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「筋トレ後にステーキ」は大間違いな理由

プレジデントオンライン / 2019年5月2日 11時15分

筋肉を増やすにはタンパク質の摂取が欠かせない。これまではトレーニング直後にプロテインなどの高タンパクな食品をとるのが“常識”とされてきた。しかし、理学療法士の庵野拓将氏は「タンパク質の量は、筋トレ直後の食事だけでなく、筋トレ後の24時間を含めて計算する必要がある」という――。

※本稿は、庵野拓将『科学的に正しい筋トレ 最強の教科書』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「ゴールデンタイム」のプロテイン摂取はもう古い

一般的に筋トレ後の1~2時間は、筋肉のもとである筋タンパク質の合成作用が最も高まる「ゴールデンタイム」といわれています。そのため、筋トレ直後にタンパク質を摂取することが筋トレの“常識”と考える人も多いようです。

しかし、現代のスポーツ科学やスポーツ栄養学では、タンパク質摂取は「筋トレ後の『24時間』を意識しろ」といいます。そのエビデンスとなったのが、マクマスター大学のバードらによる研究報告です。

トレーニング経験のある20代男性を被験者として集め、レッグエクステンションを行わせた後、24時間後にホエイプロテインを摂取させ、筋肉のもととなる筋タンパク質の合成率を計測しています。その際、バードらはトレーニング強度と疲労度を基準に、被験者を3つのグループに分けて検証しています。

①高強度で疲労を感じるまで行うグループ(高強度+疲労あり)
②低強度で疲労を感じるまで行わないグループ(低強度+疲労なし)
③低強度で疲労を感じるまで行うグループ(低強度+疲労あり)

その結果、高強度、低強度ともにトレーニングを疲労が感じるまで行った①と③のグループは、24時間後の筋タンパク質の合成率が増加していました。一方、疲労を感じるまで行わなかった②のグループは、筋タンパク質の合成率がそれほど増加していませんでした。

■筋肉が成長するチャンスは24時間続く

この結果から、トレーニング強度に関係なく、疲労を感じるまでトレーニングを行えば、合成感度の上昇は24時間後まで継続することがわかります。その後、マクマスター大学は同様の検証を複数回行っていますが、いずれも「トレーニング後、1~3時間ほどで筋タンパク質の合成感度は最も高まり、以後は増大率が減退するものの、少なくとも24時間後まで継続する」ことを確認しています。

つまり、筋肥大の効果を最大にするためには、筋トレ直後だけでなく、筋タンパク質の合成感度が高まっている24時間で最適なタンパク質の摂取量を摂取することが重要になるのです。

■トレーニング効果を高める摂取量の計算式とは

では、「最適なタンパク質の摂取量」とはどのくらいなのでしょうか?

よく「1食当たり20gを目安に」といわれますが、現代のスポーツ科学やスポーツ栄養学では、「筋トレ後の1食当たりの最適なタンパク質摂取量は、年齢、体重、トレーニング内容によって決まる」と考えられています。

2009年、カナダ・トロント大学のムーアらは、体重の異なる20代の若者と70代の高齢者を集め、レッグエクステンションを行った後に0~40gのタンパク質を摂取させ、筋タンパク質の合成率を計測しました。

その結果、筋タンパク質の合成率が最も高まる摂取量、すなわちタンパク質の最適な摂取量は、「年齢」と「体重」によって違いが生じることがわかりました。また、ムーアらはこのとき得られたデータを解析し、「1食当たりの最適なタンパク質の摂取量」を考える際に役立つ係数を導き出しています。

◎20代の若者は、体重1kg当たり平均0.24g(0.18~0.30g)
◎高齢者は、体重1kg当たり平均0.40g(0.21~0.59g)

(※係数は平均値を示しており、カッコ内は最小値~最大値を示しています)

例えば、この係数をもとに、体重60kgの20代の若者がトレーニング後に摂取すべき最適なタンパク質量を計算してみると、

「係数の平均値0.24g×体重60kg=14.4g」となります。

一方で、高齢者の係数は若者のそれと比べて数値が大きくなっています。これは、加齢に伴って筋タンパク質の合成能力が低下する「合成抵抗性」が考慮されているからです。

■タンパク質量はトレーニング内容によって変える

なお、ムーアらの報告はレッグエクステンションという「単関節トレーニング」によって得られたデータです。

庵野拓将『科学的に正しい筋トレ 最強の教科書』(KADOKAWA)

では一方で、スクワットやベンチプレスといった「多関節トレーニング」では、1食当たりのタンパク質摂取量は変わるのでしょうか?

