツアーなども企画されている。4月1日の新元号発表に合わせた、「令和」の文字が入ったあめなどの商品も即日販売された。当面、改元記念の「コト消費」が増えそうだ。

社名に「令和」を入れた企業も30社を突破

東京商工リサーチは4月11日に新元号「令和」と同じ漢字表記を会社名に入れた企業が、全国22都道府県で32社になったことを明らかにした。法人登記が完了し、同日までに登記簿が閲覧可能となったものを確認したという。

新元号が発表された4月1日時点では、同社が保有する317万社のデータベースには「令和」が入った会社は1社もなかったという。新元号ブームに乗って、今後も新元号を入れた企業が増えそうだ。『万葉集』で大伴旅人が主催した観梅の宴の地が大宰府であったからか、福岡県が最多の5社だという。

期待される「令和婚」「令和ベビー」の増加

令和元年に合わせた結婚式や出産も増えるだろう。2000年は『ミレニアム婚』や『ミレニアムベビー』が話題となった。婚姻件数の前年比の推移をみると、99年▲2.9%、2000年+4.7%、01年+0.2%、02年▲5.3%、03年▲2.3%である。+4.7%の増加率は、1961年以降2018年の58年間で、71年+6.0%、93年+5.1%に次ぐ3番目に高い前年比である。

出生数の前年比の推移をみると、99年▲2.1%、2000年+1.1%、01年▲1.7%、02年▲1.4%、03年▲2.6%である。1999年から2018年の最近の20年間でプラスの伸び率になったのは4分の1の5年だけで、他は2006年+2.8%、08年+0.1%、10年+0.1%、15年+0.2%である。ミレニアム婚、ミレニアムベビーの影響が大きかったことがわかる。

昭和から平成への代替わりと異なり、今回の改元は事前にスケジュールがわかっていた。2000年当時と同じく、改元に合わせた令和婚や令和ベビーの誕生が期待できよう。またそれに合わせた個人消費の増加も予想される。

4月16日には、LINE、日本テレビ、アニプレックスが3社共同で、新時代における新たな才能を発掘する文学賞第1回「令和小説大賞」を開催すること発表した。

一部に景気後退の懸念も強まっているが、改元で消費者心理が明るくなることで、19年の国内景気や個人消費を下支えする効果が大きいだろう。

■景気ウォッチャーとはどういう人たちか

最近の「改元」の影響を内閣府の「景気ウォッチャー調査」を使って数値化してみよう。景気ウォッチャー調査は、「地域ごとの景気動向を的確かつ迅速に把握し、景気動向判断の基礎資料とすることを目的としている」(内閣府HPより)。「捉えどころのない世間の実感」を適格に把えるために「景気ウォッチャー調査」は、全国各地で景気に敏感な立場にある人々からの報告を、各地域のシンクタンクが分析処理するシステムになっている。調査対象の景気ウォッチャーは全部で2050人である。

景気ウォッチャーを選ぶに当たって、業種と地域という2つの基準を設け、それぞれの内訳のウエートを実際の民間の実態に合わせて決め、全地域の合計が日本経済の縮図になるように設計されている。

景気ウォッチャーの構成は約7割が、タクシー運転手、百貨店やコンビニ、家電量販店、スナック店長など、多くの消費者と接する家計動向関連。約2割が受注の動きなどがわかる企業動向関連。残り1割がハローワークや学校の就職担当など雇用関連である。地域の事情に詳しいシンクタンクが、景気動向をきちんと把握する能力と意欲があり、的確に説明できる人を厳選して選んでいる。

「景気ウォッチャー調査」の結果が景気動向を的確に表しているのは、使命感を持っている方が景気ウォッチャーになっていて、回答率が9割と高いことがポイントとなっている。

そのうち注目度が高い調査項目が現状・先行き・現状水準の各判断DI(ディフュージョン・インデクス)である。現状判断では3カ月前に比べ景気が「良くなっている」「やや良くなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」の5段階で評価してもらい、それぞれ「1」「0.75」「0.5」「0.25」「0」の点数を割り振り、加重平均して数値を算出する。指数は50が判断の分岐点となる。DIの数値は50が横ばいを表し、これを上回ると「景気が良い」、下回ると「景気が悪い」と感じる人が多いことを示す。

■改元に向けて月を追うごとに景況感の改善要因に

「景気ウォッチャー調査」では、先行き判断で「改元」にふれたウォッチャーが昨年10月の2人に対し、11月6人、12月17人、今年1月30人、2月は60人、3月は97人と月を追うごとに増えている。改元についてコメントで触れた人から、改元関連先行き判断DIを作ると10月は景況判断の分岐点と同じ50.0と中立だったが、11月70.8、12月55.9、1月63.3、2月63.8、3月は59.3で50を上回っている(図表3)。景況感の押上げ要因になっていることがわかる。

2018年10月~2019年3月調査:改元関連コメント集計

「ゴールデンウィークや改元などにより、一時的に景気が底上げされるとみている。その後も、夏休みや、消費税の引上げ前の駆け込み需要があるため、9月までは景気が上向くと見込んでいる」〔東北、旅行代理店(店長)〕、「今回は、天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位、改元と、崩御による時代の変化ではないので自粛ムードはなく、新時代の始まりという心理的解放感が良い刺激となり、消費税の引上げまでは、上向き傾向になると思われる」〔東海、その他飲食[仕出し](経営者)〕、「改元の影響でゴム印の注文が増加する」〔中国、一般小売店[印章](経営者)〕という「やや良くなる」という見方が多い。

その中、「改元のお祝いムードがどのように盛り上がるのか想像し難いことや、10連休中やその後にシステムや金融、経済に混乱が起きないか等、懸念が多く、マインドは上向かない。消費税の引上げ前の駆け込み需要も7月くらいまでは目立つ動きにならないだろう。」〔四国、商店街(事務局長)〕という慎重な見方も見られる。

現状判断で「改元」にふれたウォッチャーが10~12月は0人だったが、1月1人、2月は3人、3月は9人とこちらも月を追うごとに増えている。改元関連現状判断DIを作ると3月は55.6で50を上回っている。「法人においては、働き方改革、改元、消費税再増税を契機としたシステム再構築の需要が堅調である」〔東京都、通信会社(管理担当)〕というコメントがある。

なお「10連休」に関しては2月調査で現状判断の関連DIは68.8(同8人)、先行き判断の関連DIは58.0(回答者72人)、3月調査では現状判断DIは52.3(同11人)、先行き判断DIは55.5(同119人)である。こちらも多くのコメントがあり、なおかつ景気判断の分岐点50を上回っている(図表4)。

景気ウォッチャー調査によれば、景気ウォッチャーたちは天皇の生前退位、新天皇即位、改元という一大イベントが日本の景気にとってプラス効果が見込まれると判断していると言えよう。

2018年10月~2019年3月調査:10連休関連コメント集計表

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宅森 昭吉(たくもり・あきよし)
三井住友DSアセットマネジメント理事・チーフエコノミスト
三井銀行(現・三井住友銀行)で都市銀行初のマーケットエコノミストを務める。さくら証券チーフエコノミストなどを経て現職。パイオニアである日本の月次経済指標予測に定評がある。身近な社会データを予告信号とする、経済・金融のナウキャスト的予測手法を開発。その他、「景気ウォッチャー調査」などの開発・改善に取り組んできており、最近では政府の経済統計改革にも参画。「景気循環学会」常務理事。著書に『ジンクスで読む日本経済』(東洋経済新報社)など。

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(三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト 宅森 昭吉)

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