この問いに答えたのが、スターリング大学のマコトンらの研究報告です。

20代のトレーニング経験者(平均体重70kg)を対象にして、スクワットやベンチプレスなどの多関節トレーニングを10回3セット、疲労困憊になるまで行わせました。トレーニング終了後、2グループに分け、一方はホエイプロテインを20g、もう一方は40g摂取し、3時間後と5時間後の筋タンパク質の合成率を計測しました。

その結果、40g摂取したグループのほうが筋タンパク質の合成率が増加していたのです。

ムーアらが示した係数を踏まえれば、体重70kgの20代の若者が必要とするタンパク質の摂取量は、平均値で16.8g、最大値でも21gとなります。しかし、マコトンらの報告では、同じ体重70kgの20代の若者でも、より激しい多関節トレーニングを行った場合は、40g摂取したほうが筋タンパク質の合成が高まっています。

これら一連の報告を受けて、現代のスポーツ科学やスポーツ栄養学では、タンパク質の摂取量はトレーニング内容の違いによって変わるとしているのです。

つまり、単関節トレーニングを行う場合は、ムーアらが示した係数を活用し、必要なタンパク質の摂取量(A)を割り出します。多関節トレーニングを行う場合は、トレーニング内容の違いを考慮した差分として、(A)に10g程度プラスする、という形です。

例えば、体重70kgの20代の若者がベンチプレス、スクワットなどの多関節トレーニングを行った場合、必要となるタンパク質の摂取量は、ムーアらが示した係数が示す摂取量16.8gに10gプラスした合計26.8gが、最適なタンパク質摂取量の目安となります。

■筋肉を大きくするには「24時間」を意識すること

ここまで、1食分の最適なタンパク質の摂取量について考えてきました。しかし、筋トレによる筋タンパク質の合成感度の上昇は24時間継続しています。では、24時間あたりの最適な摂取量はどのくらいなのでしょうか?

参考になるのが、マクマスター大学のモートンらが2017年に報告した筋トレとプロテインに関するメタアナリシスです。報告では、24時間の最適なタンパク質摂取量の係数を導き出しています。

それは「24時間で体重1kg当たりの平均値1.62g(最小値1.03~最大値2.20)」というものです。例えば、体重70kgの若者であれば、24時間で平均値113.4g(最大値154.0g)が最適な摂取量になります。

では、「体重70kgの20代の若者」を例に、筋トレ後の24時間でのタンパク質の摂取パターンをシミュレーションしてみましょう。

まず、モートンらが示した係数で計算すると、24時間における最適なタンパク質摂取量は113.4gとなります。

一方、ムーアらが示した係数で計算すると、1食当たりの最適なタンパク質摂取量は16.8gとなります。さらに、一般的な筋トレは多関節トレーニングが中心となるため、ムーアらの単関節トレーニング由来の数値に10gをプラスし、1食当たりの摂取量は約27gとなります。

夕方にトレーニングを行った場合、その後の夕食で27gのタンパク質を摂取します。さらに、寝る前にプロテインで35gを摂取して、翌日の朝食と昼食に27gずつ摂取すると筋トレ後の24時間におけるタンパク質摂取量は116gとなります。

たとえば、牛ヒレステーキ(100g)に含まれるタンパク質は約21gなので、24時間で約6枚も食べる必要があります。筋トレのたびに食べるのは難しいので、プロテインなどタンパク質を効率よく摂取できる食品を利用することになるでしょう。

モートンらが示す係数、ムーアらが示す係数で若干の差異はありますが、こうした現代のスポーツ科学とスポーツ栄養学が示すエビデンスを活用すれば、1食当たり、さらに24時間の最適なタンパク質摂取量を導き出すことができます。

筋トレの効果を最大化させるためには、筋トレ後の「24時間」を意識して、自分に合ったタンパク質の摂取量を摂取していきましょう。

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庵野拓将(あんの・たくまさ)
理学療法士、トレーナー、博士(医学)
大学院修了後、大学病院のリハビリセンターに勤務。けがや病気をした患者やアスリートのトレーナーとして、これまで延べ6万人の体づくりに携わってきた。大学病院では、世界最先端の研究成果を現場でのトレーニングにフィードバックするため、研究発表、論文執筆も行っている。筆名・庵野拓将として、筋トレ、スポーツ栄養学をはじめとする最新の研究報告を紹介するブログ「リハビリmemo」を主宰。

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(理学療法士 庵野 拓将)

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